第10話 女神山ダンジョン
ハヤブサが忍たちと配信する場所は、
よく行き慣れた岩手県和賀郡に決められた。
秋田県との県境にある女神山ダンジョンである。
「今回はゲストとして、三人を紹介するのがメインで、
討伐で成果を出すことが目的ではない。
安全重視でこのダンジョンに決めた。」
と、ハヤブサは言っている。
よくよく考えると、この四人の中で武器を使えるのはハヤブサ一人だけ。
俺たちは、未成年のため武器の使用が認められていないのだ。
行き慣れたダンジョンでないと、高専の生徒を連れての探索は危険だ。
「狩野君は、ハンドルネームはあるかい」
「僕はいつもカリノってカタカナ表記で配信してます」
「芸がないな」
狩野は芸がないと言われて、不機嫌な表情で言い返す。
「じゃあ、ハヤブサさんは本名をなんていうんですか?」
「桜庭隼人だ」
「へえ、さすがっすね。隼人からハヤブサってひねってますね」
「お前、バカにしてんだろ」
「そんなことないです。マジで感心してます。
でも、初配信の桜庭あずさと最上はどうするんです?
ハヤブサさんのセンスでネーミングしてあげるんですか?」
俺は名前などどうでもいい。
さっさとこの配信を終わらせて、ミッションクリアしたら、秘密のダンジョンで
トウモロコシを収穫しなくちゃいけない。
爺ちゃんに持ってくるって約束したから。
「あずさは、わたしのかわいい姫だから、姫にする」
「お兄ちゃん、安直ね。適当につけてるでしょ」
「そんなことないよ。どこからどう見ても、あずさはかわいいお姫様だからだよ」
「じゃあ、最上君は何にするの? 約束通りにアバターもつけてあげてね」
「ああ、もちろん、アバターのことを忘れてないさ。
AIが顔認識するアバターって、あまり種類がなくて選べないんだけど、
これでいいだろう」
ハヤブサはスマホのカメラを俺に向けて、AIに顔を認識させてアバターを選択している。
「あずさが姫だから、最上君のハンドルネームは王子でいいね。
最上君、聞いてる? ハンドルネームだけど・・・」
「あ、適当でいいです。
アバターもつけて顔バレNGにしてもらえれば、別になんでも」
早く終わらないかな。
トウモロコシの収穫が遅くなる。
「えっと、配信中はハンドルネームで呼ぶこと。
これは常識だから、知っているとは思うが、
慣れないとつい本名で呼んでしまうから気を付けろ」
「狩野はカタカナのカリノだから、音声では同じじゃないか」
「そうだな、最上君の言う通りだ」
「はい、お兄ちゃんブブーです。
呼び方気をつけてって自分で言ったくせに」
「ああ、ごめん、ごめん、王子の言う通り。でいいのかな、姫」
「あのう、ハヤブサさん、
姫がハヤブサさんをお兄ちゃんって呼ぶのはOKなんですか?」
「カリノ、そこは勘弁してくれ。
姫はわたしをお兄ちゃんと呼ぶ。特例だ」
「ふうん、そんなものですか。
わかったか、王子。
王子、王子・・・お前だよ最上!」
「あ、ああ、わかった。わかったよ狩野」
「今、お前漢字で呼んだろ」
「え? なんでわかるの、漢字だって」
ハヤブサはスマホを小型ドローンに取りつけ始めた。
撮影角度は自動で変わるようになっているようだ。
*
「はい、みなさんこんにちは! ハヤブサ・チャンネルです。
今日はいつもと違って、素敵な若手探索者をゲストにむかえています」
やっと始まったか。
あ、アバターを確認するのを忘れた。
ちゃんと俺の顔はアバターになっているんだろうな。
アバターになっていると分かっていても、撮影画面が見えないから、なんだか恥ずかしい。
できるだけ、みんなから離れて端っこにいるようにする。
「今回は彼を紹介したくてこの企画をたてました。
武器なしでも驚くほど強い、王子です。
王子は将来有望な探索者です。では、あいさつを・・・」
ボケっと突っ立て居たら、狩野が俺の脇を突っつく。
「おい、カメラの向こうにいるリスナーさんにあいさつだよ」
「あ、ども。王子? って名前もらいました」
「それと、王子の友達のカリノ、そして姫です。
みなさんカリノを知っている人はいるのかな・・・・
ふうん、あまりいないみたいだね」
ハヤブサはコメント欄を読んでいる。
開始して数分でコメントが来るほど同接数があっという間に伸びているのか。
さすが、人気配信者とは凄いものだ。
「ここのダンジョンは、前も配信したことあるけど、
今日はわたしと彼らとのチームプレーをお楽しみください。
それでは、レッツゴー」
小型ドローンが俺たちを捕えながら上に上がっていった。
ドローンに取り付けられたスマホのカメラは、ダンジョン探索の様子を配信している。
俺にとって配信に出るのは始めてで、何もかもがめずらしい。
小声で狩野にいろいろ聞きたいことがあるのだが、
音声はどこまで拾うのかさえわからない。
ささやき声くらいならいいのかな。
「おい、カタカナのカリノ、ちょっといいか?」
「わざわざカタカナのって付けなくていい」
「リスナーのコメントってどうやって見るんだ?」
「ステイタス画面出すときみたいに、左手を振る」
「サンキュ」
「魔物が出る前に、コメント欄を表示しておいたほうが便利だぞ」
「お、おう」
狩野に言われた通りに、今のうちにコメント欄を表示させることにした。
左手を振ると、コメントが流れて行くのが見えた。
(ハヤブサさん、かっこいい)
(今日のゲストって何者? 王子とか言う奴、ふざけてるのか)
(王子ってどれ?)
