第4話 登校リアルタイムアタック
朝起きて、ロフトベッドから梯子を踏み外さないよう慎重に下に降りる。
眠い目をこすりながら、窓のカーテンをサーっと開けると、空は透き通るほど晴れていた。
祖父母が経営しているペンションの窓から見えるこの景色。
今朝も瑠璃色に輝く神秘的な湖が見える。田沢湖だ。
日本一の深さを誇るこの湖は神秘的な雰囲気をたたえている。
「うぅぅー-ん、田沢湖ビューが自分の部屋って、贅沢、贅沢。神に感謝だな」
東京の親元を離れて迷宮探索高等専門学校に入学して二年、たまたま学校近くに母さんの実家があったから、寮に入らずここから通学している。
母さんの実家といっても、爺ちゃんと婆ちゃんが経営しているペンションの客室の一つを俺用に母さんが借り上げた形だ。
だから、広くはないが住環境には恵まれている。
こんな贅沢な環境を与えられている俺が言うのも何だが、一部屋を借り上げるくらいなら、寮に入ったほうが断然安く済んだんじゃないかと心配してしまう。
*****
「君の実家に下宿させるなんて、ご両親に悪いじゃないか」
「寮に入れたら、なかなか忍に会えなくなるのよ! あなたはそれでいいの?」
「そうやって、親離れ子離れしていくんだよ」
「あなたにはわからないのよ。
この子は周りの子とコミュニケーションとるのが苦手なのは知っているでしょう?
寮生活なんて耐えられないわ、きっと」
「それは過干渉じゃないか?」
「何ですって? だいたいあなたはそうやっていつも・・・・」
*****
俺の入寮をめぐって、父さんと母さんが喧嘩していたことを思い出す。
母さんが入寮に反対しているのは、俺のことを心配して言っているのではない。
母さんは、自分が実家に帰れる口実を作りたかったのだ。
何があっても動じない鋼の心臓を持った母さんが、俺のことを心配するはずがない。
だけど、そのおかげ様でこんな恵まれた環境で高校生活を送れているのだから、母さんに感謝しなくちゃ。
あぁそれじゃあ、神じゃなくて母さんに感謝だった。
とりあえず、いつもの通りに朝のルーティンをこなす。
洗面、歯磨きが終わったら、右手を振って現在のポイントを確認する。
昨日は、学校の演習で魔石をゲットしたけど、あれは反映されているのだろうか。
ステータス画面表示
名前 :最上忍
ジョブ:見習い
ランク:E+
レベル:15
ゴールドポイント:1253pt
俺はまだ学生だから、ランクとかレベルとか超低いし、見るとへこむから見ないようにしている。
知りたいのはポイントが増えたどうかだ。
ポイ活で日銭を稼ぐことにやりがいを感じている俺としては、そこが重要なのだ。
昨日の演習で10pt増えたな。
もっと増えるかと思っていたのにちょっと期待はずれ。
ゲットした魔石を学校預かりにしたせいだろうか・・・アイテムボックスが必要なのかもしれない。
学校の購買部で売っているだろうか。
できれば、アイテムボックスを出来るだけポイントを使わずに手に入れたいんだけど。
ピコーン
通知音が鳴って、今日のデイリーミッションが表示された。
『デイリーミッション:登校リアルタイムアタック』
いつも通り、朝の通知は決まってこれだ。
平日のデイリーミッションは同じでも、途中に仕掛けられているトラップの内容は毎日違う。
だから同じミッションでも飽きることはなく、ゲーム感覚で楽しみながらポイ活をしている。
「忍、起ぎでるかぁ?」
ドアの向こうで爺ちゃんの声がした。
「起きてるよー」
ドアを開けて爺ちゃんが顔をのぞかせる。
「おぅ、おはよう、今日のトラップはもう仕掛けておいだど」
「おはよう。早いなぁ、もう仕掛け終わったの?」
「当たり前だべ。これから、お客様の朝食の配膳があるがらよ。
爺ちゃんは忙しいんだ。忍も早ぐご飯食え」
「はーい」
別にやらなくていいのに、爺ちゃんは早朝のうちに軽トラで出かけて、通学路にトラップをしかけて帰ってくる。
こっちはこっちで、謎スキルのミッションでトラップがあるから余計なことはしないでと言いたいところだが、
爺ちゃんは俺が迷宮探索高専に入ったことを誇りに思い、育成しなければという熱い使命感に燃えているのだ。
