第3話 迷宮探索高等専門学校、東北分校
幼い頃は東京に住んでいた。
俺が中学に上がったころだった。
右手を振るとゲームのステータス画面のようなものが空中に映し出された。
それは俺にしか見えないが、みんな同じことが出来るものだと思っていた。
それを母さんに打ち明けたところ、驚いて父さんに報告した。
「あなた! 落ち着いて聞いてくださいね。
忍に特殊能力があるみたいです」
「なんだって!」
父さんは通産省の官僚で、迷宮探索技術研究所、通称ダンジョン技研、略してダン技研の人間だ。
さっそく父さんと一緒にダン技研に連れていかれ、証明写真を撮るようなボックスの中で1分位じっとして能力検査を受けた。
ボックスから出ると、ダン技研の人は父さんに言った。
「息子さんには確かに特殊能力がありますね。
ステイタス画面が見える。これは能力者によくある事なんです。
それと、もうひとつスキルがあるんですが……」
「ほかにスキルがあるんですか? それは何ですか」
父さんが興奮した様子でダン技研の人に詰め寄る。
「えっと、………環境依存と出てますね」
「………ん? 何ですか、それ」
「あぁ、たぶんこれはAIが和訳した際に、
環境依存って訳しているだけだと思います。
これを文字通りに解釈すると『文字化け』という意味ですが、
実際はそうじゃなくて違う意味だと思いますよ」
父さんは約3秒固まっていたが、
「ああ、環境依存ですね。
そうですか、どうもありがとう。
さ、忍、家に帰ろうか」
「父さん、環境依存って何?」
「か、環境だから、環境に優しいっていうことだよ。
SDGsみたいなもんだ」
「ふうん、それってダンジョンで戦う時に使えるの?」
「まだ、わからない」
父さんは、使えないとは言わなかった。
なんとなく消化不良のままダン技研を後にした。
盛り上がっている父さんと母さんは、俺の希望など完全無視だ。
あれよあれよと、迷宮探索高等専門学校への受験手続きを進めて行った。
東京本校は奥多摩にあったが、母さんは東北分校を受験させると言って譲らなかったのには理由がある。
それは、母さんの実家は東北分校の近く、つまり秋田県田沢湖高原でペンション経営していたからだ。
東北分校なら、息子を寮に入れないで実家から通わせられる。
母さんの強引な希望を叶えるため、俺は東北分校を受験することとなった。
迷宮探索高専には親子面接がある。
将来、公的に探索者として働いてもらうためには家庭環境や家系に問題がないかまで調べ上げられるのだ。
たとえば、反社会的組織に入っていないかとか前科者はいないかとか、別に普通に暮らしていれば該当しない内容の確認だ。
それから、確認項目はもうひとつある。
それは、参考程度にスキルを聞かれる。
ハズレスキルだったら絶対合格できないかというと、そういう話ではない。
ただ、ハズレスキルの生徒は途中で挫折してしまい、自主退学してしまうケースもあると聞く。
学校としては出来るだけリスクを避けたいという意向もあって、参考程度にと言いながらスキルの内容もしっかり確認してくるのだ。
「息子さんのスキルは環境依存ということですが、
これはどのような…」
この時の面接官が、今の担任、五十嵐先生だ。
息子を合格させたい一心で、父さんがここで官僚として圧をかけまくる。
「はい、お答え申し上げます。
環境依存につきましては、
未だ本人の中では覚醒しておりません。
よって、当たりなのかハズレなのかの判断をするのは
時期尚早でございます」
「はぁ……」
「未知の能力である環境依存は、
わたくしども迷宮探索技術研究所においての
研究対象になっております。
ここで、最上忍を受け入れないとなれば、
この研究対象を失うことであり、
国家にとっても大変な損失であります。
これだけは申し上げます。
決してハズレスキルではございません。
国家の損失になるようなことは避けるべきと存じます」
「国家の損失……ですか」
面接官だった五十嵐先生は、父さんの圧力に屈した。
これは裏口でもコネ入学でもない。
実際、父さんが圧力をかけたとしても、それは受ける方の取り方の問題だと父さんは言った。
おかげで、俺はめでたく合格にこぎつけたのは喜ぶべきことだた。
東京を離れて、俺は祖父母のいる田沢湖高原で暮らすことになり、これは俺にとって大正解だった。
田沢湖周辺には、まだ誰にも発見されていないダンジョンがたくさんあって
俺は毎日のようにダンジョンを見つけては探索をゲームのように楽しんでいる。
右手を振ると現れるステータス画面の上部には、ミッション通知が映る。
ミッション通知の内容は、腹筋50回とか腕立て伏せ20回とか、地味なミッションだ。
別に大げさなミッションではない。
それでもクリアするとポイントが貯まって、ある程度貯まると換金できることがわかった。
毎日コツコツとミッションをこなしながら、ちょっとしたお小遣い稼ぎをしている。
こうして、俺はダンジョン探索の沼にハマって、立派な?俺流探索者になっていった。
ダンジョン探索って楽しいポイ活だ。
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