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『国際魔導機構 歴史と沿革 概要その一』
「フォッサマグナ」。
元々は日本の本州の東西の境目となる地層全体を指す名称であったが、現在ではそのフォッサマグナの西の端に伸びる大峡谷を指すことが多い。
かつて昭和の時代に起きたこの巨大な谷を出現させた大震災は、当時の日本社会に大きな打撃を与えた。
歴史上でも地質学上でも例を見ない異常な現象に際し、復興で手いっぱいの日本政府に単独で調査を行う余裕はなく、国際的な調査団が結成されることとなった。
余震が続く中、調査は時間をかけ慎重に行われた。
最初の異変は、震災から数ヶ月後に起きた。
調査員数名が峡谷に向かったまま帰らず、行方不明となったのである。
捜索が行われたが、手がかりは何一つ見つからなかった。
しかし、当時はまだ土砂崩れなどの危険が多く、谷底での捜索は行えない状況であった。
おそらく谷へ滑落してしまったのだろう。
世間はそう見なし、さほど大きな騒ぎにはならなかった。
二ヶ月ほど後に次の事件は起きた。
谷から数キロのところにある村の地域住民全員が、忽然と姿を消したのである。
ある家は飲みかけの茶が、ある家は広げた状態の新聞がちゃぶ台に置かれたまま。
ある家は外に洗濯ものが干されたまま。
つい今しがたまで家の住人がいたかのような状態で、人間だけが煙のように消えたのだ。
不可解な連続事件は国内外に大きく報道され、様々なウワサが流れた。
ある者は、震災で崩壊した寺社を放置した人間たちへの祟りだと言った。
ある者は、震災で亡くなった人たちの亡霊が生者を谷底へ引きずり込むのだと言った。
またある者は、フォッサマグナの底にはUFOの基地があり、行方不明者たちは宇宙人に連れ去られたのだと大真面目に言った。
手がかりも得られず原因不明のまま、日本政府は峡谷付近の住民に避難を指示した。
震災被害の後も残っていた住民の中には故郷を出ることに難色を示す者もいたが、更に行方不明事件が続き、取材に来ていたマスコミ記者の行方不明まで起きるに至ると、政府は峡谷から10キロ圏内を立ち入り禁止区域に定めた。
そして調査団に代わって「国際フォッサマグナ管理機構」が正式に発足し、その立ち入り禁止区域全域を管理下に置いたことで更なる憶測が乱れ飛んだ。
曰く、大震災と大峡谷の出現は外国軍の新兵器の実験によるものだ。
曰く、谷から貴重な鉱物資源の鉱脈が発見され、利益を外国がこっそり独占するために日本を締め出したのだ。
しかし調査が進むにつれ、人々はそのような論では説明がつかない事実に突き当たる。
1つ目。大峡谷は日本海側にも太平洋側にもつながっていないこと。
巨大な谷ができたにも関わらず、土砂がどこかへ流れ出した形跡がないのである。
2つ目。大震災の後も本州の位置がほぼ動いていないこと。
つまり日本列島が乗る2つのプレートが東西方向に移動したことで地面が割けたわけではないのだ。
山岳地帯も含まれる、長さ100キロ以上に渡る大地を形成していた大量の土砂や岩石、そして行方不明の人々は、いったいどこへ消えたのか?
