第106話 文化祭ハイウエイ・スター
俺の手のひらで光っていたのは、銃弾だった。
冗談じゃねえ!
「お、お前、なに素手で取ってんの? 超人かよ!」
たまたま隣でその瞬間を目撃していた狩野。
俺は狩野に向かって、口に人差し指をあて、しーっというサインを送った。
ここで大騒ぎになったら、文化祭が台無しだからな。
校舎内で俺を狙っている奴がいる。
校舎内は他の生徒やお客さまがたくさんいる。
そんな中で、発砲してくるなんて。
危険極まりない奴が潜んでいるのか。
いや、人が大勢いるからこそ、その中に紛れやすいというメリットを活かしての行動か。
「危ねえなぁ。こんなところで、
俺を狙って武器を使用するなんて…」
「いや、最上。それよりもお前のその反射神経、凄すぎだろ」
「いた、最上君! スライムが全然ないって、
お客さまからクレーム来ているんだけど。
全部回収しちゃったの? 信じられない! っもう!」
いつも俺の横にいてくれる狩野。
見慣れた激怒する桜庭の姿。
狩野、桜庭……ここに俺が居たら友達はもちろん、関係のない人たちまで巻き込むことになる。
どうする、俺…
友達を危険なことに巻き込みたくない。
「ちょっと、最上君、聞いてるの?」
どうする…逃げる。
ここは戦わないで逃げるしかないだろ。
「ねえ、最上君! どこへ行くのよ。
ちゃんと出口係してよ。それから、スライムを……」
「悪りぃ、ちょっと急用ができた。
桜庭、スライムはアイテムバックから適当にばら撒いてくれ。
それから、何があっても校舎から出るなよ」
「ばら撒くって……」
「桜庭、今は最上を行かせてやれ」
俺は廊下を疾走した。
「おーい、廊下を走るんじゃなーい!」
生徒指導の先生が俺を捕まえようと、廊下の真ん中に立ちはだかる。
俺は先生の直前で跳躍して、頭の上を飛び越えた。
「すいませーん。見逃してぇ」
「最上! お前、何するんだぁ。
おおお!!! お前、陸上部に入らないか?」
生徒指導の先生がいても、全く関係ないようだ。
俺を狙っている奴も、同じように廊下を走って追ってくる気配がする。
校舎内でいざこざを起こしたら、他の人を巻き込んでしまう。
とにかく、校舎の外へ出よう。
昇降口に出るために階段を降りて行こうとした。
ってか、階段も人が多くて、逃げるには関係ない人を突き飛ばして行かないと降りられそうにない。
うーーん、手すりを使って降りたいんだが……
横にメイド喫茶の恰好をした女子がトレイを持って客寄せをしていた。
「いらっしゃいませー。萌え萌えキュンキュンのメイド喫茶はこちらでぇす!」
俺は、メイドの女子からトレイを奪い取った。
「きゃっ」
「ごめん、ちょっと借りる」
奪い取ったトレイを持って手すりへ飛んだ瞬間、
足の下にトレイを敷いて手すりを滑降していく。
「キャー、泥棒!」
「何? スケボー?」
「手すりの切り替えし…ジャンプで切り抜けて行ったーー!」
「何これ。イベント? すっげー」
「うわーーー、かっこいい!」
歓声が聞こえる。
階段を降りて、トレイを上に放り投げた。
「サンキュー!」
誰がキャッチできたかは知らない。
そんなことより、昇降口だ。
げ! 大勢の人でごった返している。
昇降口から外へは出られそうにない。
昇降口をあきらめて、そのまま疾走すると廊下は体育館に続いていた。
あ、体育館の横に出入り口があるはずだ。
あそこなら、ノーマークだろう。
体育館の中へ入った。
中は暗幕で仕切られ真っ暗だった。
おっと、真っ暗で見えねぇじゃん。
ステージでは軽音楽部の演奏が始まっていて、舞台だけが明るく照明が当たっていた。
舞台以外はよく見えないが、観客で埋まっている様子だ。
これは、詰んだか。
俺は足を止めて、茫然としていた。
「あ、君だね。急遽応援に来たメンバーって」
「は? 何のこと……」
「早く、ステージに上がって、ギター持って。
ギターに欠員ができて困ってたんだよ」
「ギター…ですか?」
俺は、急遽背中を押されてステージに立つことになった。
舞台の下手から、ギターを持たされ登場すると、
「うわー、ハチ王子じゃない?