(顔が秋田犬になってる奴ww)
(秋田犬で草)
(一人だけアバター使うなんて、身バレしたらヤバい奴なんじゃね?)
なに、・・・俺、顔が秋田犬になってるのか!
そりゃ確かにハヤブサに何でもいいですと返事をしたのは俺だ。
今さら、これはひどいですなんて抗議する資格はないけど・・・
仮に涙ながらに訴えても、俺の涙目までアバターは表現してくれないだろう。
しかたがない。
配信はこれっきりだ。
これ一回きりだから、秋田犬で我慢することにする。
「ハヤブサさん、ありました! 魔物が通った跡です。
ひょっとしたらデカい犬かもしれませんが」
「なに、もう見つけたのかカリノ」
ハヤブサはカリノと並んで岩場へ向かう。
後ろで様子をうかがっている姫は、どこか怯えた様子だ。
「魔物がいるなんて、この先に進むの恐いわ」
「大丈夫だ、お兄ちゃんがいるからね」
(お兄ちゃんって言った?)
(姫ってハヤブサの妹なん?)
(兄妹で探索配信か、がんばれハヤブサ)
しばらく岩場を探索したが、魔物は現れない。
もしかしたら、過去に通った跡で、ここにはもういない可能性もある。
「おいおい、君たちそんなに無防備に歩くんじゃない。少しは警戒しろ。
何かあったら、武器を扱えるのはわたしだけなんだからな・・・・
いまのはなんだ?」
「どうしたのお兄ちゃん」
「何か聞こえなかったか」
カリノと俺は、はて?と足を止める。
「さあ・・・」
耳をそばたてながら、俺はゆっくりと動きだす。
岩と岩の間には、踏みつぶされたシダが倒れている。
シダは枯れずにまだ青々としたままつぶれているということは、今しがた魔物がここを通ったばかりを意味する。
草むらの陰から一羽の鳥が羽ばたいて飛んで行った。
「ビックリしたぁーーーー!!! なんだ、鳥じゃん」
思わず大声をあげてしまったカリノ。
しかし、悲劇は起こった。
突然、カリノに向かって、魔物が牙をむきだして襲い掛かって来た。
不意を突かれたカリノは、魔物の正体が何か確認できないままに首を噛まれた。
「カリノ! 大丈夫か。姫、カリノを頼む」
そう言って、魔物に向かって行ったのは俺ではない。
ハヤブサだった。
俺は、ただ驚いて茫然としていた。
だが、カリノを襲った魔物は魔狼だということだけはわかった。
それもかなりの大きさの。
ハヤブサは指をパチンと鳴らして魔弾を飛ばす。
魔狼は魔弾を太い腕で払いのけ、標的をカリノからハヤブサに移して襲い掛かろうとした。
「ハヤブサさん、後ろに下がって!」
とっさにハヤブサに指示出しした俺は、魔狼めがけて拳を振り下ろす。
拳を難なく避けた魔狼は、別の岩へと飛びのく。
既に標的を失った拳は、狼が立っていた場所をぶち抜いて、岩は真っ二つに割れた。
(岩が割れたようだが)
(うそ! 素手で岩を割ったのか、秋田犬)
(秋田犬が、素手で岩を割ったぞ)
(忠犬ハチ公が岩を真っ二つに割った!!!)
(すげぇ! ハチ公)
(誰だ、ハチ公って呼んだやつ。それいいね!)
魔狼はどこへ逃げた。
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