その答えが明らかになるまでには、更なる年月を要した。
*****
翌日。
居間のソファに両親と並んで座った都は、昨日から何度目も繰り返したせいでかなりウンザリ気味に、ロボットに襲われたときの様子を目の前に座る魔導機構の職員二人に向けて説明していた。
おそらくこういう対応には慣れているのであろう。「いったいどういうことなんだ!」「なぜうちの娘が!」などと不機嫌を顕わにする両親に対して特に慌てる様子もなく、真島と名乗った若い女性職員は落ち着いた様子でカバンから薄型のキッチンスケールのような道具を取り出した。
アナログメーター式で、モノを置くべき場所には多角形にカットされた水晶のような石がついている。大きさは握りこぶし大だ。
「魔力を測る装置です。お嬢さんが狙われた原因を知る手がかりになりますので、ぜひ。」
上司らしき中年の男性職員が興奮する親の相手をしている間に、都は真島から使い方を聞いてとっとと手を石の部分に乗せた。
「石が光ったらしばらくそのままにして……」
彼女の言葉はそこで途切れた。
メーターの針がギュンッと反対側まで振り切れて、カタカタと揺れていたからだ。
「…………。
あの、ちょっと失礼します。」
真島が装置を受け取り、自分の手を当てる。
針は60台後半で前後した。
メモリの最大値は200だ。
「もういちどお願いします。」
都が再び手を当てる。
ギュンッ
カタカタカタ……
静まり返った室内で、振り切れた針が弾んで揺れるかすかな音だけが響く。
「……申し訳ありません、ちょっと席を外させていただきます。」
男性職員がそそくさと廊下へと出て行き、閉めたドアの向こうからケータイで連絡をしているらしいボソボソとした声が聞こえてきた。
「……魔力は誰でも持っていますが、ほとんどの方は10以下の数値です。」
真島がとまどいながら説明してくれる。
「大変失礼いたしました。それでですね……」
先ほどまでよりやや丁寧な口調で、戻ってきた男性職員が説明を受け継いだ。
「まず、お嬢さんを狙ったロボットは、セカンドレルム、つまり異世界からやってきたロボットです。セカンドレルムの魔導士が魔法で動かすロボットで、ファミリアと呼ばれます。
セカンドレルムのいずこかの国が、お嬢さんのような魔力の高い若い方をさらうために送り込んできたものです。
異世界につながる門のあるフォッサマグナは我々魔導機構が常に警戒にあたっておりますが、なにぶん範囲が広く、門の出現は予測ができない為、ファミリアが管理区域外に出てしまうことが稀にあるのです。」
「そんな無責任な!」
「なんとかしてください!」
両親が叫びだすのを都は黙って聞いていた。
都は周囲が興奮するほど冷める性格だった。
「むろん、我々も対策を講じています。
ファミリアは魔力が高い人間にしか見えず、魔法でしか破壊できません。
従って我々は常に、魔力の高い、魔導士の素質のある方を探しております。」
真島がすかさずパンフレットを差し出してくる。
「魔導学院中等部には、お嬢さんのような魔力の高いお子さんが多数在校しています。通常の学校の授業と平行して、将来魔導士になるための訓練も行っております。」
「この子に自分でどうにかしろと言うんですか?!
まだ中学生の女の子ですよ?!」
「そこはご安心ください。高等部まではバーチャル空間での訓練を行うだけです。
それに学校と寮は特別区域内にあり、魔導機構の魔導士が24時間警護を行っておりますので、魔力の高いお子さんにとっては町中よりも安全です。」
「市民を守るのがそちらの仕事では?!」
「残念ながら魔導士の素質のある人間は大変に希少です。広いフォッサマグナを警戒する人員さえ足りないのが実情なのです。
我々が警護する場所に来ていただくのが最も安全な方法です。」
「そんな……。」
「あのう、質問いいですか?」
それまで黙ってパンフを見ていた当の本人である都が、隣で絶句している両親とは対照的な平坦な声をあげた。
全員の視線が都に向けられる。
「はい、何でしょう?」
真島が緊張の面持ちで応じる。
「中等部の寮って、何人部屋ですか?」
「……四人部屋です。高等部から二人部屋になります。」
「四人かあ……。」
(魔法はすごく興味あるのに、そこが残念だなあ……。)
不満を乗せて小さくつぶやくと、先方の二人が焦ったように顔を見合わせたのを都は見逃さなかった。
「ええと、そうですね、何か『特別な理由』がおありでしたら、交渉できるかも知れません。」
「特別な理由……。んー……。
あ、私、実はひどい花粉症で、花粉の季節は空気清浄機がないとダメなんですけど……」
真島の顔をチラッと見ると、うなずいて聞いてくれている。
これは押せそうだ、と都は判断した。
「でも四人も出たり入ったりする部屋だと、そのつど花粉が入ってきちゃいますよね。
それに、同じ部屋の人たちに、窓は絶対開けないでとかお願いしなきゃいけないので面倒がられそうで心配です……。」
いかにも心配そうに視線を下に向けながら言う。
「……そういうご事情があるのでしたら、部屋割りの考慮はしてもらえると思います。一人部屋は無理かも知れませんが……。」
真島が素早くメモを取りながらそう応じるのを見て、都は表情には出さずに内心だけで勝利を喜んだ。
「それと、パンフに特待生制度って書いてあるんですけど、これは?」
「特待生になれば一切の学費と寮費が無料、教材など全て無料で支給されます。
都さんの魔力量であれば、確実に特待生に選ばれます。」
(お金の心配もナシ、と。
じゃあ、あと大事なのは……。)
「実は私、来年、魔導学院の高等部を受験するつもりだったんです。」
母親が驚いて何か言いかけるが、都は構わず続けた。
「でもこれ、中等部のパンフですよね?
