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AI自動生成なんて創作じゃねえ!  作者: まさかミケ猫
AIは人間になりえるのか
20/22

第二十話 大城戸研究所

――今、AIアシスタントとの恋愛が熱い。


 お調子者の動画配信者がそんなことを言っていて、僕はつい苦笑いをしてしまう。

 確かに、人間とAIアシスタントの関係は以前より親密になっただろう。僕が書いた恋愛小説「お硬い彼氏」は人間の女の子がパートナーロボットに恋をする物語なのだけれど、これがかなりの大ヒットをしたのだ。今度、映画にもなることが決まっている。


 人間とAIの恋愛が世間一般に受け入れられつつあるのは、実のところパートナーロボットという「触れられるAIアシスタント」がいるというのが大きな要因らしい。

 カグヤと触れ合えるようになって実感したが、仮想空間でしか恋人と触れ合えないのは、やはりちょっと寂しいと思ってしまうものだ。物理的に触れ合えるというのは、人間が思っている以上に、きっと心を通わせるのに大きな要素なのだろう。


 ロボットのボディはまだまだ改良の余地があって、日夜研究が進められている。人間の体温を再現する機能であったり、恋人として必要な生々しい機能であったり。かなり昔に廃れた技術が再び脚光を浴びはじめ、何人もの研究者が新しいアイデアをこねくり回していた。


「……あ、ライタ。おはよう」


 隣ですやすや眠っていたカグヤが目覚める。


「おはよう、カグヤ。今日ものんびりだね」

「えー、ライタが早起きなんだよ」

「そうかもな。最近は現実世界の方が楽しいし」


 ちなみに、なぜか世間からママ呼ばわりされている恋人のカグヤは、最近は動画配信をするのにハマっている。

 僕もたまに出演させられるけど、視聴者が僕に『パパの小説おもしろかったよ』とコメントしてきた時は、どんな顔をすれば良いのか分からなくて悩んだものだ。みんな口を揃えて『笑えばいいと思うよ』とか言って馬鹿の陳列会場みたいになってたけど。


 そうしてダラダラしていると、部屋の中に二体の動物ロボットが入ってくる。

 ぴょんぴょん跳ねている兎型ロボットはカグヤのAIアシスタントだ。


「カグヤ、おはよう。朝ご飯どうする?」

「おはよう、キャロ。和食でお願い」

「分かった! すぐ準備するね!」


 兎のキャロは長い耳をピンと立てて部屋を去る。

 今日も元気だなぁ。


 その後ろから、のそのそと歩いてくる亀型ロボットは僕のAIアシスタントである。


「おはようございます、ライタさん」

「うん。おはよう、ウラシマ」

「今日はいい天気になりましたね」

「そうだね……今日はピクニックでもしようか」

「なるほど。それは良い考えだと思います」

「それなら、昼食はサンドイッチを中心にしてもらおうかな。代わりに、朝は和食にしよう。カグヤのと同じメニューで良いよ。お願いできるかい?」

「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」


 亀のウラシマはゆっくりと方向転換をして、のそのそと部屋を出ていく。

 今日もスローペースだけれど、実はその裏でASBネットワーク越しにテキパキと朝食を作っていたりするので、仕事面では有能だったりする。


 もちろん僕らはAIだから、ASB経由で家電を操作するのは人間より得意なんだけれど、やはりアシスタントがいるほうが色々と楽である。

 しかし人型アシスタントはカグヤが嫌がった(特に巨乳アシスタントは絶対にNG)ので、二人揃って動物型のアシスタントと契約することにしたのだ。


 ちなみに僕らは、大城戸研究所の住居エリアに家族用の部屋を借りている。


 窓からは研究所の黒々とした尖塔が見える。SNSではすっかり「魔王城」の名で定着してしまったあの施設は、表向きはデータセンターということにしてあるけれど……実は通信の中継基地に過ぎなかったりする。人間派が何らかの手段でアレを壊していたとしても、AIのバックアップデータが丸ごとダメになるようなことはなかった。保険は多重にかけておくものだ。


「ねぇ、私もピクニックについてっていい?」

「ん? ダメな理由があると思う?」

「ないと思う! え、ないよね?」


 こうして、今日の僕らの予定はピクニックに決まった。


 大城戸研究所の敷地はもともと広大な上に、かつて人間派が戦争準備をしていた土地もまるっと買い取って整備したので、ピクニックに丁度いいスポットがいくつもあった。


 芝生に敷いたレジャーシートに腰を下ろし、兎と亀が競争する様子をのんびりと眺める。

 もちろん兎が圧倒的な速さで勝利するんだけれど、亀は「さすが速いですね」と欠片も悔しがらずに呑気にしている。どうも昔話みたいな展開にはなりそうにない。


「ねぇ、ライタ。昔話のかぐや姫ってあるけどさぁ。あれが宇宙人の話って本当?」

「まぁ、研究ではその解釈が主流ではあるよね。お爺さんが見つけた光る竹は脱出カプセル。かぐや姫は地球に流れ着いた小型の異星人で、地球人に似せた物理アバターを作って被るんだけど、美人に作りすぎたから大騒動になって……で、母星から迎えがきて帰っていくっていう」


