第26話 装備品全解除
「マジか、こいつはやべえぞ」
火の粉をよけて左に回り、後ろから攻撃しようと試みたが、そこに枝が振り下ろされる。
ギリギリで枝をかわす。
「おっと、危ねえ。ワンミスしただけでお陀仏するとこだった」
いつまでもトレントからの攻撃をかわしてばかりいても埒が明かない。
なんとかして、こいつを倒さないと、本来の目的であるブラックダイヤモンドは手にはいらないのだ。
ブロッケンが剣で攻撃してもダメ。
俺のこん棒なんか効くわけがない。
動きは読めるからたやすそうに見えて、実は強くて倒せない。
ワンミスも許されないのはキツイ。
やべぇ、心がもう・・・・折れそうだ。
どうせ何をしても無駄なら、もっと早く攻撃を避けながら奇策をするしかない。
もっと早く攻撃をかわすためには身軽に、
もっと身軽になる必要がある。
ん?そうだよ。
防具も武器も邪魔なんだよ。
「だったら、こんな装備を身に付けている意味なくない?」
俺は、盾を捨て、こん棒も捨て、防具も全て外し始めた。
そして、Tシャツも脱いだ。
「きゃーーー!ハチ王子何をしているの?
ハチ王子が防具もシャツも脱ぎはじめました」
次にズボンのボタンに手をかけたところで
「やめてーーー!ズボンは脱がないで~!
裸を配信したら垢バンされちゃう。やめてーーー!」
ユズリハの悲鳴で、これは配信だったことを思い出した。
そうか配信中か、しょうがない。
ズボンは履いたまま、その代わりその裾をまくり上げる。
ユズリハに向けて俺は叫んだ。
「大丈夫、履いてますから」
「あら、案外ハチ王子って細マッチョなのね」
(俺たちのユズリハの前で裸になるなんて犯罪だ)
(上半身だけなら許す)
(ハチ王子が細マッチョって言ってたけど)
(ユズリハ、ハチ王子に惚れないでくれ)
スニーカーも靴下も脱いだ。
裸足で地面を後ろに蹴る。
右足で、左足で。
そして、相撲の取組前のように四股を踏んでからカメラ目線でリスナーに語りかけた。
「さあさ、お立合い。
これからトレント解体ショーの始まり、始まり」
(こっち見てなんか言った)
(ハチ王子、上半身裸で何をする気だ)
(マジか、装着品を全部脱ぎ捨てた)
(ズボンは残すのか)
(脱ごうとしたけど、ユズリハが止めたぞ)
(これなら、アカウント、BANされないよね)
(ギリセーフじゃね?)
(上半身裸で武器も捨てて攻撃するなんて、何で攻撃するつもり?)
(そりゃ素手でしょ)
(相撲かよ。裸足で四股踏んでたぞ)
(そういえば、ハヤブサ・チャンネルでも素手だったな、僕は見た)
(正気の沙汰じゃないぜ)
(生身の体で、素手でやるのか)
ふん!ふん!ふん!
軽く飛び跳ねながら、トレントの攻撃をかわし続ける。
脱いだら身軽になった。
さっきより早く火炎を避けることができる。
これで攻撃態勢に入ることが出来ればいいのだけど。
トレントの攻撃パターンは、さっきの戦いで学習してある。
俺はトレントに勝つイメージを脳内に描いた。
もう負ける気がしない。
1,2,3でトレントの懐めがけて突っ込んでいった。
相撲でいうところの立ち合いだ。
体がでかいトレントは懐に入られて、俺を踏みつぶそうと根っこの足を振り上げジャンプしようとする。
その先の行動は読んでるよ。
火の粉をまき散らすんだろう?
ここで左によけると次に枝が振り下ろされるのも学んだ。
俺は、右によけてグーパンを思いっきり木の幹にお見舞いしてやった。
メキッ!