ステージで見られるなんてラッキー!」
「ハチ王子って軽音楽部だっけ?
よくわかんないけどギター持っているし、動画配信しちゃお」
「わたしも動画撮るぅ」
舞台の上では、軽音楽部のメンバーが、怪訝そうな顔で俺を眺めていた。
「こいつ、誰?」
「応援メンバーってこいつか」
「あ、あのどうも、こんにちは」
ステージ上では不穏な空気が流れていた。
それでも、観客の盛り上がりに押されて、この不審人物を受け入れるしかないと判断したようだ。
軽音楽部のリーダーらしき人が、突然の不審人物をうまく溶け込ませようとする。
「今日のサプライズゲストです。
急遽ギターの代役でハチ王子が来てくれました!
みなさん、拍手を!!」
ワーーー!!
パチパチパチパチ……
リーダーが小声で俺に挨拶を促した。
「何か、挨拶を…」
「あ、どうもー、」
マイクがハウリングを起こした。
キーーーン……
「マイクが近い! もうちょっとマイクから離れて」
「あ、ごめん。
えっと、ハチ王子でーす」
観客席がざわついた。
ハチ王子を知らない人だっているだろう。
「ダンジョン高専、東北分校の文化祭に来てくれて、ありがとう!
みんなー、楽しんでいるかーい?」
イェーイ!!
歓声が上がる。
その歓声に、俺も調子に乗って来た。
「みんな、声が小さいな。東北分校ってそんなもんかよ、
もう一回聞くぞ。
ダン高専!! 楽しんでいるかーい!!」
イェーイ!! ゥワーーー!!!!
さっきよりも大きな歓声だ。
この歓声のなかで、どうやって俺を狙うつもりだ。
「まだまだ、出せるだろう。田沢湖まで響くような声を出してくれ。
ダン高専!! 楽しんでいるかーーい!!!」
最大の歓声まで盛り上げたからには、
何か弾かないとな。
ノマド・キャンパーのビリーさんからギターを教えてもらっててよかった。
ただ、ノマドたちから習った曲は古いかもしれない。
「ちょっと、古いかもしれないけど、ノリノリの曲です。
行くぜ! 『ハイウエイ・スター』」
軽音楽部の部員が固まった。
「知ってる?」
「知らない」
あれ? 古すぎて誰も知らないか。
「おれ、知ってる。ヘビメタの名曲だ。
コード進行は単純だから、
ワンコーラス歌えばなんとかなるよ、みんな」
頼む、俺はこれしか弾けないんだ。なんとかバックについてくれ!
知っていると言ってくれた部員が、イントロのベースを弾き始めた。
見切り発車だが、『ハイウエイ・スター』が始まった。
アップテンポのイントロに客席は沸き立った。
スマホをかざしている観客たち
俺の下手な英語の歌でも、アップテンポでごまかして観客はノリノリだ。
コード進行を覚えた部員たちは、ベースとキーボードで合わせてくれた。
ドラムも、ハイビッチなテンポで合わせてくれる。
見せ所はギターソロだ。
ギターソロの部分は、ビリーさんから特訓を受けて自信があった。
滑るような指で、ソロの超ハイピッチな部分を弾きまくる。
観客は総立ちで、タオルをブンブン振り回してノッてくれた。
曲が終わると、大歓声。
ワーーーー!!!
「すみません、お邪魔しましたー。では、これで」
「待って、ハチ王子。もう一曲、お願いできませんか?」
客席は、アンコール!アンコール!の大歓声だった。
「嬉しいけど、俺あれしか弾けないんで…」
俺は、舞台を降りて出入口を目指して走った。
「面白かった!」
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