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プロローグ

舞台は今より少し前の日本。2010年代後半くらいの設定ですが、それ以前の歴史も少々違っていて、魔法が存在することが判明している世界です。


恋愛要素は薄め。飛びぬけて高い魔力があると判明したものの、それ以外はパッとしない(と本人は思っている)、興味あることに対してだけはハイテンションになりがちなネガティブ系オタク少女のお話です。


ちょっとでも気に入っていただけたら嬉しいです

学校からの帰り道、ひとりで歩いていた夏苅(なつかり)都は立ち止まって後ろを振り返った。

大通りのほうから、すさまじいブレーキ音、ゴオォォンという衝突音が聞こえてきたからだ。


しかし、見える範囲には特に変わった様子はなかった。


(交通事故だろうけど……。わざわざ引き返して見に行くこともないよね。

ケータイ持ってないから119番もできないし。)


都の中学はケータイ持ち込み禁止だった。

しょうもない校則のせいでいまの自分にできることはないし、早く家に帰ろう、と彼女は前に向き直った。


しかし、歩き出そうとした足を反射的に引っ込めることになった。

目の前の道路がグニャリと動き出したように見えたからだ。


よく見てみるとそれは道路のアスファルトではなく、鏡のように周囲の景色を映し出す何かだった。それがいくつも足元で動いている。


(え、これゲームで見たことある! 光学迷彩ってヤツ? 現実に存在するんだ?!

……そんなわけないよね。違うよねただの鏡だよねきっと。

……でも、じゃあなんで道端で鏡が動いてるの?!)


誰もいなかったはずの道路の前をふさぐように、周囲の景色に同化している不思議な物体が数体並んでいた。

大きさは中型犬ほどだが、足が何本も生えた胴体は昆虫を連想させる。

そして細長い首の先端には、頭のかわりにライトが1つ灯っている。

5つの光る目が、すべて都のほうに向けられていた。


「…あ……っ…」


衝撃に声が出ない。


(逃げなきゃ……!)


パニックになりながらも、ヨロヨロと後ろを振り返る。

しかしつい先ほどまで何もなかったはずのそこにもまた同じ物体が現れており、複数の足をバラバラと動かしながら並んで道をふさいでしまった。


(なにこれ?

なんで?

どうして私?!)


都が前にも後ろにも動けずにいると、大通りのほうから誰かの叫び声が聞こえてくる。


そしてソレが現れた。


またしても気味の悪い、足が何本も生えた車のような外観。

もう1点、普通の車と違うのは、上部に二本のアームがついている点だ。

そしてこちらは周囲と完全に同化はしておらず、一部ただの金属のような素材がそのまま見えている。

足の関節部分には、レトロな玩具のような大小の歯車がついており、SFゲームの中でしか見たことのない光学迷彩との組み合わせが妙にチグハグだ。


「異世界のロボットだ!」

「人さらいロボットだ、逃げろ!」


遠くから叫び声が聞こえる。


異世界から来る人さらいロボットの話は都も知っていた。

しかし、危険だと言われていると同時に、ただの作り話や都市伝説だという噂があるのもまた知っていた。なにしろ、実際に異世界にさらわれて戻ってきた人間など今までひとりもいないのだ。


若く魔力が高い人物が狙われると言われていることから、異世界で魔法を使って魔王を倒す勇者として招かれている、などという説まであり、そういうストーリーの小説やマンガを都もいくつも読んだことがあった。


しかし。

彼女はワンチャン狙って不気味なロボットにあえてさらわれるようなチャレンジャーでもギャンブラーでもなかった。

都はフィクションはフィクションとして楽しむタイプだ。


異世界のロボットに出会ったときにどうすれば良いか、テレビでなんと説明していたかパニック状態の頭で必死に記憶を探る。


(確か「見かけたら屋内に避難してドアや窓を閉め、すぐに通報しましょう」だった気がする。

でも、囲まれている場合はどうすればいいの?!

これ触って大丈夫なの?!)


