第25話 ユズリハ救出と魔物現る
トラップに戻ると、ユズリハは戻ることも進むこともできずに座り込んでいた。
ユズリハ・チャンネルのコメント欄が大騒ぎになっている。
(ユズリハ、がんばって!)
(ユズリハが先に進まないと、ブロッケンと八王子の対決が見られないじゃん)
(見られないとか文句言う奴、失せろ!)
(俺たちのユズリハを応援しよう)
(応援したって、俺たちに何ができるんだよ)
(あ、ハチ王子が戻って来た)
(嘘、マジかよ、勝負を捨てて戻ったのか)
(ユズリハを助けて、ハチ王子!)
(頼むぞ、ハチ王子に俺たちのユズリハを預ける)
揺れる振り子のリズムを再びからだに刻み込んで覚える。
右、左、右、左・・・・・
ちょうどカウント3回目で振り子の誤差が最大になる。
その瞬間を狙って、ユズリハがいるところまで滑り込むことに成功した。
(やったぞ! ハチ王子)
(ユズリハのところまで戻ってくれた!)
(まだだ、ユズリハをここから助け出さなければ成功じゃない)
「ハチ王子、戻ってきてくれたの? いいの?
ブロッケンは先に進んでしまうのに・・・」
「ここで話し込んでいる暇はない。
俺だってすぐにブロッケンに追いつきたいんだ。
少し黙っててくれないか」
さて、俺は考える。
このままユズリハの手を引いて走っても、俺の足の速さと彼女の足の速さは違う。
それだと、どちらかが犠牲になってしまうだろう。
歩数と速さを同じにするために、取る方法はひとつしかない。
俺はユズリハをひょいと抱き上げた。
「きゃ!何するのよ。降ろしてちょうだい。
こんなところをファンの子に見られたらコメント欄が炎上しちゃうぅぅ!!」
「黙っててくれって言っただろ。
俺は今振り子のリズムをとっているんだ。黙れ!」
二つの振り子の振り幅の誤差が最大になる瞬間を狙う。
今度は俺一人ではない、ユズリハを抱きかかえたまま通り抜けなければならない。
慎重にタイミングを見計らう。
1,2,1,2,1,2,・・・・
今だ!
俺はユズリハを抱えたまま一気に駆け抜ける。
(おぉぉぉぉぉぉ!ハチ王子抜けた!)
(ハチ王子が俺たちのユズリハを助け出したぞ!)
(ってか、俺たちのユズリハを抱っこしやがって、ちくしょー!)
(まあ、許そう。命拾いしたんだからな)
(そうだ。これがベストな救出方法だと思うよ)
なんとか、振り子トラップを無事に通り抜けたところで、やれやれだ。
俺はユズリハを降ろそうとして膝をつく。
「待って!
またわたしがトラップに引っかかったらどうするのよ。
わたしのリスナーさんたちがブロッケンとハチ王子の競争が見られなくなるじゃないの。このままブロッケンに追いついてちょうだい」
「はあ? 降ろせと言ったり、降ろすなと言ったり。
今危険を脱したばかりなのに、君と言う奴は!
配信の事しか考えてないのか」
「もちろんそうよ。悪い?」
なんて女の子だ。
しかし、またトラップに引っかかって足止めされるのも困る。
また後戻りしたら、ブロッケンには追いつけない。
それに、今ここで喧嘩したって時間の無駄だ。
しかたがない。
俺はユズリハを抱きかかえたまま、ブロッケンに追いつくために猛ダッシュをかける。
(すっげ!何あの走り)
(ハヤブサ・チャンネルでも足がはやいところは見たけど、今度はユズリハを抱きかかえたまま走り続けてる)
(めっちゃ速くね? アスリートかよ)
(なんという体力の持ち主なんだ)
(いつまでユズリハをお姫様抱っこしてんだよ)
(今回はユズリハが降ろすなと命令してたぞ)
(オーマイガー!)
