第47話 ハチ王子空を飛ぶ
「よし、よく見つけたドラゴン。静かに着陸できるかい?」
ドラゴンは、狩野の背後すこし離れた場所に着陸した。
狩野はまだ気が付いていない。
「この木、堅いなぁ。なんの木だろ・・・栗の木?
・・・あぁ、はいはい、そういうことね。
ジュリアさんが用意した資材っていうのは、これね。
この木が堅いから柱に使えと、
そういうことか、僕は完全に理解したぞ」
後ろから声をかける。
「それ、気になる木なんじゃないっすか?」
こっちを振り向いた狩野は腰を抜かすほどの悲鳴をあげた。
「うわああああああああ!びっくりし・・・うわあああ!
びっくりしたぁ! 最上ぃ、ここでなにやってるんだよ!
ちょっと! いつから、そこに立っていたんだよ!」
「ドラゴンに乗ってさっきここに着陸したばかりだよ」
「うおおおおお! なんで? なんで?
ドラゴンがここにいるんだよぉ! ヤバいじゃん」
「これ、俺のマイカーだから。これでどこへでも行けるよ」
「え、ドラゴンをマイカーにしたの? お前。マジで?」
「凄いだろ。これで第5層界の全体を見てみようとおもってさ。
まだ飛び始めたばかりなんだけどね。
ところで、ジュリアはどうした? お前振られたのか?」
「違うよ。ジュリアさんは一旦ロスに帰ったんだよ。
振られるとか、そういう関係じゃないっすから。
ジュリアは依頼主、ぼくは請負人。
とりあえず、俺は厩を作る準備をしてるところ・・・・
・・・・ん?ドローン飛んでるぞ
これって、今配信中か? 僕、写ってるの?」
「配信中でーす。ハヤブサ・チャンネルをご覧のみなさん、
とあるダンジョンからお送りしていまーす。
こちら、カリノでーす。大工仕事中でーす」
「おい、お前、配信に出ても平気なのか。
・・・・あ、カリノでーす。お元気ですかー」
二人で上空のドローンに向かって手を振った。
ハヤブサがヘッドフォンで俺に通信してきた。
「おいおい、おいおい、二人で手を振っている映像はいらない。
狩野君を驚かせて遊んでいる場合か。
彼は配信中と思ってなかったから、
君のことを最上って本名で呼んでいたぞ。
身バレが怖いのなら、いたずらはやめなさい。
早く飛んで上空の映像を見せてくれ」
「あ、そうだった。すみませーん。
じゃあな、カリノ、がんばれよ」
俺は、ドラゴンに乗ってふたたび上空へ舞い上がった。
「つい、いつものノリで狩野をからかって遊んでしまったな。
さて、本来の仕事に戻ろう。」
ドラゴンは、さらに北に向かって飛んでいる。
地上の様子は、さっきと変化がなく、同じような荒野が続いているだけだ。
「最上君、川を見つけたら、下流に行って見てくれ」
「了解。川ですね。・・・あ、ありますね川。
わりとデカいです。デカい川がありました」
「もしかしたら、海につながっていないかな」
「ああ、行って見ますね」
空は透き通るほど青い。
頭に巻いている包帯が、風で少しずつ緩み始める。
吹き付ける風はついに包帯を吹き飛ばした。
一反木綿のように、ひらひらと包帯は地上に落ちて行った。
「あ、包帯落ちた」
落ちた包帯は、地上にいた人間に拾われた。
拾った人は男性で、白い髪と髭で壮年にみえる。
そのおじさんが立っている周辺には、いくつものキャンピングカーが止まっている。
家はない。
同じような年齢の探索者たちが、ここに小さな村を作っていた。
おじさんは、包帯を手にして上空の俺を見つけ、手を振ってきた。
「すみませーん。落としちゃいましたー。あとで取りに来まーす」
「最上君、さっきの人たちはここに住んでいるのかな」
「わかりません」
「リタイアした高齢探索者たちが集まっているように見えたな」
さらに、川の流れを追って進むと、風に変化があった。
潮の香りだ。
近くに海がある可能性が大きくなった。
「ドラゴン西へ、西の方へ向かってくれ」
ドラゴンは大きく左に旋回して、西へ方向転換した。
西の向こうのほうが横一線に太陽の光が反射して輝いているのが見えた。
近づいていくと、光を反射していたのは波で、一面に真っ青な海が広がっていた。
「見つけました。海ですー。海が広がっていますー」
「陸と海の境目の形状がわかるかな」
「えーーーと、ここからだと、断崖絶壁ですね。波が岩肌にぶつかってます」
眼下は、半島の岬のような岸壁が海に浸食されている風景。
波が激しく打ち付けて、白い泡になってまた海に消えていく。
ここから直接降りられるような場所はない。
ここは海流が荒いのかもしれない。
岸壁に巣があるのか海鳥たちの楽園になっているようだ。
岸壁から視線を海に戻すと、
「ハヤブサさん、見えますか? あれ、船じゃありません?」
「船だな。見たところ小型貨物船にみえるが、どこの船だろう」
「ちょっと、ここからは細かいところまで見えません」
停泊しているのではなさそうだ。小型貨物船のようにも見える。
座礁したのだろうか。
人がいる気配はなかった。
無事にボートで上陸したのか、それとも遭難したか。
「最上君、それ以上沖の方に行くのはよせ。
可能な限り海岸線を飛びながら戻ってこれるかい?