大型の人さらいロボットはどんどん近づいてくる。

小型ロボットの間をすり抜けようと横に動いてみたが、サッと行く手をふさがれてしまった。

何本も生えた足が虫のようにウゾウゾと動くのが気持ち悪い。


「やだよ、どいて……。」


アームが自分へ向かって伸ばされるのを、都は絶望的な気持ちで視界にとらえていた。


そのとき。


ブオォォン、という、空気を揺らすような音が鼓膜に響いた。


突如現れた人影が宙を横切ると、二本のアームの根本に一瞬だけ光が走る。

切断されたアームは、地面に落ちながら光の粒子のように形を変えて消えてゆく。


その人物が着地するなり振り向き、淡い緑色に光る細長い剣を振り下ろす。

小型ロボットが数体、同じように光になって消えていった。


「こっちへ。」


横から別の誰かに腕を引っ張られ、都は何も考えられないままその場から離れる。

見ると、オレンジ色がかったブロンドの少年だった。

後ろが気になって振り返ると、先ほどの黒っぽいローブ姿の人物が軽々と最後に残った車型ロボットの上に飛び乗り、光る剣で上から真っ二つに切り裂くところだった。

足元が粒子になって消える前に地面に飛び降り、こちらを見てトンッと軽く地面を蹴ると、ローブの裾を翻しながら都たちの隣にフワリと着地した。


走り幅跳びの世界記録保持者でもとうてい無理そうな距離を、助走もなく軽々と飛んだのだ。


「もう大丈夫、ぜんぶ倒した。周辺に他の敵もナシ。」


ローブ姿の人物が告げた。


「ああ……、うん。」


都はペタリとアスファルトの上に座り込んだ。

制服のスカートが汚れることが少しだけ気になったが、とても立っていられなかった。


「えっ、もしかして怪我? 平気?」


慌てた様子で彼もしゃがみこんでこちらをのぞき込む。

澄んだ金茶色の瞳が心配そうに揺れているのが見えた。どうやらこちらも少年のようで、まだあどけなさのある顔立ちだ。年下かもしれない、と都は思った。


「あ、うん、怪我はしてないよ、平気。ちょっと……、疲れただけ。あの、精神的に。

あのう……、ありがとう、ございました。」


隣に並んでしゃがんでいる、少し年上っぽい少年にも礼を述べると、淡い黄緑色の瞳がかすかにほほ笑んだ。


オレンジ色がかった艶やかに輝く髪。現代日本ではまず見かけない、マントを巻き付けたような服装。人形のように整った顔。

どこを見ても全てが人間離れしているこちらの無口な彼と会話を続ける元気はいまはとても持てなかったので、都はまずは正面の年下の少年に話しかけた。


「あなた、もしかして魔導士?」

「そうだよ。」

「やっぱり。 フード付きのローブって魔導士の服装だよね。

でも、テレビで観た魔導機構の制服と違う気がするんだけど……。」


目の前の少年は、グレー地に薄いグリーンの豪華な縁取りが施された、見たことのないローブをまとっている。


「あ、もしかして、魔導学院の生徒なの?!」

「そのナントカ学院って知らない。オレは魔導機構とは関係ない、ただの魔導士。」

「え……?」

「たまたま通りがかったらファミリアの反応があって、見てみたらキミが狙われてたから倒した。」

「たまたま偶然?! っていうか、魔導機構じゃない魔導士なんて聞いたことないよ!」

「うーん、本当にたまたまだし。この近くに夏苅シュウジさんて人の家があるはずだから探してたとこだった。」

「えっ?!」


都がひときわ大きな声をあげた。


「それ、うちの父親!」

「おおー、じゃあキミの家か。夏苅シュウジさんはオレの親戚らしいから、つまりキミも親戚なのか?

