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脱輪解除戦①

 田舎にありがちなことなのであるが、基本的に田舎で都市機能がある中心区画には、外から来た人は住んでいない。


 そこらに住んでいる人は代々商売を営んだりしていた人たち、もしくはその子孫で、紋次郎のような外来の人間が住むのはもっぱら郊外の田んぼを潰して作られたアパートである。


 ということで、紋次郎は毎日毎日、郊外から学校のある中心区画に行き、郊外に帰るという不便をしなければならない。


 近くにコンビニ等もあるにはあるが、基本的には夏はゲコゲコとカエルの鳴き声がうるさい辺鄙な場所である。




 明日になったらエレーナさん、話しかけてくるかな……紋次郎はそのことを黙々と考えながら帰宅路を歩いた。


 今日出会って知り合ったばかりの人だが、流石にあんな話をされればずっと無視してくるはずがない。十中八九、向こうから調査だ何だと接触してくることは間違いない。




 けれど――紋次郎は少しだけ、今しがた堀山茜に言われたことを考えた。


 危ないところを助けられたエレーナは、少なからず紋次郎に好意を抱いているはずだ、と堀山茜は断言した。そりゃそれなりに危険な目にも遭ったのだから、紋次郎だってその分ぐらいは感謝されることにやぶさかではない。




 でも、好意――となると、よくわからない。多少、危ないところを助けたぐらいで、エレーナは見ず知らずの男――しかも宿敵の子孫である男に好意を持ったりするほど、チョロい女なのだろうか。


 もし、エレーナがそれなりにチョロい女で、自分にほんのささやかでも好意というものを抱いているなら、それはどういった意味での「好意」なのか。


 お友達程度の好意なのか、それとも少しでも異性として頼りがいがあると思ってくれていることなのか。それがわからないのだ。




 紋次郎も健全な男子高校生であり、異性に全く関心がないわけでもない。それにエレーナはひと目見ただけでその容姿に圧倒されてしまうような、まさに極上の美少女と言える存在である。


 もしあんな人が自分に曲がりなりにも好意というものを持っているのなら――それは正直嬉しいとも思う。


 けれど、その恩義に乗っかって関係を縮めるようなことは、どうしてもしたくはない。


 それだと自分のやったことが下心ありきの行動に思えて、自分があのチンピラたちと同類の、たまらない下衆に思えてしまうのだ。




 一体エレーナとは、今後どのような関係性で付き合っていけばいいのだろう……。 


 紋次郎は悶々と考えながら、人家と畑がまばらに点在する十字路を左に曲がった。




 曲がった先で、紋次郎はふと立ち止まった。如何にも田舎道でござい、という田んぼの中の路肩に、一台の車が停車していた。




 いや――よく見れば停車しているのではなかった。荷物を満載した小型トラックは左の前輪が路肩の側溝に落ち込んでいて、車は完全に脱輪していた。


 困り果てて途方に暮れている様子の人物たちの中に――今日一日ですっかり見慣れてしまった美しい銀髪を見つけた紋次郎は、あ、と声を上げた。




 銀髪の人物は額の汗を袖で拭い、悔しそうに呻いた。




「……くそっ、ダメかぁ。これ以上は私たち三人だけじゃどうにもならないかも……」

「あの、もういいです。ありがとうございます、後は私たちだけでなんとかしますから……」

「ママ、そろそろ暗くなってきたよ。パパのところに行かないと……」




 見ると、エレーナは新品であるはずの制服を土埃に塗れさせていた。既に下校時間から二時間以上経過していることを考えると、相当の長い時間、ここであの親子と悪戦苦闘していたらしい。


 どうにも、運転操作を誤った母親が脱輪してしまったところにエレーナが通りかかり、何とか車を脱出させようとしているということらしい。


 あらかたの事態を察した紋次郎が「エレーナさん!」という声とともに駆け寄ると、ぎょっと顔を上げたエレーナの目がみるみる丸くなっていく。




「モンジロー……!? あなた、どうしてこんなところに?」

「こっちが俺の家だからね。エレーナさんこそ、こんなところで何を?」

「たまたま通りかかったら、こちらの人たちがこうなって困っていたから。ここはスマホの電波がよく通じないからロードサービスも呼べない。だからなんとかしようと思ったんだけど、私一人じゃどうにも……」




 エレーナが悔しそうに呻くと、雑貨屋のロゴが入ったエプロン姿の若い母親が、困り果てた表情で頭を下げた。その母親の手を握り、五歳ぐらいの女の子が泣きそうになりながら紋次郎を見上げた。 




「よっしゃ、そういうことか。ならエレーナさん、俺がなんとかするよ」




◆◆◆



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