第44話 キャンプファイヤー
狭い。
俺が作った小屋・・・そうコテージなんて立派なものではない。
俺を入れた6人が、この小さな小屋で夕食を食べようと集まったのだから狭いのは当然だ。
そこで、ハヤブサは立ち上がって提案した。
「全員、外に出よう。キャンプファイアーだ」
「ハヤブサさん、それナイスですね。僕がテーブル運びましょうか」
ハヤブサの提案に喜んでテーブル運びをすると手をあげた狩野だったが、
「いや、その必要はない。キャンプ用折りたたみ式テーブルを持ってきた」
ハヤブサは最初からダンジョンに来ることを想定していたのか、準備がいい。
「さすがっすね。じゃ、僕は火をおこします」
狩野は火をおこす準備を始め、ハヤブサはテーブルを出す。
俺だって夕食を運ぶぐらいできるぞと、鍋を持ったらジュリアに断られた。
「まだ重いもの持ったりしちゃだめだよ。少年は、食器運びにしな」
「まるで病人扱いだな」
「けが人だし、似たようなものよ」
ここはおとなしく素直な良い子になろう。
さっきまでの女子のバトルに俺はまったくついていけなかった。
男子というのは、女子の尻に敷かれるくらいで丁度いいのだと、高校生にして早くも悟った。
空が暗くなる直前、黄昏時の空に一番星が輝いていた。
汁物を入れたボウルから、カツオだしの麺つゆの香りが昇る。
かけ蕎麦だ。
ハヤブサが花巻から持ってきたわんこそばが夕食に出された。
俺の家族用と、第5層界用に大量に買い占めてきたという。
「いいんですか、こんなにいただいちゃっても」
「実はね、ここにそば畑を作ろうと思ったんだよ。
最上君は米を作りたいと思っているかもしれないけど、
この土地で水田は難しそうだからね。
でも、君は日本食を食べたいだろ?
蕎麦ならやせた土地でも栽培できるぞ」
「へぇ、いいですね。
でもソバの実なんてどうやって手に入れるんですか」
「わたしが、花巻の知り合いからもらってきた」
準備万端じゃないか。
何から何まで、先読みして行動している。
「お兄ちゃん、話はそれくらいにしてよ。
お腹すいちゃったわ」
「ごめん、ごめん。早く食べようね、あずさ」
妹のツッコミだけは、先読みできないようだ。
「では、みなさんでいただきましょう。
家主の最上君、号令を頼む」
「家主? 俺が?」
「少年、早くして。お腹ぺこぺこだわ」
「は、はい、では・・・いただきます!」
いただきます!
全員で割りばしを持って、蕎麦をすすった。
畑のキュウリは浅漬けに、トマトはサラダに、カボチャは煮つけに。
そして、狩野が狩った獲物は・・・・
「狩野、狩りに行ったんだよな。獲物はどこだ?」
「獲物はこれだ」
クーラーボックスから出てきたのは、鮎だった。
「あれ? 釣りに変更したのか」
「ハヤブサさんが、和食にするから川へ行こうって」
「バーベキューは次の機会にしようと、わたしが言った。不満かな」
「いいえ、これがいい。俺はこれで嬉しいです」
狩野はキャンプファイアーに鮎の串刺しを、次々に立てていた。
何匹釣ったのだろう。
「自然保護のため、人数分しか取ってないから安心しろ」
狩野の日焼けした顔が、キャンプファーに照らされて笑っていた。
「美味しいわ。いいだしが出てる。
あずさって料理できるのね。意外だわ」
「ユズリハったら、意外って何よ。
わたしは最上君のお母さまから料理を教えていただいてるの」
「何それ、自慢?
バイト先がハチ王子の家だからって、可愛くなーい」
「自慢じゃないわ。事実を言っただけ」
バチバチが始まった。
話題を変えさせようと、俺は提案した。
「せっかく、みんなで集まったのだから楽しい話をしないか」
「楽しい話? 何それ。恋バナとか」
狩野、お前、空気を読め。
「いいじゃん、面白そう」
ジュリアまで!
「わたしは恋バナに興味はない。そんなことよりも・・・」
さすが、ハヤブサかっけー!
「そんなことより、鮎が食べたい。そろそろ焼けただろ狩野君」
「そうっすね。いきますか?ハヤブサさん」
男子は恋バナより食い気のほうが勝っていた。
焼きたての鮎にかぶりつく。
これだよ、これ!
