第39話 業務提携は交渉決裂
翌日、俺が第5層界に来ると、樹木の執事トレスチャンは大きな大木に成長している様子が遠くから見てわかった。
その大きな幹から伸びた枝には、人のようなものが吊り下げられているように見える。
しかも三つ。
ゾワッと背筋が凍る感覚がして、畑まで走った。
近づくにつれて、人のようなものは人そのものだとわかった。
「少年! 早く助けて」
一人はジュリアだ。
「おーい、降ろしてくれないか」
「なんだよ、この木の化け物は」
あと二人は、エバンスとブラウンだった。
しかし、三人を吊り下げたままでトレスチャンは決して離そうとしない。
「ご主人様、おかえりなさいませ。
無断で敷地内に侵入してきた怪しい者を捕まえておきました」
よくできた執事トレスチャンは、不法侵入者を捕まえたと言わんばかりに報告してきた。
「トレスチャン、すまないがこの人たちは俺の知り合いだ」
「知り合いとおっしゃられても、
ご主人様の留守中に侵入する者は引き留めるのがわたくしの仕事です」
いや、引き留めたのではなく、吊るしているだろ。
確かにトレスチャンの言う通りだ。
しかし、エバンスたちはともかく、ジュリアは俺が頼んだ馬の世話に来たのだから解放させなくては。
「ジュリア、ごめん。
伝え忘れてたよ。
これはセキュリティ対策として雇った執事なんだ」
「はぁ? どうみても魔物のトレントなんだけど。
なんでもいいから早く降ろしてちょうだい」
「トレスチャン、
俺の留守中にこの女性には馬の世話を頼んでいるんだ。
降ろしてくれ」
「かしこまりました」
トレスチャンはジュリアを縛っていた蔦を緩めて枝で抱え丁寧に下に降ろした。
「おい、こっちも降ろしてくれ!」
エバンスたちは足をばたつかせながらわめいているが、俺の命令がない限りトレスチャンは男たちを降ろそうとしない。
ジュリアは洋服の周りについた埃をはらいながら、顔をしかめた。
「まったく、わたしが『さいじょうの館』に行くと言ったら、
一緒に行くと言い出してきかないのよ。いい気味だわ」
その口ぶりに、エバンスはジュリアと仲がいいとは言えない印象を受けた。
「先日も、この人たちはここに来たんだよ。
ジュリアからここの話を聞いて来たと言っていたけど、
君たちは仲がいいわけではないってこと?」
「くっそじじい!
わたしがダンジョンから出たところで待ち構えていて、
どこへ行っていたと脅して情報を聞き出したのよ」
ジュリアによると、情報の聞き方は穏便なやり方ではなかったらしい。
ジュリアはここの情報を流したのではなく、脅されてしゃべってしまった。
だとすると、エバンスはハヤブサの仕事仲間だとしても信用していい話ではなくなる。
「エバンスさん、今日は何用ですか?」
「話せばわかる。わたしは君と話がしたい。
ここにぶら下がったままでは話もできない」
「いいですけど、話の内容によっては
ハヤブサさんに相談しますが、いいですか?」
「いい、いい、ハヤブサに相談してくれ。
だから早く降ろしてくれ。腕がしびれてきた」
どうしようかと思案していると、ジュリアは厩へ行こうとした。
「少年の好きにしたら? 悪いけど、
わたしは今日で馬の世話係は降りるから。
マロンは自分で小屋建てて飼うことにする。
毎回こんな風にトレントに吊るされるなんてごめんだわ」
「悪かった、ジュリア。
君の好きなようにすればいいよ」
「酷い目にあったけど、今日のぶんは働くから、
サドルと鞍のお礼はこれでチャラってことで」
「わかった。それでいいよ」
ジュリアは厩に入って行った。
トレスチャンに吊るされたままのエバンスとブラウンは、さっきの血気はどこへいったのかだんだんとぐったりとしてきた。
そろそろ降ろしてやらないと、ヤバいかもしれない。
「トレスチャン、この人たちを降ろしてくれ。
これは命令だ」
「かしこまりました、ご主人様」
