第22話 東京校3年人気配信者
下校チャイムが鳴り、俺と狩野は教室を出た。
「小松先生ってさ、先日最上とダン技研にいったときにいた人だよな」
「ああ、そうだね」
「研究員でも、臨時講師するんだ」
「上司から言われれば出向もするんだろ」
「上司っていうのは、そのつまり・・・」
「父さんの差し金だ」
「え?」
「インテリで痩せてて弱そうに見えるし、俺を守るとか不安でしかない」
「何言ってるんだよ。五十嵐先生はおそらくもう来ないだろう。
お前を脅かすような教師はもういないじゃないか」
「だといいんだけど」
「最上が心配するなんてめずらしいな。お前らしくないぞ」
「・・・俺さ、謎のスキルが発動しちゃったみたいなんだ。
環境依存っていうんだけど」
「環境依存? 文字化けか」
「狩野、お前よく知っているな。
さすが、知らないことは狩野に聞け、だな」
「文字化けというと、最近話題になってるよな。
ランキング急上昇中探索者が文字化けしてるって話。
あれもどうかと思うよね。名前を伏せる意味ないじゃんね。
どうせみんなハンドルネームなんだから」
俺は反応に困った。
なんて説明すればわかってくれるのだろう。
登録用紙に本名書いて、文字化けしてるアホな探索者とは、実は俺ですと言えない。
「あれ? どうした最上。急におとなしくなっちゃって。
ん? 環境依存って、お前の謎のスキルって話だっけ。
あの文字化け探索者って、まさか・・・・」
「そのまさかだ。ダン技研にはIDで俺だとバレてしまったんだが。
それで、父さんは心配になって小松先生を送り込んだんだ」
「そういう話の流れなのか。
ってか、お前ランクインしたの、凄くね?」
そんな話をしながら校門近くまで来ると、この学校の制服を着た男女が立って、校門から出てくる生徒の顔を一人一人見て確認していた。
「なんじゃあれ。同じ制服着てるけど見かけない顔だな」
「さっそく俺を拉致しにきたとか」
「それはないだろ。高専の制服着てるから生徒だろ」
同じ制服の女の子のほうが、狩野を見つけて駆け寄って来た。
「きゃーーー!やっと見つけたわ。あなた、カリノさんね。
高専2年のカリノさんでしょ」
いきなりハイテンションの美少女に手を握られて、真っ赤になっている狩野を観察するのはおもしろい。
あの狩野が、まるでペットショップで出会った子犬のようにかわいく見える。
「わたし、迷宮探索高専東京校の3年、ユズリハです」
狩野が頬を赤く染めて美少女を見つめ、彼女が誰なのか気が付いた。
「ユズリハさん? あの配信アイドルのユズリハさんですか?
どうしてこんなところに、・・・ってか、手を放してください。
あ、いや、離さないで・・・」
どっちだよ、狩野、テンパってるぞ。
「あなたを探してここまで来たのよ。会いたかったわ」
会いたかった? 狩野にか? この子犬みたいな狩野に?
「ハヤブサ・チャンネル見ました。すごいアクセス数でしたよね」
「あ、俺のチャンネルじゃなくて、
ハヤブサ・チャンネル・・・ですか。
どおりで。僕にそんな人気があるわけないし」
美少女ユズリハと一緒に立っていた男の方は、俺に近づいてきた。
「カリノ君の隣にいるのは、お友達かしら?」
え? 姿も声も男性だけど話し言葉は女? どっちだ。
別に俺は性的マイノリティを否定はしない。
人間は人それぞれだから。
でも、何か油断ならない空気を感じる。
「友達じゃありません。じゃ、俺はこれで帰りますんで」
帰ろうとした俺の肩をグイっと握られ、止められた。
「嘘おっしゃい。その声、聞き覚えあるわ。そのイケボ。
あなたハチ王子でしょ」
ハヤブサ・チャンネルの配信と、ハヤブサさんとの決闘動画がSNSで拡散されてから、校内で身バレするのはある程度しかたがないとあきらめていた。
だが、東京校にまで身バレするとは考えていなかった。
「あ、僕の友達に手を出さないでください」
狩野、余計なことを言うな。
「ほら、カリノ君が友達だって言ってるわよ。
やっぱり、あなたがハチ王子じゃないの。逃げないでくださる?