つまり、高校からじゃなくて中学から転校したほうが良いということなんですよね?」
男性上司が真島に無言でうなずき、彼女が答えた。
「はい。
理由は2つあります。
1つは、先ほどの通り、学校のある魔導機構の敷地内がいちばん安全だということ。
もう1つは、魔導士になる訓練は早いうちから始めた方が有利なことです。
世の中のほとんどの人は、ファミリアを見ることさえできません。
高い魔力がある方は、いざというときに自分で自分を守るすべを身につけておくのがご自身の安全につながります。」
「無理に決まってますよ。」
唐突に父親が横から口をはさんだ。
「うちの子にできるわけないでしょう。しかも寮で生活だなんて、とんでもない。
三日ももたずに家に帰りたいと泣き出すに決まってる。」
鼻で笑ってそう言い放つ父親をあっけにとられて見ていた真島は、ハッと都の様子をうかがった。
都は無表情だった。
年頃の子供らしく反発することもなく、かといって意気消沈してしまうでもなく、ただただ無反応だった。
「分かりました。それともう1つあるんですけど……。」
父親の言葉など聞いていなかったかのように、都は質問を続けた。
「三校対抗戦の動画をいくつも観ました。私、運動神経悪いし作戦とか全然分からないし、練習してもあんな風にできるかあんまり自信ないです。
それに、数学もあまり得意じゃないから、エンジニアに向いてる気もしないし。
そんな私が魔導学院に今から転校して、まわりについていけますか?
魔法の専門の学校に入ってから才能ないって分かって、魔導機構に就職できなかったら困るし……。」
14歳にしては将来のことまでしっかり考えているが故の不安だった。
真島は安心させるように笑みを浮かべて答えた。
「魔導士には、ファイターやエンジニア以外にも、いろいろな仕事があるんですよ?
実は私も高等部の卒業生なんです。
魔導士として訓練をして、今はこうして魔導機構の東京事務局に勤務しています。
魔力の高い都さんを必要とするお仕事が、魔導機構にはたくさんあります。
魔導学院で訓練をしながら、都さんがどのお仕事に適正があるかゆっくり考えればいいと思いますよ?」
(うん、決めた。)
高校からの情報は今までもネットで情報を集めてはいたが、中学で転校というのは都にとって重大な決断だ。今まで転校の経験はないし、友達作りが下手だという自覚もある。
寮生活も不安だらけだ。
だが、かといって今の中学に親友というほど親しい友人がいるわけでもないし、自宅も離れたくないほど快適な場所ではない。
何よりも。
(誰かに『必要』と言ってもらえたの、たぶん初めてだなあ、すごく嬉しい。
それにさっき、訓練は早く始めたほうがいいと言ってた。学費無料でぜひ来てくださいと言ってもらえるのは、中学生のうちだけかも知れない。こんなチャンス、逃しちゃダメだよね!)