トレスチャンは蔦をゆるめ、さっきジュリアにしたように枝は添えずにそのまま下に落下させた。
「いたたたた! さっきと待遇が違う」
「ブラウン、手を貸してくれ。起き上がれない」
エバンスのスーツは土だらけになった。
きっとロンドンのいい仕立て屋に作らせたオーダーメイドのスーツだろう。
「水、飲みますか?」
「突然押しかけてきて申し訳なかったね。
水をいただけると幸いです」
俺は小屋の玄関に立ち手をかざして、枝葉でできた鍵を開錠し中に入った。
「玄関に鍵を・・・枝葉で?」
「執事が作ってくれました」
「執事? どこにいるのかね?」
「エバンスさんたちをとっ捕まえた、さっきの樹木ですよ」
「あれはトレントじゃないか」
「今は俺の執事でトレスチャンといいます。
以後、気を付けてください」
エバンスとブラウンにマグカップに注いだ水を差しだした。
エバンスは口ひげを濡らしながら水を一気飲みした。
飲むとエバンスたちは驚いて目を丸くさせていた。。
「うん、冷たくて美味い! なぜだ」
「企業秘密です」
「うむ、だろうねぇ。そう簡単に教えないだろうねぇ」
「ご用件を」
「君一人でこのダンジョンを開拓したのかね」
「はじめはそうでしたが、
今はハヤブサさんと友達も参加しています」
「ハヤブサ、わたしには何も言わずにこんなことをしていた
・・・あ、いやこちらの話。
それにしても、いろいろと大変でしょう」
「いいえ、楽しんでやってますから」
「そうかね。
しかし、今後人口が増えたらどうするつもりなんだい」
俺が懸念している事を、ずばりと指摘され返答に困った。
「業務提携しないかね」
「業務提携? どんな提携なんですか」
「ここを開発する提携だよ。君はここで稼ぎたくないかね」
「稼ぎたいです」
「ハハハハハ、正直でよろしい。
なら話は早い。わたしも君もここを開発して稼ぎたい。
これで目的は一致しているね。
だけど、お互い足りないものがある。
わたしはここの地理情報、エリアの情報がない」
「俺に足りないものとは?」
「資金。君はまだ少年だ。圧倒的に資金が足りない」
痛いところをつかれた。
「ビジネスするなら、初期投資は必要だ。
わたしと手を組めばそれができるという話だ」
でも、何かひっかかる。
エバンスの言う開発とは何か。
「初期投資して、どんな開発をするんですか?」
「手始めに、ホテルですね。ダンジョン探索者が宿泊できるホテル。
それからショッピングセンター、カジノ。
おっと、これは先々の話だがね」
思わず口を滑らしカジノと言った。
それともわざと口を滑らせたように見せかけたのか。
エバンスの“稼ぐ”の意味が垣間見える。
「断る」
手短に答えた。
「エバンスさんの稼ぐという考え方と、俺の考え方は違うようです」
「おや、稼ぐに違いがあるとは初耳だね。
ハヤブサは君にどういう教育しているんだ」
「ハヤブサさんには、俺の考えは話していますから、
きっとわかってくれています。
それから、ハヤブサさんをけなすのは違うと思います」
「はっきり言う子だね。後悔しても知らないぞ」
「後悔しません」
「そうか、残念だ。交渉決裂か」
「エバンスさんに恥をかかすとは何様のつもりだ」
「よしなさい、ブラウン。
行こう、こんなところに長居は必要ない」
エバンスはスラックスの汚れをはらってシルクハットをかぶった。
その高級そうな身なりからも、俺との価値観の違いが伝わってくる。
「じゃあ、邪魔したね。失敬するよ」
エバンスはブラウンを従えて小屋を出て行った。
が、途中で歩を止めて振り返り
「あ、言い忘れていた。
君が断ってもわたしはわたしのやり方でここを開発するよ。
だって、ここはどこの国のものでも誰の物でもない。
土地の所有者は決まっていないんだから」
そう言い残し、エバンスは俺に背を向たまま手を振って去って行った。
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