あなたに用事があってわざわざ東北分校まで来たんですから」
「あの、どちらさまで」
「あ、失礼。あたくし、東京校3年のブロッケンよ。
一緒についてきた女子は同級生。よろしくね」
「アイドル系探索配信者、ユズリハです。よ・ろ・し・く!」
ユズリハは両手でハートマークを作ってウィンクする。
「ヤバい。ユズリハさんの配信の決めポーズだ。
くそ可愛い! 最上、わかるかこの愛らしさが」
「いや全然」
愛らしいのはお前だ、狩野。
どうやら、本当に東京校の生徒のようだ。
俺を拉致しに来たのではないらしい。
そうだとしても、小松先生は何しているんだ?
校門で見ず知らずの人たちに、俺はつかまっているのに。
俺を守ってくれるんじゃなかったのか。
「おーい、そこの生徒。早く帰りなさい」
小松先生だ。
やっと来た。
この人たちを追い払いにきてくれた。
「おや、東京校のブロッケンとユズリハじゃないですか。
こんなところまで来て探索ですか。ご苦労さん」
「へ? 小松先生、この人たちを知ってるの?」
「ブロッケンとユズリハと言ったら、高専のスーパースターだよ。
彼女・・たち?のステイタスを、ダン技研研究員なら知っていて当然です。
ああ、そう、そう、ブロッケン残念だったね。
先週トップ10から落ちちゃって。
君なら頑張ればまた上がれますよ。期待してますからね」
小松先生、追い払わないで世間話ですか。
「そうなのよ! キーーーー!!!
あの謎の文字化けのせいで! 忌々しいったらありゃしない!」
ブロッケンは悔しがってハンカチを噛んでいる。
この人、トップ10から落ちたんだ。
俺のせいで。
というか、小松先生はこのブロッケンという人をトップ10から落としたのは、俺だということ知っていますよね。
もしかして、煽ってます?
「言っとくが、校内で揉め事を起こさないように。
特に、ブロッケン。
武器の使用は校内禁止ですから」
ブロッケンはすでに18歳で武器の使用が認められていた。
狩野が羨望のまなざしで東京校3年生を見つめている。
「いいなぁ、武器が使えるんだ。
ユズリハさんも武器を使えるんですか?」
ユズリハはむっとして、そっぽを向いて機嫌を損ねる。
「わたしは卒業まで武器は使えないの。3月生まれだから」
「悪いこと聞いちゃいました。すみません」
「先生はこれから会議だから、職員室に戻ります。
学校同士の交流は、和やかにやってくださいね。じゃ」
小松先生が職員室へ向かうのを確認してから、ブロッケンは本題へと切り出した。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。
あたくしがここに来たのは、ずばり!
ハチ王子と争いたいからですわ」
狩野はそれを聞いて、ハヤブサとの決闘を連想した。
「ハチ王子は、決闘はしないと思いますよ。」
俺も同調する。
「奴は、決闘は嫌いだと思います」
と、俺はなお第三者のふりして帰ろうとした。
「ふっ、おバカねあなた。声でとっくに身バレしてますわよ。
それに、何か勘違いしているみたいですから言いますけど、
争いって決闘ではありませんから。
ダンジョンである物を先に取った方が勝ちというゲームですわ」
ゲーム? 運動会でもするのか。
『ある物を先に見つけて取った方が勝ち』
それを聞いて狩野も俺と同じことを連想したらしい。
「それって、なんだか運動会の買い物競争みたいっすね」
「あははは! カリノさんて、面白いこと言うわね。
こういうのわたし嫌いじゃないわ」
「そ、そうですか。ユズリハさんに喜んでもらえて光栄です」
また赤くなって照れている狩野よ、デレている場合じゃない。
この二人組、特にブロッケンからは俺に対する敵意を感じる。
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