第2話 タイムトライアル失格
「先生、最上君が、最上君が・・・・」
「桜庭、心配するな。最上はもうすぐダンジョンから出てくる」
「魔物が出たんです、魔物が。恐ろしく大きい猿みたいな魔物が」
ダンジョンから出てくると、そう言いながら先生に向かい、泣きじゃくる桜庭の背中が目に入った。
魔物との戦いから戻ったばかりの俺は、肩で息をしながら先生に報告する。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・最上忍、ただいまゴールしました」
「はい、タイムは20分46秒」
「最速タイムよりも46秒のロス・・・ですね」
「いや、失格だ」
今、失格と聞こえたが聞き間違いか、空耳か。
「ダンジョン奥のチェックポイントにタッチしていない。
最上・桜庭組、失格!」
桜庭は事情を説明しようと躍起になる。
「先生、そうじゃないんです。聞いてください」
普段はおとなしい女の子だと思っていたが、理不尽なことにはきちんと主張しようとする桜庭を初めて見た。
それにしても、失格になるとは思っていなかった。
魔物と対峙してチェックポイントなんて頭から飛んでしまっていたのだから、これは完全に俺のミスだ。
「桜庭、いいんだ。俺のミスだ。
ごめんよ、桜庭まで失格にしてしまった」
頭をかきながら謝る俺を、五十嵐先生はちらっと横目で見た。
「お前は、だいたい心構えが甘いんだよ。
チェックポイントを忘れるなんて基本が成っていない。
探索者と呼ぶには、まだまだだな」
桜庭は納得がいかないのか、それでも食い下がる。
「そんな、先生、違います。最上君は・・・・」
ダンジョン内で起こったことを説明しようとし続ける桜庭の口を、俺は手で制して
「五十嵐先生、申し訳ありませんでした」
と、頭を下げた。
揉め事を起こしたくなくて謝ったのではない。
学校にはもっと強いやつがうじゃうじゃいて、俺なんか吹けば飛ぶような雑魚でしかない。そのことは俺自身がよく知っている。
チェックポイントにタッチするのを忘れて、のこのこ帰って来た自分が情けない。
その不甲斐なさを認めて頭を下げたのだ。
ただダンジョンに引きこもってミッションクリアをこなす。
そしてポイントを稼ぐのを楽しんでいるだけの雑魚。
そう、俺にとって探索とはポイ活であり、それ以上でもそれ以下でもない。
「それから先生。こんなの出ましたけど、どうしましょう」
演習用ダンジョンの魔物には無いはずの魔石を持ち帰り、先生に差し出して相談した。
周りにいた同級生がにわかにざわつく。
「なんで最上が魔石を持って戻るんだ」
「演習用でも魔石って出るの?」
「出るわけないだろ。もともと持って来たんじゃないのか」
俺が魔石を持つことでクラスで目立つのは嫌だ。
目立つくらいなら、さっさと俺から取り上げて学校で管理して欲しい。
「先生、預かってもらえませんか」
五十嵐先生はわかったと頷きながら受け取り、魔石について特に言及することはなかった。
― RTA―
制限時間 30分
平均クリアタイム 25分
最速クリアタイム20分
迷宮探索高等専門学校、東北分校は一学年一クラス、定員10名の探索者養成学校だ。
この日、二年生のダンジョン探索演習は、Aダンジョンコース6名とBダンジョンコース4名に分かれた。
そして、担任の五十嵐先生が指名した生徒同士がバディを組み、一組づつダンジョンに入り込んでクリアタイムを競うことになった。
「初心者向けの演習用ダンジョンだから、別の階層には行かずに手前のチェックポイントに手をついて折り返してくること。
途中、トラップや謎解きがある。それをうまくクリアして、できるだけ早く戻る。
もしも、制限時間内に帰還できない場合は、入り口に強制移転させられる」
もちろん、ちゃんと説明は聞いていた。
ダンジョンに入る順番が発表されると、俺と桜庭は一番最後だとわかった。
いざダンジョンに入ってみると、先生が言っていたようなトラップも謎解きも無く、最初は拍子抜けしていたのだが、突然現れた魔物にすっかりテンパってしまい、チェックポイントの事なんか忘れてしまった。
無我夢中で魔物をボコって、魔石を手に入れて帰還したのに、結果は失格。
「えーっと、それでは演習後の無事を確認するため、全員点呼する」
10名しかいないんだから、わざわざ点呼しなくても目視で確認できそうな気もするが。
「狩野と杉山組」
「故障ありません」
「無事です」
ダンジョンが世界中に出現して二十年。
多くの課題を抱えた地球にとって、ダンジョンの出現はエネルギー問題解決の鍵になった。
「高橋と武田組」
「はい、故障なし」
「故障なしです」
ダンジョンで人間を襲ってくる魔物を駆除した跡には、魔石が出現する。
世界中の研究機関がその魔石の成分を分析したところ、新しいエネルギー資源として使えることがわかった。
それだけではない。
携帯電話に欠かせないバッテリーや、AI開発に不可欠な半導体に必要なレアメタルが大量に含まれることまで判明した。
「畠山と佐々木組」
「はい、無事です」
「大丈夫でーす」
魔石の成分が判明すると世界中が新しい秩序の幕開けに舵を切った。
各国がダンジョン攻略のためにしのぎを削っている。
それと同時に、特殊能力に目覚めた者たちが現れはじめた。
各国の特殊能力者はダンジョン探索者として貴重な人材となった。
「藤原と松井組」
「故障ありません」
「はい、故障ありません」
日本政府もダンジョン探索に力を入れた政策を打ち出した。
魔物を重要指定害獣とし、迷宮探索者という資格を作り、ダンジョン探索は環境保全とエネルギー開発の目玉政策になった。
経済産業省、迷宮探索政策室、迷宮探索技術研究所と役職をやたら作りだすのはいつものやり口。
そして、子供頃から特殊能力に目覚めた者は、迷宮探索高等専門学校の入学試験を受ける資格を与えられた。
探索者の育成に力を入れた政策は、徐々に軌道に乗り始めている
「最上と桜庭組」
「・・・はい、無事です」
「最上はどうした? 失格になって逃げたか?」
「います。勝手に決めつけないでください」
「声がしないから泣いて家に帰ったのかと思ったよ」
どっと笑い声が沸き起こり、先生の言葉で俺はみんなの笑いものにされた。
先生はうけ狙いだったかもしれないが、無神経な親父ギャグは思春期の心を傷つけるにはじゅうぶんだった。
先生が言った家に帰ったという言葉の裏には、俺が寮に入らず家から通っているという嫌味が含まれている。
俺には魔石も評価もどうだっていい。
それよりも、早く家に帰って自分が見つけたダンジョンで畑仕事がしたい。
そろそろトウモロコシを収穫しなくちゃいけないんだ。
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