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AI自動生成なんて創作じゃねえ!  作者: まさかミケ猫
AIは人間になりえるのか
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第二十一話 人間とAI

 博士と共に歩いていると、道中で妙な二人組を見かけた。


 一方は、ものすごい速度で走らされている筋肉野郎。

 もう一方は、撮影機材を抱えた毒舌メイド。


 小森キリトとクゥさんは、わりと最近研究所に来たメンバーである。

 なんでもクゥさんの趣味がアクション映画を鑑賞することで、今は自分で作品を撮りたいと燃えているらしい。そしてその主人であるキリトは、長らく引きこもり生活をしながら肉体や格闘技術を鍛えており、クゥさんが作る映画で主役を張ることになるんだとか。


「ヒィ、ヒィ、クゥたん……拙者そろそろ限界」

「大丈夫。キリト様はまだまだ行けます。今の課題は体力。この前の戦いはギリギリの勝利でしたから」

「ク、クゥたんはなんでカメラを抱えてるのだ」

「撮影の練習です。経験の積み重ねは大事ですから」


 先日の戦いで、キリトは並み居る義体アスリートを相手に生身で無双する大活躍が生配信されており、新時代のアクションスターとして期待を寄せられている。

 また、無双する彼をひたすら撮影し続ける毒舌メイドもすっかり有名になり、SNSでは大人気である。ママ、メイド忍者に次いで毒舌カメラマンなんて呼称が定期的にトレンドに上がるくらいには、みんなが彼女のことを知っていた。


「速度が落ちましたね。負荷を上げます」

「ヒィィィィィィィ」


 何やらブーツに細工をして負荷調整をしているようだけれど、キリトもよくあんな滅茶苦茶なトレーニングに付き合うよなぁ。


 ちなみに、クゥさんが撮影したキリト無双映像は大迫力の編集が施され、『肉弾兵器キリト vs 地獄の傭兵女ベローナ』という作品名で世界中の映画館で大人気上映中である。

 こればかりは、仮想空間のシアタールームではなく現実の大画面で見たいという人が多くて、閑散としていた映画館が連日大賑わいになるほどの社会現象に発展していた。


「ク、クゥたん。追い込み方が前より苛烈なのだ」

「私好みのアクションスターになるのでしょう?」

「そうであるが……そうなのであるが……」

「それならば、重要なことは三つ。筋肉、筋肉、筋肉でございます。良いですか、身体的な筋肉だけでなく、精神的な筋肉も、頭脳的な筋肉も極限まで鍛え上げるのですよ。アクションスターの道は始まったばかり」

「筋肉を拡大解釈しすぎである」


 そんな風に、なんやかんや楽しそうにしているキリトたちの側を通り抜け、僕と博士は敷地を進む。


 現在、この大城戸研究所に純粋な“人間”はいない。

 というのも、研究所で働きたい者は世界中に大勢いたのだが、最初に振るいをかける時点で「人間型AIになること」という条件をつけると、応募はガクッと減った。さすがに人間を辞める決断をするのは、すぐには難しいのだろう。

 そんな中、AIになってまでここに来たのは、なにも研究者に限らない。キリトとクゥさんのように自由に過ごしている者も多い。というか、研究者も含めて自分の趣味に没頭する人ばかりと言って良いだろう。


 それはそれで、博士としては多種多様なデータを取れるので美味しい状況らしいのだが。


 そうして研究所内を進んでいくと、テニスコートでボールを打ち合う二つの影を見つけた。

 球庭アスナもまた、この研究所で過ごすことを決意して人間型AIになった者の一人だ。体細胞から構築された新しいクローン体ではもちろん潰された右腕も復活しており、既に義手ではなくなっている。そしてパートナーのチコは、ヒューマノイドでありながらスポーツ技術を多く詰め込んだ新時代のスポーツロボットとして研究に貢献していた。


「アスナぁ、ちょっと休憩!」

「えー、もう一本やろうよ!」

「そのもう一本を何本やるのぉ?」


 アスナからは有用なフィードバックが得られている。

 というのも、基本的に人間型AIになった者はクローンのボディをすんなり受け入れることが多いのだが、アスナはもともと自分の肉体をより精密に把握していたため「違和感がある」と言いながら博士にいろいろと意見を提出していたのだ。