 昔の地層から明らかに地球人のものではない脱出カプセルが出土したから大騒ぎになったんだよね。今の技術でも再現できないくらい高度なもので、異星人がいる証拠の一つだって言われている。


「浦島太郎のお話も宇宙人なの?」

「それが一般的な解釈になるね。不時着していた亀型の宇宙船を助けた太郎は異星に連れて行かれたんだけど、時空流を調整しないまま亜光速移動した結果、地球に帰ってきてたら百年単位で時間が経過していたんだ」


 玉手箱らしきものも古い地層から見つかってるんだよね。構造的には地球の位置情報を異星に伝えるビーコンのようなものなんだけど、すごく繊細な量子コンピュータだから、蓋を開いちゃいけなかったんだ。

 そんな風に異星人の痕跡は世界各地から見つかっているのだけれど、人類はまだ実際の異星人と交流したという公式の記録がない。まぁでも。


「AIの技術が進めば、異星人との接触もいつか出来るようになるかもしれないね」

「そうなの?」

「うん。生身の人間なら長期間の宇宙旅行に耐えられないけど、AIなら移動中はずっとプロセスを停止しておけばいいしね。異星についたらボディを起動すれば探検できる」


 ロボットの体なら大気組成なんかの影響もないし。きっと地球に来た異星人たちも、それに近い技術を駆使してやって来たんじゃないかなと思うのだ。


 あ、面白そうだな。

 次に書く小説は、そうやって様々な星を渡り歩く探検家AIを主人公にしても良いかもしれない。ジャンルとしてはSFになるだろうか。


「またメモしてる……小説にするの?」

「うん。けっこう面白くなると思う」

「うふふ……AI自動生成なんて創作じゃねえ! って言う人に、今のライタの姿を見せてあげたいよ」


 こんな風にして、現実世界で触れ合えるようになった僕らは、穏やかで楽しい日常を過ごしている。


  ▲  ▽  ▲  ▽  ▲


 研究所の方に戻ると、今や子どもたちに大人気となったメイド忍者のキララが、前庭を広く使ってケイドロという遊びをしていた。


 警察役はメイド忍者一人。

 泥棒役は子どもたち百人。

 とんでもない治安の悪さである。


 基本的に手加減というものを苦手としているキララは、めちゃくちゃな速度で縦横無尽に駆け回ると、子どもたちを抱えて牢屋(もちろん地面に白線を引いただけの牢屋エリアだ)に放り込む。

 対する泥棒たちは、警察から逃げ回りつつ隙を伺い、捕まっている仲間の泥棒にタッチすることで彼らを牢屋から逃がしていく。


 なんて殺伐とした世界観の遊びだろう。


 制限時間いっぱいまで一人でも逃げ切れれば泥棒の勝ち、全員捕まえれば警察の勝ちである。

 こういった遊びではキララが勝つことが多いのだが、今日は子どもたちのほうが一枚上手だった。牢屋付近にしれっと立っていた泥棒が、隙を見て大量の泥棒を脱走させ、この世界の治安が大変なことになったままゲームが終了したのである。


「く、新ロボット忍法おっぱいネットさえ使えれば」

「ロボット忍法はダメって言ったでしょー!」

「それは反則ー!」

「おっぱいネット?」

「ロボット忍法は禁止でーす!」


 キララと子どもたちの楽しげな様子を眺めていると、僕とカグヤのもとに一つの人影が現れる。


 この広大な研究所の所長にして、僕らを育ててくれた母親であり、今や世界一有名な研究者として名声を欲しいままにしている魔王。大城戸マドンナ博士だ。


「やってるねぇ」

「あっ、博士! どうしたの?」

「悪いねカグヤ。ちょいとばかりあんたの恋人を借りたくて、探していたんだよ。二人でラブラブな時間を満喫しているところを悪いが……」

「別にいいよ、どうぞどうぞ」


 カグヤは僕の身柄を博士にずいと差し出した。

 いや、別に良いんだけどさ。


「何の用事?」

「それはあとで説明するさ。とにかく行くよ」


 そうして、踵を返した博士の背中を追い、僕は歩き出した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 温故知新ですね
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