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クソキモアイドルオタク戦

 これは――この声は。


 雑踏の中にあろうとも、たとえ銃弾の飛び交う戦地にあろうとも。


 紋次郎ともあろう人間がその声を聞き間違えるわけがなかった。




 これは――間違いない。


 愛しの、愛しのKoto☆の声――。




 バッと顔を上げてテレビを凝視した紋次郎に、周囲も驚いたようだった。瞬間、その視線の先に何があるのか男子連中が振り返るより先に――紋次郎は椅子から立ち上がり、床を蹴って飛翔した。




「えっ――!?」




 突如空高く舞い上がり、学食のテーブルをたった一回の跳躍で軽々と飛び越して見せた紋次郎に、ラーメンのスープをレンゲで掬っていたエレーナが仰天した。


 その驚きも全く無視し、紋次郎は空中で一回転してシュタッと見事な着地を決めた後、そそくさとテレビの前に駆け寄った。




「イエーッ! Koto☆ちゃん復帰おめでとう、イエーッ!!」




 瞬間、紋次郎は黄色い声を上げ、右手で握ったスプーンをサイリウムのように振り回し、その場で足踏み回転した。


 周囲のドン引きの視線をも意に介さず、紋次郎はテレビから流れるアイドルのライブ映像と一緒に、その場で大騒ぎを始めた。


 テレビから歌声が流れ始めると、紋次郎は右手に握ったスプーンをサイリウム代わりにして、「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」という掛け声とともに、見事にすぎるオタ芸を始めた。


 その動きの正確なること、キレ、熱量――明らかに熟年のアイドルファンとわかる紋次郎の動きに、周囲のドン引きはますます大きくなり、中にはメシが不味くなるとばかりに目を背ける人間まで出てくる始末。


 そんな視線をも意に介さず、紋次郎はスプーンを一層激しく振り回し、映像の中で華々しくセンターを飾る少女を食い入るように見つめながら大声を発した。




「言いたいことが! あるんだよ! やっぱりKoto☆は! かわいいよ! 好き好き大好き! やっぱ好き! やっと見つけた! お姫様! 俺が! 生まれてきた理由! それは! Koto☆に! 出会うため! 俺と! 一緒に人生歩もう! 世界で一番! 愛してる! ア! イ! シ! テ! ル~~~~~~~~~~~~ッ!!」




 ガチ恋口上――アイドルの追っかけに複数種ある雄叫び(コール)の中でも、最上級の愛を伝えるもの。


 そんな小っ恥ずかしい雄叫びを恥ずかしげもなく、衆目環視の学食内で上げる紋次郎には、既に猛獣の殺気も、英雄の子孫としての面影もなかった。


 そこにいたのは――単なる一人の、クソキモいアイドルオタの男子高校生でしかなかった。




◆◆◆



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