「ありがとうございます、安心しました。
それで、転校はいつになるんですか?」
「可能でしたらすぐにでも手続きをします。」
「おい都、何を勝手なことを……!」
声を荒げる父親に向き直り、一度大きく息を吸うと、都は昨夜から考えていた魔導学院高等部受験のための言い分を転校用に組み立て直してゆっくりと告げた。
「あのさ、いまテレビとかネットで、昨日の人さらいロボットの写真や動画がバンバン流れてるんだよね。普通は目に見えないはずのロボットが映った珍しい映像だから、世界中で流れてる。
遠くから撮ったらしくて、私がいた場所はビルの陰で映ってなかったけど。
でもあれ見たら、分かる人にはうちの近所だって分かるよね。
しかも私、今日学校休んだよね。事件の次の日に。
人さらいロボットが狙うのは魔力の強い若い人だっていうウワサはけっこう知られてる。
……明日、普通に学校行ったら、きっといじめられるか避けられるよね、私。誰だって人さらいロボットの巻き添えになりたくないからね。
っていうかさ。私だけとは限らないよね。」
都はいったん言葉を切り、効果的に決定打を放った。
「危険で迷惑だからお前たち一家全員ここから出ていけ! なーんてうちの近所の人たちから言われたりして。」
両親が揃って言葉を失った。
自分の親が見栄や保身を最優先にするタイプだと、都はよく知っていた。
「というわけで、なる速で転校の手続きをお願いします。」
「あ、ハイ。」
真島は少々気の抜けた声で返事をした。
「……あっ!」
都が突如声をあげると、周囲がビクッと反応した。
「もう1つ質問があるんですけど。」
「……何でしょうか?」
若干警戒しつつ答える真島に、都は訊ねた。
「寮にWi-Fi環境ありますか?」
*****
「そっか。すぐに魔導機構の学校に入るなら安心だな。
……たぶん。」
東途は夏苅家のマンションの屋上に座っていた。片方の耳にバングルと同じ素材のイヤーカフが装着されており、都たちの会話が鮮明に聞こえている。もちろん事前に了承済みである。
隣のシャルトルーズは考え込む東途の横顔をジッと見つめている。
人間離れした整った容貌の彼が――事実、人間ではないのだが――静かに佇んでいると、美しいを通り越して怖いなどと言われることがしばしばだが、いま一緒にいるのは東途だけなのでよそ行きの振る舞いをする必要はないため、本来の仮面のような無表情のままだ。
「いちおう、学校に入るまでは警戒するけどさ。
それで終わりだ。」
東途はその場にゴロリとあお向けになった。
青空の下、ゆっくりと白い雲が流れるのが目に入る。
「夏苅シュウジ氏には会わないのか?」
「えー、なんか感じ悪い人だったじゃん。いいよ、会わなくて。楽しい話にならなさそう。
都に会ったんだから、親戚に会うっていう目的はちゃんと果たしただろ?
……この平和な国で、都はちゃんと学校に行きながら安全に魔法の訓練ができるんだな。
良かった良かった。最高じゃん。」
「地球の魔導士の実戦投入は早くても20歳だそうだ。」
「へー、すごいのんびりだな。平和だからできるんだろうなあ。」
心地よい風を感じながら、東途はゆっくりと息を吐く。
「もしオレもこの国で生まれてたら、一緒に学校に通ったりしたのかなあ?」
なにげなくつぶやいただけの言葉だったが、シャルトルーズが反応した。
「……主は、学校に興味があるのか?」
「んー? そうだなあ、なんか面白そうじゃん。同じ歳の子供ばっかりたくさん集まって、友達いっぱいできるらしいぞ?」
「それなら……。」
シャルトルーズは東途にまっすぐ向き直った。
「主、提案がある。」
「おおっ、珍しいこと言うじゃん。聞かせてよ。」
ガバリと起き上がり、東途は目を輝かせた。
*****
「いやあ、真島君に来てもらって正解だったよ、こんなにスムーズにいくとは。
やはりスキルというのはすごいもんだねえ。」
「恐れ入ります。」
オフィスへの帰り道、真島友里は上機嫌の上司に短く答えた。
「……エレベーター降りたら、ドアが1つしかなかったねえ。」
後ろを振り返り、男性上司は今でてきたばかりのマンションを仰ぎ見た。
「最上階ワンフロア全て夏苅家というわけだ。おそらく一棟丸ごと所有だろうねえ。
駅近の好立地だ。父親が平日昼間から自宅にいられるのも納得だな。うらやましいもんだ。
あのお嬢ちゃん、その気になってくれたのはいいが、贅沢な環境でワガママに育った子だろうから父親の懸念ももっともだ。すぐに辞めると言い出さなければいいんだがねえ。」
……あれを「懸念」と表現するのは、だいぶ父親のほうに偏った見方だと真島は感じた。
初対面の大人に向かってよどみなく話す、表情の乏しい少女。
彼女が本当に贅沢なワガママ娘だったら、数ページあるパンフレットの中で「特待生制度」というワードに注目するだろうか?
