第109話 ハヤブサさん?
あのヘリコプターは、敵なのか、味方なのか。
すると、ホバリングしているヘリコプターのドアが開いて、見覚えのある顔が俺を呼んだ。
「ハチ王子! 早く、こっちに乗るんだ!」
ハヤブサさん!
やっぱり、助けに来てくれたんだ。
ありがたい。
俺は安心して、環境応答を解除した。
それから、風に飛ばされないように柵を乗り越え屋上に転がり落ちた。
「気を付けろ。ほら、手を貸すから」
ハヤブサは、ホバリング中のヘリのドアから半身乗り出して、腕を伸ばしてきた。
できるだけ風をうけないようにかがんだ姿勢でヘリまで走って、その腕に捕まった。
ハヤブサは、思いっきりヘリの中へと俺を引き入れてくれた。
ドアは締められ、ヘリコプターは上昇した。
眼下には、ダン高専の校舎と、混乱している校門前の模擬店の様子が見えた。
「はぁ、助かったぁ。ありがとうございます。
ハヤブサさんが来てくれなかったら、どうなっていたことやら……」
「大変な思いをしたね。もう大丈夫だよ」
「よく俺が壁と保護色になって、壁を登っているってわかりましたね」
「あ、ああ。それは、サーモグラフィ画像を見ればわかるよ」
「ハヤブサさん、さすがっすね。
ハヤブサさんもサーモグラフィ画面を出せるなんて、俺知りませんでした」
「それは、上級探索者だったら常識だよ、ハチ王子」
俺は、なんとなく違和感があった。
ヘリが屋上でホバリングしていた時には、まだ俺は環境応答を解除していないから、俺が登ってきたのは見えないはずだ。
それなのに、屋上に到達する前から、俺が屋上を目指していることをハヤブサは知っていた。
謎だ。
ちょっと、カマかけてみるか。
「いやぁ文化祭って、面倒くさいですね。
俺、こんなに文化祭をぐちゃぐちゃにしちゃって、
桜庭に怒られちゃうなぁ」
「大丈夫だよ。妹にはわたしからよく言っておくから」
「……」
「どうした、ハチ王子」
「……、助けてもらって言うのもなんですが、あなた、どなたです?」
「いやだな、ふざけているのかい。ハチ王子」
「あなた、ハヤブサさんじゃない」
「おっと、冗談がすぎるなぁ。ハヤブサだよ。
どうした、まだ気持ちが動転しているのかい」
「ハヤブサさんは、妹の事をめったに妹と呼ばない。
大抵は、名前で呼ぶんだ」
「たまには、違った呼び方をする時もあるさ」
「それから、さっきから気になっているんですけど、
俺のことをハチ王子って呼ぶのは配信中だけですよね。
これ、今、配信してます?」
「あ、ああ、これから配信するつもりで、
気持ちを配信モードにしていたんだ」
「俺が壁を這い上がっているのをサーモグラフィで見ながらですか?」
「そうだよ」
「それ、無理っぽくね?」
ハヤブサと俺は気まずい空気の中、黙りこんだ。
ヘリの中は操縦中の機械音だけがやたらとうるさい。
そこを、俺から質問してみた。
「さて、問題です。ハヤブサさんの妹の名前は?」
「……」
「ハヤブサさんの妹の名前は?」
「……」
偽ハヤブサは、諦めたような溜息をついた。
「……予定より早く見破られてしまったか」
ハヤブサに変装した男は、ハヤブサの仮面をゆっくりと剥がした。
ベリッ、ベリベリッ…
仮面を剥がしたその素顔は……
「早く、仮面を取ってくださいよ」
「取ったよ。これが素顔だ」
仮面を取っても、その下はイケメンだった。
かつらを取ると、金色のウェイブかかった長髪がサラリとあらわれた。
「ほぇ~、ハヤブサさんの色違いだ」
「人間に色違いなんてないからな。
それを言うなら似ているって言うんだ」
「あ、そっか。でも、似ていない」
「どっちだよ!」
「ハヤブサさんのほうがイケメンだもん」
「そんなはずはない」
「いやぁ、あんた、ハヤブサさんに負けている」
「なんだと? …って、わたしがムキになってどうする。落ち着こう」
「そうだ。落ち着こう」
「君に言われたくないね。
そんなことより、『お前は誰だ』って聞かないのか」
「あ、そうだった。お前は誰だ」
「なんだかなぁ。
強制的に質問させて、それに答えるのもなぁ。気分が乗らない」
「そんなもんですか」
「そんなもんだよ。ここまでうまく行ったのに、
さっきからハチ王子がしゃべりだすと、なんだか調子が狂うな。
君と話していると頭が痛くなるって言われないかい?」
「よく言われます」
「やっぱり」
ヘリコプターの中は、再び気まずい空気が流れ沈黙が続いた。
「ちょっと、いいですか?」
「黙れ! 喋るな、バカがうつる」
ちょっと聞こうとしただけじゃん。
そんなに怒らなくたってよくね?
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