第35話 マウントの取り合い
ダンジョン第5層界。
さっきからとても不穏な空気が流れている。
畑と厩の間に広がるちょっとした空間。
俺を挟んで桜庭とジュリアがお互いを睨み合いながら立っている。
睨み合っている女性二人は、初対面だ。
初対面で何故、こんな空気になっているのか俺にはわからない。
とりあえず、彼女たちに怒られないように大人しくしていよう。
*
彼女たちが不穏な空気をかもし出したのは、5分ほど前。
桜庭と俺がこの小屋にやってきて、持ってきたお茶やコーヒーなどの荷物を下ろしていたときだった。
「ハーイ、少年、ごきげんよう」
ジュリアが小屋の外から声をかけてきた。
桜庭が驚いて俺を見た。
「誰か来た。女の人の声。
わたしたち以外に住人がいるのかしら」
俺は戸を開けてジュリアに挨拶した。
「ジュリアさん、こんにちは。
厩の馬の世話に来てくれたんですか」
「馬の世話は30分ほど前に終わったわ。
ちゃんとできているかチェックしてくれるかな」
「わかった。今行く」
小屋の中では、桜庭が俺を見て訝しんだ様子。
「あの女の人と知り合いなの? いつの間に・・・・」
「ああ、大事なお客様第一号だ」
「大事なって、どういう・・・」
俺は厩で馬たちの状態をチェックした。
「うん、いいね。栗毛も懐いた様子だし、手入れも行き届いている」
「栗毛に名前を付けたの。マロンってどう?」
「マロン、可愛い名前だね。よしよし、よかったな、マロン」
桜庭が小屋から出てきて、この様子をじっと見ていた。
ジュリアは桜庭の存在に気が付いた。
「あら、可愛いお嬢さん、ひょっとして少年の彼女かな?」
「いいえ、友達です」
「ふぅん、友達なんだ。はじめまして、わたしはジュリア。
アメリカのロサンゼルスから来たの」
「はじめまして、桜庭あずさです。最上君のクラスメイトです」
桜庭は「クラスメイト」の部分を、親の仇でも打つように挑戦的に強調している。
「Oh、クラスメイトね。あずさ、電車みたいな名前ね。
ダンジョンまで来るなんて、探索者資格を持っているの?」
「ええ、最上君と同じ探索者を養成する学校に通っているので」
そこから二人の睨み合いが始まったのだ。
*
「ジュリアさん、マロンに乗りますか?」
とりあえず、この不穏な空気を変えたくて、俺は馬の話をしてみた。
「サンキュ、乗るわ」
身軽にマロンにまたがったジュリア。
「マロン、いい子ね。わたしとお散歩しましょうね」
ジュリアはマロンに乗って散歩に行くために周辺を歩いて慣らし始めた。
俺はその様子を観察し、大丈夫そうだなと確認してから、鉱石を探すための準備を始めた。
シロに鞍をつけていると、ジュリアが近づいてきた。
「どこかへ行くの?」
「ああ、鉱石を探しに行くんだ」
「鉱石を探すのなら、わたし場所を知っているわ」
「本当?それは助かる」
そこへいきなり、桜庭が厩に入って来てブチに鞍を付け始めた。
「私も行くわ」
「桜庭、お前、馬乗れたの?」
「ええ、岩手で乗馬クラブに入ってたから」
桜庭が乗馬クラブに入っていたなんて初耳だが、ハヤブサの妹ならそれくらい習っているのかもしれない。
「お嬢さん、大丈夫かしら。無理して来なくてもいいのよ」
「大丈夫です」
だが、小屋に荷物を置いた状態で留守にするには危険だ。
他にも第5層界に来る人間がいるかもしれない。
「桜庭は、ここに残れ。ここでコーヒーを作っておいてくれ」
「はぁ? 最上君こそ畑でやりたいことがあるんでしょう。
鉱石は私が取りに行くから、最上君が留守番してればいいじゃん」
「えっと、それは命令?じゃないよな」
「半々。お兄ちゃんから電話で魔法を教えてもらうって言ってたし、
やることがいっぱいあるんでしょう?」
「それは、鉱石を集めてからの話で・・・」
ジュリアが俺と桜庭のやり取りにしびれを切らした様子で声をかけてくる。
「あのさぁ、どうでもいいけど早く決めてくれないかなぁ。
わたしと一緒に鉱石がある場所に行く人はどっちよ」
「わたしよ! 最上君ブチを借りるわ。留守番よろしく」
「待て、鉱石がある場所に危険が潜んでいるかもしれないだろ」
「Oh、あずさが心配なの? 少年、だったらこうしましょ。