人前で父親からけなされて笑われても、表情ひとつ変えないなんてあるだろうか?
(あれはきっと……。)
「チーフ、裕福な家の子供がみなワガママ放題に育っているとは限らないと思います。
むしろ常に親が家にいて監視の目がある分……」
「こんにちは、はじめまして。」
真島の言葉は途中で途切れた。
前から子供が二人やってきて、声をかけてきたのだ。
「魔導機構の人だよね?
オレは夏苅東途。
で、こっちはシャルトルーズ。たぶん、お姉さんには見えるかな?」
パーカー姿の幼いほうの少年が、隣にいる少年……の姿をした存在を手で示す。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど。オレ魔導機構で働きたいんだけど、どうすればいい?」
ニッコリ笑顔で尋ねる少年に、男性上司がとっさに営業スマイルで応じた。
ネットで魔導学院の生徒たちが魔法で戦う動画が人気になり、魔導士に憧れる子供は珍しくないのだ。
「高校を卒業するときに魔導機構の採用試験を受けて、合格すればで働けるよ。
もっと早く魔導士の訓練をしたかったら、魔導学院という学校を受験するといい。」
「そう、それ。魔導士の学校に行ってみたいんだけど、学校ってお金かかるんだろ?
お金稼ぎたいから先に魔導士として雇ってよ。」
「それは大人になったら……」
「はぁ。実力見せないとダメってこと?」
東途が右手で左手首に軽く触れる。
一瞬姿がぼやけ、戻った時には彼の服はグレーのローブに替わっていた。
「チーフ、下がってください!」
それまで言葉を失っていた真島が叫んだ。
上着の内側に手を入れ、小さな白い筒状の道具を取り出すと、制服のスーツ姿が瑠璃色のローブを着た姿へと変化する。
服装以外の見た目はほぼそのままだが、左耳に小さな通信機が装着されている。
右手を前に出すと、白い筒が光りながら上下に伸びて長杖へと変化した。
地面に垂直に立たせて両手で握り、防御体勢をとる。
「東京事務局真島から本部へ緊急! 所属不明の魔導士を発見!」
東途たちから目を離さず、上ずりながら言葉を発する。
「『魔導士』です! ひとり! 人型のファミリア一体を連れています!
映像映してください。魔導士はこちらに話しかけてきています。指示を!」
「あ、もしかしてカメラがあるの?
便利だね。魔導機構の本部とつながるならちょうどいいや、偉い人呼んでくれる?
魔導士の採用関係の偉い人。」
少年がニコニコと笑顔で告げる。
「じゃっ、いくよ。
えーっと。」
東途は真島がかまえる長杖に向かって話し始めた。
「オレの名前は夏苅東途。ファイターで、戦歴は三年くらい。
魔導機構の魔導士として雇って欲しいです。
こっちはシャルトルーズ。オレの守護精霊。
……あのさ、もしかして魔導機構の人って守護精霊を知らなかったりする?
もし知らないなら、セカンドレルムから来てる魔導士の誰かに聞いてみてよ、守護精霊持ちのフリーの魔導士が仕事探しに来てるって。
絶対に雇えって言うから。
……たぶん。
ところで採用試験って何してみせればいいんだ?」
東途が傍らのシャルトルーズを見上げる。
しばらく黙っていたシャルトルーズは、警戒を続けている二人のほうにゆっくりと視線を向けた。
道路に投げ出されていた真島のカバンから、仕事用のケータイが鳴り始めた。
挿絵は一部AI、一部手描きで作成しております。
誤字脱字のご指摘、ご感想などいただければ嬉しいです。
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9/7 誤字修正