ドラゴンだってガス欠じゃないけど、疲労で飛べなくなるだろう」
「了解しました」
時間があれば、一周回って地形を確認したいところだったが、ドラゴンが疲れて飛べなくなったら大変だ。
ハヤブサの言う通り、海岸線を飛びながら小屋に戻ることにした。
そろそろ、東側に旋回したほうがいいかなと考え始めたころ、
「ハヤブサさん、浜です、砂浜を見つけました。たぶん、ここを東に行くと小屋に戻れると思います」
意外にも、俺の、いや俺たちの小屋の近くに海岸があった。
しかも、白い砂浜が広がっている。
波は穏やかに砂浜に寄せては返し、寄せては返し、
南国リゾートのような海岸が広がっていた。
「最上君、いいねえ。
ここの小屋からでも、すぐに海に行けそうだな。
よし、了解。戻ってきてくれ」
「了解しました。ドラゴン、俺の家まで戻ってくれるかい」
ドラゴンは大きく旋回して、陸地が続く上空を飛んで行く。
右を見ると鉱石が採れるドラゴンの山、続いて野生の馬が生息している草原、
いつも見慣れた風景が見えてきた。
小屋の前で、ハヤブサが手を振り、トレスチャンは枝を揺らしている。
ドラゴンはゆっくりと畑の横につけて着陸した。
「ドラゴン、ご苦労さん。助かったよ、ありがとう」
ハヤブサはドローン回収しスマホをはずした。
「みなさん、ハヤブサです。
突然の配信にもかかわらず大勢の方にアクセスしていただきました。
どうもありがとうございます。
ナビゲーターはハチ王子、ゲスト出演はカリノでした。
ではまたー。さようならー」
スマホの配信アプリをオフにしたことを確認してから、俺に近づいてきた。
「やったな、最上君。大発見だ」
ドラゴンにオオバを与えながら、俺は気になっていたことを口にした。
「やっぱり、俺たち以外にも住んでいる人はいましたね。
それと、あの船に乗っていた人たちはどうなったんでしょう。
助からなかったとしても気になるし、上陸したとしても気になるし」
「それは、まだ何とも言えない。
わかったことは、北の方は海流が荒いが、
高齢探索者たちが、コロニーを形成していること。
南側の海は比較的穏やかだということ。
そして、ここからそう遠くないところに砂浜があるということ」
それだけ情報があれば、今後の快適化計画は大きく進みそうだ。
ドラゴンが来てくれたおかげだ。
俺がドラゴンの頭を撫でてやると
グルルルル・・・と顔を擦り付け甘えてきた。
こいつ、かわいいじゃん。
「あともうひとつだけ確認いいですか?」
「なんだね最上君」
「今日の配信ってアーカイブに残します?」
「残さない方がいいか?」
「できれば」
「貴重な映像だから、これは削除できないな。
いや、むしろすべきでない」
「・・・そうですか。
俺の本名を呼ぶところが入っていて嫌なんだけど」
「だから言ったろ。
勝手に、狩野君のところへ行く君が悪い」
「はい、その通りです」
「そんなにしょげるな。非公開にすればいいんだろう」
「できるんすか?」
「君、探索者なら配信の基礎ぐらい学びたまえ」
「すみません」
そうか、非公開という設定があるのか。
助かった。
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