手ごたえがあった。
次にトレントの火炎ビームが飛んでくる。
俺は回転しながらよけ続ける。
装備品を全部解除したぶん、今回は早く回転することが出来た。
転がりながらよけてるだけじゃ倒せない事も、こっちは学習済みだ。
だが、火炎ビームが連続で襲ってきた。
「おーい、トレントさん。何だよお。
二発もビームをとばしやがって、ずるいよ。
それはキツイって。俺の入り込む隙がなくなるだろが!」
ブロッケンが驚いたように声をあげる。
「ハチ王子。君はトレントに話しかけているの?」
「ああ、いくら魔物でも、ずるい手口を使われると俺だってキレますんで」
そう言っている間にも、火炎ビームは飛んでくる。
ひょいと、ギリギリでビームをなんとかよけた。
「こいつ、マジでうざいんだよ」
ブロッケンは、剣を構えて俺に話しかけた。
「あたくしがこいつをこっちに引き寄せる。そして、剣で切り倒す」
でも、さっきからブロッケンの剣は全くダメージを与えていないじゃないか。
いい加減学習しろよ。
逆に攻撃から避けるために後退するブロッケンを狙って火炎ビームが噴き出す。
なるほど・・・・・それを見て俺は気が付いた。
後ろに下がりすぎるとたぶんダメなんだ。
じゃ、実践してみるか。
俺はわざと木の幹にパンチをして、トレントを怒らせた。
トレントは荒れ狂いながら、根っこの足で俺を踏みつぶそうとする。
ここまではお決まりのパターンだ。
この時にあまり後ろに下がりすぎるとダメだとさっき学んだから、俺は後退をしない。
左に逃げると枝、右に逃げると火の粉、後退すると火炎ビームで襲い掛かってくる。
そしたら、残る方向はこれしかない。
身軽になった俺は、根っこの足にしがみついて、そのまま上へと這い上がった。
這い上がればこっちのもの。
あとは木登りの要領で、するすると裸足でてっぺんまで登っていく。
「残る方向は上しかないだろが!」
てっぺんから渾身の手刀を振り下ろす。
「おまえ、マジ、うざい!」
トレントはメキメキと音をたてて真っ二つに割れた。
それからゆっくり、ドーンと音を立てて倒れた。
「ん? 勝った?」
(裸の王様ならぬ、裸のハチ王子、勝利!)
(すっげー!手刀で切り倒した)
(ハチ王子は野生児か)
コメント欄を確認してから、ユズリハは俺に向かって手を振っている。
そんな・・・手を振られたら照れるじゃないか。
「早く、服を着てよ、服!」
なんだ、感激して手を振ってるんじゃないのか。
「わかってるよ。いちいちうるせーな」
ユズリハが服を着ろとあまりうるさく言うので、脱ぎ捨てた場所に戻ってTシャツを着た。
他の装着品はもう付けなくていいだろう。
アイテムボックスにしまった。
あれ? ブロッケンはどうしたのだろう。
無事なのかな。
いつの間にかブロッケンは、宝箱が置いてある台のところに移動していた。
ブラックダイヤモンドが入っている宝箱に手をかけている。
「ご苦労さん、ハチ王子。
君のおかげで宝箱の番人トレントを倒せましたわ。
最初に言った通りに、早いもの勝ちですから、
ブラックダイヤモンドはあたくしがいただきます」
はあ?! 俺が服を着ている間に取っちゃうわけ?
俺が靴下を履き、スニーカーの紐を結んでいる間に、そんなことしちゃうんだ。
トレントを倒したのは俺なのに。
それって、ネコババてやつじゃないか?
「そういうルールでしたっけ?」
「言ったはずですわ。
これはどっちが早くブラックダイヤモンドを手に入れるかのゲームだって。
トレントを誰が倒したかどうかなんて関係ないのよ。
これで、君はお役御免なの。ご苦労さんでした」
「ブロッケン、見損なったわ。あなたってひどい人ね」
「あら、お言葉ね。今頃気が付いたの?
ユズリハあなただって配信が出来たんだからよかったじゃないの?」
(ブロッケンめ、あいつらしい手口だな)
(確かに競争だけど、なんかモヤモヤしないか?)
(ハチ王子がトレントを倒さなきゃ、宝箱まで行けなかったじゃないか)
(モヤモヤする)
(最初からそのつもりだったのでは・・・・)
(すべてはブロッケンの計画通りってことかよ)
(きたねーやつだ)
俺が裸になろうとした時よりも、コメント欄は大炎上している。
俺の心も大炎上した。
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