だから余計なことは言わない。
爺ちゃんは秋田弁で
「俺は忍が一人前の探索者になるように育成するなだ。
んだがら、俺の残りの人生を捧げることに悔いはねえ!」
俺はその情熱をありがたく受け止めて、素直にありがとうとだけ言う。
客間とは別の自宅用のダイニングでみそ汁をお椀によそう。
麹味噌のみそ汁から、かつおだしの香りがふわりと昇った。
宿泊客と同じ、定番の朝食メニューが載った皿に、おむすびが二個。
海苔は食べる直前に自分で巻くようになっている。
「いただきます」
爺ちゃんも婆ちゃんもペンションのダイニングで忙しいから、ここには俺しかいないが、丁寧に手を合わせてご飯をいただく。
朝のエナジーチャージが終わると、通学リアルタイムアタックスタートだ。
もちろん、のんびり歩いていたら間に合わないから走ってスタートする。
いつも通りに走っていると、道のわきにイノシシなどを捕獲する用のくくり罠が見える。
あんな単純な罠にかかるほど愚かじゃないよ、と思いながら罠を避けて通り過ぎたところ、突然丸太がビューンと横から飛んで来た。
俺はスッと難なくよける。
これは爺ちゃんが仕掛けたトラップだ。
爺ちゃんのトラップの癖はだいたい覚えている。
罠を仕掛けそうな場所。
罠の先にある危険も、パッと予測できる。
爺ちゃんの原始的なトラップで強くなっている気がしない。
難なく俺は避けて通れるが、これでかわいい孫が怪我したらどうするつもりなのか。
ここを通る人間は俺ぐらいのものだからいいようなものの、一般人を巻き込まないようにできるだけ早くトラップを通過し、もう発動しないようにしなければならない。
交差点に出ると、ここから先は自動車も通る。
信号も横断歩道もない道路の端を見ると、向こう側に渡りたいけど渡れないでいるお年寄りがいた。
地元のお婆ちゃんかな。
「あのぅ、兄さん、めんぶがねども(申し訳ないけれども)、ここ渡りでども。
おらどご向こう側さ、連れで行ってもらわえねが?」
訛りが強い。
よくわからない秋田弁だけど、たぶん向こう側に連れて行ってくれと言っているのだろう。
「いいですよ。おんぶしましょうか?」
「あや、しかだねごど(ありがたいこと)」
気安くいいですよと言ったものの、横断歩道は今来た道を戻らないといけない場所にあった。
ここで、事故っても嫌だし、しょうがない横断歩道まで戻るか。
お婆ちゃんをおんぶして、横断歩道まで戻るって車が止まってくれるのを待っていた。
しかし、なかなか止まってくれる車がない。、
止まれよ! 歩行者が横断歩道を渡ろうとしてるだろが!
そのうち車の流れが途切れたので、やっとお婆ちゃんを向こう側に連れて行くことができた。
「あや、あや、まんず、助かったぁ。兄ちゃん、高専の生徒さんだが?」
「はい、そうです。じゃ、僕は先を急ぎますので、これで・・・」
「待で、待で、ほれ、これ持っていげ!」
そう言って、お婆ちゃんが俺の手に渡したのは何か液体が入った瓶だった。
「これ、もしかしてポーション?」
「さあ、何だがわがらねども、高専の兄さんがたがみんな喜ぶ物みでったから」
「ありがとう、お婆ちゃん。それじゃ」
この辺に住む地元民が、こんな貴重なモノをどうやって入手しているのか謎だ。
いっけね! リアルタイムアタックだった。
今のでだいぶタイムロスしたかもしれない。
ここから学校までは全速力で走るぞ。
田沢湖高原の道は下ったり上ったりのゆったりとしたアップダウンが続く。
毎朝マラソンしているようなものだが、これで肺活量も耐久力も上がる。
「やった! ギリギリセーフ」
校門を過ぎ昇降口の下足棚に寄りかかって、はぁはぁ息を弾ませ座り込みそうになるところを必死に我慢する。
「最上、1分遅刻だ」
五十嵐先生が、仁王立ちになって俺を阻んだ。
「す、すみません・・・」
「これだから、自宅組は・・・」
そう言い捨てて、先生は廊下を去って行った。
なんだよ、自宅から通っていて何が悪いんだ。
それぞれの住環境が違って当然だろうと、言いたい気持ちをぐっと堪えた。
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