わたしのドローンで少年のスマホに私たちの様子を画像で送信するわ。
配信じゃないから心配しないで。少年だけに送信するから、
君はそれで安全を確認してればいいんじゃない?」
ジュリアはドローンを取り出した。
俺の電話番号を聞いて彼女のスマホを操作してドローンに取りつけて飛ばすとこう言った。
「これで、少年のお友達のことも見守れるでしょ。
ふふふ、見守りスマホみたいだわ、小学生の」
「あら、ご親切にどうも。
これで安心してわたしもジュリアさんと鉱石を取りにいけるわ」
オホホホホ・・・・
二人とも目が笑っていない。目が
恐い。
「じゃ、俺はスマホで見守っているから、どうぞ行ってらっしゃませ」
桜庭は軽くブチのおなかを蹴って、走らせる。
ジュリアはマロンに乗って、行先を案内するために桜庭を追い越した。
「道案内はわたしよ。先に行くけど、送れないで付いて来られるでしょうね?」
「もちろんよ、水先案内人。頼むわよ」
そう言いながら、彼女たちは小屋から荒野へと馬を走らせ、遠ざかって行った。
さっそく、スマホの画面で中継を確認する。
ドローンで撮影した二人の様子が送られてくる。
ジュリアのマロンが先に走って行く。
ブチは、足が速くない馬だから、どんどんマロンから引き離されていく。
桜庭、ごめん。
ブチは遅い馬なんだ。
君のせいじゃない。
「あらぁ、どうしたのかしら。あまり遅いとわたしを見失っちゃうわよ」
「馬と呼吸をあわせているのよ。
そのうち追いつくからご心配なく」
ドローンのカメラは音声までちゃんと拾っている。
配信のリスナーはこうやって俺たちを見ていたのかと初めて理解できた。
二人が鉱石のある場所につくまでは、しばらく安全だろう。
俺は、畑仕事に取り掛かる。
俺がいない間でも畑に水をやれるように、自動給水装置を作るつもりだった。
スマホからの中継の音声だけ聞きながら、材料を揃え始める。
「あなたはいつからなの?」
桜庭がジュリアに追いついたのか、桜庭の声が聞こえた。
「わたし? 昨日よ」
何がいつからなのか。
具体的に聞かなくてもジュリアには伝わっているらしい。
女子って勘だけで会話が成立するものなのか。
「わたしは、1年3か月前からよ。入学したときからだから」
「あら、知り合った期間なんて関係ないんじゃない?
どれだけ理解しあっているか、絆こそ大事だと思うけど」
何の話をしているんだ。
知り合ったって・・・誰と?
絆? だからどうした。
「少年は、わたしのためにこのマロンを選んでくれたのよ」
「わたしなんか、彼にお姫様抱っこされたわ」
「まあ、お姫様ですって? お子様ね。
彼はわたしにマロンを選んでくれただけじゃないのよ。
鞍やサドルを取り付けて乗り方もおしえてくれたんだから」
「そう。それはあなたがお客様だからだわ」
「まあ、そうでしょうね。
あんたみたいに学校で一緒だという理由じゃないから。
ビジネスだって立派な信頼関係よ」
「信頼関係があってよかったわね。
お金で繋がっていてうらやましいわ」
「うらやましい?
悔しかったら、あんたも稼げるようになることね」
彼女たちはマウントの取り合いしている。
そんな余裕があるのなら、周囲は安全なんだろうな。
俺は、自動給水機取り付けるため畑の中にしゃがみこんだ。
「ここが鉱石のある場所よ。馬をつないで採掘するわよ」
もう着いたらしい。
なんとか無事に着いてよかったと、俺は一安心してタオルで汗を拭った。
「あずさ、ツルハシ持ってきてないの?
アイテムボックスから道具も出さないで、あきれた。
どうやって採掘するつもりよ」
「ご心配ご無用。アイテムボックスの中にスコップがあるわ」
「プッ・・・スコップがあってよかったわね。
でも、それ園芸用のミニスコップじゃない。笑わせないで」
「鉱石を丁寧に採掘するためよ。悪い?」
「別に。あんたがいいなら構わないけど」
なんだかんだ言いながら、二人で採掘を始めたようだ。
まあ、無事に鉱石を持って帰ってくれさえしてくれたら、俺はそれでいい。
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