第45話 そば畑に種を撒こう
満天の星空の下、ハヤブサは言った。
「この第5層界は、世界中にあるダンジョンからの通路が集中していて、人や物を移動させる拠点になっているのではないか」
「難しい説明だなぁ。眠くなっちまう」
狩野が大きなあくびをした。
おい、周辺の空気を全部吸うんじゃない。
「わかりやすくいうと、例えるなら飛行場。
第5層界はハブ空港みたいなものなんだよ」
俺にもハヤブサの言っている意味がわからない。
そもそも、ハブ空港とは何なのか。
「ハブ空港って?」
「一言で言うと、目的地まで中継する役割を持った空港だ」
「はあ」
「つまり、ここは他に目的地であるダンジョンに中継する役割を持ち、
しかもセーフティーゾーンなんだ。
ここを経由したら、海外のダンジョンにも行ける。
探索者にとってハブ空港みたいな存在になっているんだ」
ハヤブサの説明を聞きながら、俺も狩野もそのまま寝落ちしてしまった。
*
翌朝、
俺は桜庭から頭の傷のヒーリングを受け、包帯を巻き直してもらっている。
頭の中で昨夜のハヤブサの話を思い出しながら。
ハブ空港のようなダンジョンか。
なんとなく、鋭い視線を感じて横を向いた。
「動かないで最上君。
じっとしてくれないとうまく巻けないでしょ」
この様子を、他の女子2名にじっと監視されていた。
「あずさ、目を離した隙にハチ王子に接近しようとしてもダメだからね」
「傷の手当をしているだけよ」
そんな彼女たちは三人とも寝不足ぎみの顔をしていた。
「ユズリハ、顔がむくんでいるわよ」
「ジュリアだって、むくんで顔に枕の跡がついているわ」
「やだ、わたしもむくんでるの?
美容に良くない事しちゃったわね。
深夜まで恋バナ談義なんてしたからだわ」
「お互いにね。ふふふふ」
昨夜は一晩中恋バナに花が咲いたらしい。
仲良くなったのなら、顔がむくんでいたっていいじゃないか。
桜庭あずさはバイトがあるからと言い、ユズリハは東京に帰る新幹線を予約してあると言って、二人とも地上へ帰って行った。
ジュリアは家の建築を、狩野に頼みたいと言ってきた。
「そうですねぇ。家を建てるには土地を決めなくちゃ。
出来ればですね、平たんな土地で川や木がすぐ近くにあれば、
水や食料に困りません。
それから、ロサンゼルスへと繋がっている洞窟の近くがいいですよ。
駅に近い物件は、便利ですし、資産価値も下がりませんから」
俺と比べてなんでも知っている狩野に、改めて感心した。
「狩野ってそんなことにも詳しいんだ。すげえな」
「実家を手伝っているからね。
ジュリアさん、どこか希望あります?」
「じつは、もう目ぼしい場所を見つけてるの。
そこにある程度の資材は確保してあるのよ」
「そうなんすか? じゃあ、話は早い。
それを先に行ってくださいよ。俺の熱弁が無駄に・・・・」
「いいえ、無駄じゃないわ。
君の話を聞いてわたしの選択は間違ってなかったと確信できた」
「じゃ、そこを見に行きますか。
現地を見ないと設計できないし」
「OK、わたしの馬マロンで一緒に行きましょう。
帰りは君がマロンに乗って、ここの厩に連れてきていいわよ」
「マジっすか? 行きましょう、行きましょう」
「狩野、お前ずいぶん張り切っているじゃないか」
「バカ、仕事だよ、仕事!」
ジュリアと狩野を見送ったあと、しんと静かになった部屋から
俺は小屋でのんびりと窓の外を眺めていた。
畑の方に視線を移すと
ハヤブサが執事のトレスチャンと何か会話している。
まめに動く人だなぁ。
ハヤブサの言っている声に、「そば畑」という単語が聞こえてきた。
そば畑を作るなら、誘ってくれよ。
俺も参加したくて外に出ると、ハヤブサの話に参加した。
すでに、新しい畑は耕し終わっていた。
働いているのはミニトレントたちだ。
「よーし、耕したら次は種まきだ。
トレスチャン、これくらいの幅で、筋を掘ってくれ」
ハヤブサは両手で50センチほどの幅を作り、指示していた。
トレスチャンは、言われた通りに3本の枝を伸ばし、間隔が50センチになるように畑に筋を引いていく。
「そしたら、この筋に種をまく」
「何故、筋にまくの?ばらまきしても同じじゃないの?」
「ばら撒きしたら、刈り取りが大変だろ。
手で狩るのなら列になっていた方が楽に刈れる」
「なるほど、ハヤブサさん。
いろんなことを知っていてすごいや」
「実は、種をもらった知人に教えてもらった」
花巻のそば名人に教えてもらったのなら安心だ。
「俺も種まきしたい。いい?」
「みんなでやろう。ミニトレントも手伝ってくれ」
ミニトレントたち5人も一緒に種まきに参加した。
背が低い彼らは、中腰になる必要がないから楽々と種をまいていく。
彼らの仕事ぶりは早い。
「種をまいたら、足をつかってもいいから軽く土をかけてくれ。
これもみんなでやろう」
「おまかせください」
トレスチャンは畑を踏みつぶさないように注意しながら、ミニトレントたちは足を使って、俺は鍬を持って軽く土をかけていった。
「早いな。ハヤブサさん、もう出来上がっちゃいますよ。
最後に水やりします?」
「地植えならほぼ天気にまかせてかまわない。」
「へえ、そうなんだ」
トレスチャンとミニトレントたちの協力で、そば畑はあっという間に出来上がった。
「お疲れさま。みんなよく働いてくれたね。ありがとう」
「ミニトレントたち、シャワーだよー」
俺は貯水槽からじょうろに汲んできた水をかけてあげた。
みんなキャッキャと喜んで枝葉を揺らしながら飛び跳ねてシャワーを浴びている。
「トレスチャンもシャワーを浴びるか?」
「わたくしは結構でございます。
が、ちょっとだけかけてくだると嬉しいです・・・」
「遠慮すんなよ。行くぞ!」
トレスチャンにもじょうろで水をかけてやった。
「おお、いいんですか? 嬉しゅうございます」
ハヤブサがおれの肩をつついてきた。
「おい」
「いいじゃないですか。
ちょっとオーバーに水をかける位でトレスチャンはちょうどいいんですよ」
「おい、そうじゃない。
あれを見ろ。なにかこっちに向かって飛んでくる」
「はい?」
「ドラゴンだ! ドラゴンがこっちに向かって飛んでくる!」
ハヤブサが指さした先を見ると、黒いドラゴンが小屋を目指して向かってきていた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ってくださったら
下にある☆☆☆☆☆から、
ぜひ、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、
正直に感じた気持ちでちろん結構です!
ブックマークもいただけるとさらに泣いて喜びます。
何卒よろしくお願いいたします。




