第42話 コテージに行こう
ペンション白鷺のロビーは、そんなに広くはない。
チェックインのお客様の邪魔になるといけないからと狩野とハヤブサは外のテラス席にいた。
彼らがここに着いた時間帯はチェックインでごった返していた。
俺はテラス席にいる狩野とハヤブサにウエルカムドリンクを運んでいる。
「アイスコーヒーでいいっすか?」
「悪いね、最上君。けが人に運ばせちゃって。
狩野君、君は暇だろう。手伝いたまえ」
「へ? 僕が?」
「あずさを見たまえ。上手にフロントで接客しているじゃないか。
ああ、なんて可愛いんだ。わたしの妹は・・・」
「ハヤブサさんも、フロントへ行って一緒に手伝ったらいいじゃないですか」
狩野が冗談半分で、ハヤブサをからかった。
「そうか、そうだね。行ってくる」
「冗談です!」
俺と狩野は、ハヤブサを必死に引き留めた。
「わたしも半分冗談だ」
俺と狩野はほっとして引き留めていた手を緩める。
でも、半分は本気だったのか。
「ところで、せっかく来ていただいたのに、
うちは満室なんで、どこかホテルを紹介しましょうか」
狩野は、にやりと笑って俺を見る。
何? 気持ち悪いやつだな。
日焼けして、ますます怪しいやつに見えるぞ。
「あるじゃん、スペシャルなコテージが。
秘密のダンジョン第5層界に。
温泉付き、畑付き、星空を眺めて宿泊できるコテージが」
「それは名案だね。
だけど、今日退院してきたばかりの最上君は行けるのかい?
ムリして外泊なんか、絶対だめだろう」
「僕、知ってますよ、行き方。
なんなら、最上抜きでコテージに泊まりませんか?」
狩野の名案に、ハヤブサさんはちょっと顔を曇らせた。
確かに、狩野は第5層界への行き方を覚えているから出来ない話ではない。
だが、完璧執事トレスチャンの存在を彼は知らない。
「俺抜きで行くと、
俺の小屋を守っている執事に捕まって木に吊るされるぞ」
「意味わからないんだけど」
「ああ、そうだってね。エバンスから話は聞いたよ。
『主が留守中に、さいじょうの館に近づくと、
樹木のトレントに捕まってと吊るされる』
そう言って怖がっていたよ。君の執事なんだって?」
「聞いてましたか」
「僕の知らない間に、トレントを執事にしたのか」
話せば長くなるから、事情は現地でと言いたいところだが・・・
そう、おれが小屋に行けば問題ないのだ。
あとは、母さんをどうやって説得するか。
そんなことを考えながら、テラス席で彼らと一緒にアイスコーヒーを飲んでいると、駐車場の方からやってくる女の子が見えた。
お客様かな。
「ちょっとぉ、荷物を運んでくださるぅ?」
どこかで見たことがある子だ。
その子が誰であるか、真っ先に気が付いたのは狩野だった。
「あ、ユズリハさん! 僕が、僕が荷物をお持ちします」
「あら、あなた、なんでここに居るのよ。
ここでアルバイトでもしているの?」
「いや、僕はたまたま来ただけで、バイトしてるのは桜庭です」
「桜庭?」
狩野に荷物を持たせてテラス席まで来たユズリハは、何故か不機嫌そうな顔している。
だが、俺を見ると表情が驚きに変わった。
「ハチ王子! 頭に包帯巻いて・・・
あの桜庭が言ってたことは本当だったのね」
「あ、ども。久しぶりです」
「お嬢さん、わたしは始めましてだね」
「ハヤブサさん! キャッ、本物のハヤブサさん?
初めまして、わたしユズリハといいます」
「知っているよ。アイドル系人気配信者のユズリハ君だね。よろしく」
「こんなところで、ハヤブサさんに会えるなんて光栄です。来てよかったわ」
ユズリハは感激しながら、一緒に写真撮影してくださいと言ってスマホを取り出し、狩野に手渡す。
ハヤブサの隣で、愛くるしい表情を作ってカメラ目線でポーズをとっている。
何しに来たんだ、この人は。
「ところで、なにか御用ですか」
「あら、ごめんなさい。
わたしったらハヤブサさんに会えてすっかり舞い上がっていたわ。
御用もなにも、ハチ王子が心配でやってきたのよ。あなたに会いに」
さっきまで、ハヤブサと写真撮影しながら舞い上がっていたのは誰だ。
よく、『あなたに会いに』なんて言えるものだ。
「よくここがわかりましたね」
「わたしを誰だと思っているの?
わたしのファンの中に東北分校の子がいて、聞きだしたのよ。
寮から通っていない変わり者のハチ王子で通じたわ」
変わり者は余計だと思う。
でも、ハチ王子で通じたんだ。
「ちょうどよかった。
僕たち、ペンションが満室だから
コテージに泊まろうよと話してたんだよ。なあ、最上?」
「狩野君、最上君はまだ行くと返事していないだろ。
それに、彼がいないとコテージには行けないから、
それはまだ決定事項ではない」
「はーい、すみません」
「コテージがあるの? いいわね、行って見たいわ」
狩野が口を滑らすから、コテージが見たいと言い出した。
どうするつもりだ狩野。
俺は知らないからな。
すると、ハヤブサがテラス席の椅子から立ち上がり、荷物を持ってペンションの中に入ろうと歩き始めた。
そして振り向いて言った。
「最上君、わたしにまかせなさい。
あずさの分も一緒に外泊許可もらってくるから」
ハヤブサはフロントで忙しく働いている桜庭に向かい、誰かを呼んでもらっているようだ。
フロントでのやり取りをガラス越しに俺はずっと見ていた。
もちろん、音は聞こえないから、何を言っているのかはわからない。
その様子はまるで無声映画のようだ。
しばらくして、爺ちゃんと母さんがフロントに顔を出した。
何やらハヤブサと話をしている。
ハヤブサは荷物の中から箱を取り出して、母さんに渡している。
母さんは戸惑いの表情をみせていたが、桜庭が手を合わせて何かお願いをしているようだ。
ハヤブサも桜庭も、兄妹そろってペコペコと頭を下げてる。
爺ちゃんが笑いながら母さんに何か言っている。
やがて、母さんがしょうがないわねとでも言っているようだった。
桜庭は喜んで爺ちゃんと母さんにしがみついている。
ハヤブサは丁寧にお辞儀をしてから、桜庭の頭を撫でている。
無声映画終了。
ハヤブサはペンションから出てきて言った。
「外泊許可もらってきたよ。
わたしが最上君に無理をさせない、何かあったらわたしが責任をとる
と言ってきた。
だから、最上君は道案内だけだ。決して無理はするな」
「本当にいいんですか? 俺、行っても」
「なんだい? 行きたくなかったのかい?」
「行きたいです。行きます。ハヤブサさん、ありがとうございます!」
「なら、決まりだ。あずさがバイトからあがったら出発するぞ」
狩野と俺はお互いに腕を交互にぶつけあって喜んだ。
「それに、わたしは入っているんでしょうね」
ユズリハがはしゃいでいる俺たちをにらむ。
忘れていた。
はて、入ってるんでしょうかね。
「もちろん、君も一緒だ」
ハヤブサは、そう言ってグラスに残っていたアイスコーヒーを飲みほした。
この人って、何をやってもかっこいい。
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