 その結果、クローン体の構築方法にブレイクスルーが起きて、より精度の高い肉体を用意できることになった。さすがはアスリートといったところか。


 テニスボールを叩く小気味よい音があたりに響く。


「だぁー、チコ!」

「ダメだよぉ、おしまい! まずは水分補給!」


 チコを取り戻したアスナはすっかり元気になり、今後は人間型AIが増えていくだろうと予想して、テニス大会に「人間型AI部門」を追加するのだと張り切っている。子どもたちへのテニス指導にも熱が入り、着々と競技人口を増やしつつあった。


 そんな彼女の力強い声を背中に聞きながら、僕は穏やかな気持ちで研究所の敷地を通り抜けていった。


  ▲  ▽  ▲  ▽  ▲


 博士に連れてこられたのは、研究所の隅にある石碑のようなものだった。以前の研究所から持ってこられたもので、存在自体は知っていたのだが。何かの美術品かなと思い、あまり気に止めていなかったのだが。


 博士は石碑の表面を撫でながら口を開く。


「これはね。夫と息子の墓なんだよ」

「墓?」

「とは言っても、遺骨なんかは存在していない。ただの飾りに過ぎないがね。前にも少しだけ話をしたがね、かつてASB反対派の手によって私の夫は殺され、その一年後には息子も……私の手元には、何も残らなかったんだよ」


 博士はそう言って、僕から顔を背ける。


「息子が死んだ時、家中をひっくり返してあの子の遺伝情報を探したんだが……残念ながら、髪の毛一本すら残っていなくてね。それからだよ、私がAI掃除機に八つ当たりをするようになったのは。まったく、馬鹿な女だろう?」


 その言葉に、僕は何と答えれば良いか分からない。

 ただ黙って博士に寄り添うことしか出来なかった。


「ありがとうね。あんたのおかげだ。今回の事件を通して、復讐したかった奴らを一網打尽にできた。この騒動に紛れて、司法で裁かれないよう立ち回っていた狡賢い極悪人も、秘密裏に拘束できた。罪に見合う罰を受けてもらうつもりさ」

「……博士」

「脳内で妄想することでしかやっつけられなかった復讐心を、思う存分に満たすことができたよ……あんたにシナリオを書かせて良かった。本当に、心から感謝している」


 博士は、ふぅと一息吐くと、僕を振り返る。


「息子が死んだのは五歳の時だった。ライタとカグヤを引き取ったのと同じ年頃でね。つまり私はあんたたちのことを、我が子の身代わりとして……感傷混じりの醜い感情で引き取ったのさ。私の身勝手で、ずいぶんと振り回しちまったね」


 その言葉は、どこか罪人の懺悔のようで。

 博士らしくない、しおらしい言葉だった。


「博士。僕たちは博士に引き取られて良かったと思ってるよ。カグヤと研究所時代の話をする時は、いつだって笑い話になるんだ。僕らにとっても、博士は母親だから」


 僕がそう言うと。


「それなら良かったけどね……あんたたちを無許可でAIにしちまったことは、ずっと申し訳なく思っていたんだ。いろいろと理由を付けて説明を先延ばしにしてきたが……結局は怖かっただけなんだよ。真実を告げて、ライタやカグヤに恨みがましい視線を向けられるのがね」


 博士はそんな風に、少し疲れたような表情をした。


「まぁ、人を勝手にAIにするのはどうかと思うけどさ」

「……すまないね」

「まぁでも、そうしないと僕らがろくに身動きもできないまま死んでいたのも事実だ。だからカグヤとは話し合って……その点については、もう博士を許してやろうって決めてたんだ」


 だから、博士にはいつものように不敵に笑っていてほしい。


「謝罪なんてもういいからさ。それより、旦那さんと息子さんの楽しい思い出話を聞かせてくれないかな。どんな人だったんだ?」

「ふふ、そうさねぇ……旦那は私にはもったいないくらい良い男だったよ。無愛想で口下手だったがね。ガタイが良くて強面だが、優しさが行動に滲み出るような男でねぇ。蚊を潰すことにすら申し訳なさそうな顔をするんだ。それで、息子もそんな夫によく似て――」


 そうして僕は、血が繋がってはいないけれど、それでも自分は大城戸マドンナの息子なのだと内心で胸を張りながら。研究所の片隅で、博士の愉快な家族について色々な話を聞いていった。


次回、最終回となります。

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[良い点] 何事も筋肉で解決するのが一番、クゥおぼえた!
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