岩場をピョンピョン飛び越え、吊り橋ではバランスを崩しそうになりながら、なんとか数分後にはブロッケンがいる場所まで追いついた。
「あら、意外と早く追いついたわね」
ブロッケンは大きな岩に隠れているところだった。
ユズリハを安全な岩陰に降ろした俺は肩で息をした。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・すみません。
遅くなりました。それで、ここはどの辺なんですか?」
「必死に走って来たから気づかなかったのね。ここが第3層よ」
ブロッケンが指さした方向に目をやると、大きな樹木に顔が付いた魔物が枝を振り回し、太い根を足にして動いている。
「何じゃありゃ」
「あれはブラックダイヤモンドが入っている宝箱を守っている番人。
樹木の精霊トレントよ」
「樹木の精霊トレント? どう見てもただの木の化け物だが」
「トレントの向こうに棺のような台があるのが見えて?
あそこに宝箱が置いてありますわ」
「それじゃ、あの魔物を倒せばいいんですね」
「それがね、さっきから戦っているんですけど、
トレントって強いのよねぇ。
あたくしの剣で何度も切り込んでいるのに、
ちっともダメージを受けないみたいなの」
ただの樹木の化け物がそんなに強そうには見えない。
「ほら、来た!よけて!」
火炎ビームがこっちに向かって飛んで来た。
とっさに岩陰に身を縮めて隠れる。
「何これ。火を噴く魔物?
自分の体も木のくせに平気なんだ。変な奴だな」
ブロッケンは剣を構えて樹木のトレントに向かって行った。
何度か切りかかって、おそらく手ごたえはあったはずなのに、それほどトレントにはダメージが入らない。
ブロッケンがトレントの枝のパンチを受けて転げまわる。
「痛い! 痛いわ! 何これ」
「ブロッケン、大丈夫ですか?」
「今、あたくし油断してました?」
「いいえ、全然」
「ですわよね」
しばらくは、ブロッケンとトレントとの戦を観察させてもらった。
トレントの攻撃はパターン化されている。
攻撃パターンさえ覚えてしまえば、案外、攻撃は避けやすい。
だが、攻撃を避けやすい点が、何かひっかかる。
樹木のくせに火を噴きだす魔物だ。
それもその火力がやばい。
これは避けやすい代わりに、一発でも食らったら終わりだな。
今度は俺が相手だ。
木には木をということで、こん棒を取り出してトレントに向かって行く。
猛烈な火炎が噴き出す。
「火力、やべえ、こいつ!」
ブロッケンは火炎から逃れて、岩の陰から俺にアドバイスをくれる。
「ハチ王子、こいつ火炎ビームを出すからうまくかわさないと即死しますわよ」
ユズリハは安全な岩の陰にいる。
震えながらも中継することを忘れない。
たいしたプロ根性だ。
「こんな魔物見たこともありません。
ブロッケンの剣でさえ通用しないなんてどういうことでしょうか」
俺はこん棒で殴るが、当然びくともしない。
象にアリが戦いを挑んでいるようなものだ。
「おい!ふざけんなよ。こいつ弱いと見せかけてめっちゃ強いじゃん」
ユズリハの中継は続いている。
「ハチ王子が魔物に向かって振りかざしているのは、こん棒です。
え、こん棒? 見間違いじゃありません。
こん棒で魔物と対決しようとしています」
(聞き間違いか?こん棒と聞こえたが)
(目で見てもこん棒に見えるぞ)
(未成年なのか、剣も銃も持っていないのか)
(こん棒は炎で燃えるんじゃないの?)
(ムリだろが)
(絶対、無理ゲー)
トレントは、俺やブロッケンを踏みつぶそうと根っこの足をあげてジャンプする。
その瞬間、真っ赤な火の粉がブアッと噴き出される。
「この火の粉、まき散らしている火の粉に触れただけでも、
こっちがダメージ受けてヒットポイントが下がるわよ!」
「のようですね。俺ダメージ受けたっぽい」
左足に軽くやけどを負った。
「ハチ王子が負傷したようです。みなさん、応援をください」
(がんばれ!ハチ王子)
(君ならできるはずだ!)
(そうだ!ハチ王子ならできるはずだ!)
「マジか、こいつはやべえぞ」
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