俺は小骨に気を付けながら、きれいに食べていく。
「少年、君は野生児だね」
「爺ちゃんと暮らしていると自然にこうなっちゃって」
「おもしろい。それでこんな少年ができるわけね」
桜庭は小骨があって食べられないと言い、そんな妹のためにハヤブサは丁寧に小骨とりをしていた。
狩野も丸ごとかぶりつく派だった。
「最上から言えばいいじゃん、面白い話。
お前が言い出しっぺなんだし」
「俺かぁ・・・・」
俺は考えこんでしまった。
面白い話をしようとは言ったが、あれは女子のバチバチするのを止めるために思い付きで言っただけだった。
「わたし、少年に聞きたいことがある」
「なんです?」
「エバンスの業務提携を断った理由。それが知りたいわ。
ねえ、ハヤブサも知りたくない?」
「わたしは、なんとなく察しがついているが」
「わたしは聞きたいわ。
だって、少年はエバンスに聞かれて稼ぎたいって答えたんだって?
エバンスがわたしに教えてくれたわよ。
頼みもしないのにわざわざ電話でね」
「えーっとぉ、俺の稼ぎたいと、エバンスの稼ぐとは違うような気がしたんだ」
「どう違うの」
「うーん、どう言えばいいのかな。・・・そうだ、蕎麦屋だ。
誰かに笑顔で美味しかったって言ってもらえるような商売。
普段は別に目立つような店じゃないけれど、
蕎麦屋に入ると安心するだろ。
そんな蕎麦屋みたいな存在になりたいんだ。おれの稼ぐはそれなんだ」
「最上君、いいね。わたしも最上君の夢に賛成だ。協力しよう」
「ハヤブサさん、そんな言葉もったいないです」
「そうだな、とりあえず・・・
わたしの知り合いの蕎麦屋に弟子入りするか?
わんこそばで有名な店だぞ」
「え、なんでそうなるんですか」
「冗談だよ」
狩野が立ち上がって、真っ直ぐ俺の目を見て言った。
「それ、僕も協力できます。
建築、設計なら狩野工務店。僕は建築家の息子です。
家を建てるなら、設計から建築まで僕におまかせください」
「え、 狩野ってそうなの?」
「だから、これは土方焼けだって言ったじゃん」
ジュリアは笑いながら手を叩いた。
「わたしも、エバンスの稼ぐより少年の稼ぐに賛同するわ。
実はわたし投資家なの。エバンスも投資仲間なんだけど、
あいつには辟易してたところなんだ。
ねぇ、ハヤブサ。
わたしも協力したいから、こっちの仲間に入れてもらえるかしら」
「わたしが決定することではない。最上君に聞いてくれ」
すると、桜庭が立ち上がった。
「お兄ちゃん! 調理部門と医療部門は、おまかせください。
わたしも最上君の夢に協力するわ。いいでしょ、お兄ちゃん」
「すばらしい!すばらしいよ、あずさ。
あずさが望むならきっと最上君も喜ぶよ」
ジュリアに言ったことと温度が違うんだが。
それを聞いたユズリハが負けじと立ち上がる。
「わたしだって、協力するわ」
「あら、東京校の生徒がどうやってここのダンジョンに通えるのよ」
「うっ・・・・じゃあ、2学期から東北分校に転校するわ!」
「冗談でしょ」
「本気よ。あずさとジュリアに先を越されてたまるもんですか!」
まさか転校はしてこないだろう。
売り言葉に買い言葉だ。
ハヤブサと狩野は女子の喧嘩に巻き込まれないように、そそくさと片付けをはじめていた。
そんな女子たちだが、夜は仲良く小屋で寝ることになった。
男子は外で寝袋に入って野宿だ。
キャンプファイアーの火を消すと、辺りは真っ暗になっていた。
暗闇に目が慣れてくると、実は満天の星空が広がっていたことに気がつく。
「なんじゃ、こりゃあ。こんな星空みたことがない!」
狩野もハヤブサも星空を見上げて驚いていた。
ダンジョンなのに、宇宙が広がっているのは不思議だ。
ここは、もしかしたらもうひとつの地球なのかもしれない。
だとしたら、もうひとつの地球も自然環境を壊さないような方法を模索していきたいね。
満天の星空を見上げながら、そんな話を俺たちは夜更けまで話していた。
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