オレ、夏苅東途(とうと)。よろしく。」

「うそ……。」


親類どころか同じ日本人とはとても思えない色合いの髪と瞳を見つめて呆然としながら、差し出されたままの手に気づいて慌てて握手をかわす。


「ごめん、えっと、夏苅都、です。」

「オッケー、都って呼んでいい? オレは東途って呼んで。」

「あ、うん。よろしく、東途くん。」

「で、こっちはシャルトルーズ。」

「よろしく、シャルトルーズ、さん? えっと……?」


無言のまま微笑んでいるシャルトルーズにとまどいながら挨拶していると、徐々にサイレンの音が近づいてきた。ガヤガヤと人の声も聞こえる。


「あっ、これはもしかして私たち、警察に連れていかれる……?

家すぐ近くなのに。でも勝手に帰っちゃうと何かおおごとになりそうな気もするし……。

ああもう、東途くんに聞きたいことたくさんあるのに!」


都は、慌てたり緊張したりすると饒舌になるタイプだった。


「んー、じゃあ警察の話のあとでゆっくり話せばいいよ。」

「ムリムリ。うちの親すごくうるさいから、こんなことあった後じゃあぜったい自由に外に出られなくなるし、私キッズケータイしか持ってないからこっちから掛けられないし。

……あの、良かったら番号教えてもらっていい? こっちも教えるから。」


学校指定の通学バッグからノートを取り出そうとゴソゴソする都に、「何の番号?」と東途が訊ねる。


「電話番号は……、ケータイ持ってない? 家の電話は?」

「電話はない。こっちに来たばっかりだから。」

「あ、やっぱり外国育ちとか? じゃあ連絡どうしようか……。」

「それなら、通信機を渡しとく。」


東途がシャルトルーズに視線を向ける。

それだけで伝わったらしく、彼は小さくうなずくと手のひらを上に向け片手を前に出した。

光の粒子が手のひらに溢れ、クルクルと回転して輪を描き、淡い黄緑色の輪っかができあがった。


(……魔法だね。

うん、明らかに魔法だよね。

本物の魔法、初めて見た……。)


「腕、出して?」


東途の言葉に従い、素直に両腕を前に出す。

彼は輪っかを手に取ると、都の左腕に通した。

指を放すと、輪はスッと小さくなって手首にフィットした。


(……魔法だね。

うん。なんかもう、いろいろ麻痺してきたよね。)


「えっと、これなに?」

「魔導具。耳に近づけてみて?」


心を無にして言われた通りに左手首を耳に寄せる。正面で東途が左腕をまくると、都が受け取ったものよりもっと太い同色のバングルが見えた。

それを口元に寄せ、口を開く。


「聞こえる?」

「わあっ!」


スピーカーも何も見当たらない細いバングルから、クッキリと東途の声が聞こえた。


「オッケーだね。それに触りながら話せばそっちの声も聞こえるから。

あと、引っ張れば外れる。

じゃっ、後でっ。」


東途は立ち上がると、パトカーの音と反対方向へ軽やかに――ただしすさまじいスピードで――走り出した。シャルトルーズも無言のままついてゆく。

……彼の足が地面から浮いているような気がしなくもなかったが、とりあえずその件は後回しにする。


「あの、行っちゃうの?!」

「うん。あ、オレたちのことは警察に言っても言わなくてもどっちでも別にいいからな。」


あっという間に姿は見えなくなったが、バングルから声はハッキリと聞こえる。


「え、ちょっと、待っ……」


触りながら、と言われたことを思い出して、右手で左手首を押さえながら話を続ける。


「ねえこれ、魔導具なんてなんかすごいモノなんじゃじゃないの?! 壊しちゃったらどうしよう。すっごい高かったりしない?

私みたいな普通の中学生に渡しちゃっていいの?! 」

「へーきへーき。壊れないし、オレと都以外にはどうせ使えないから。」

「え、ちょっ……」


続きが非常に気になったが、会話はそこで中断した。警官がこちらに走ってくるのが見えたからだ。

都はいろいろな意味で、バングルに向かってしゃべっている姿を他人に見られたくなかった。


挿絵(By みてみん)


     *****



「東途くん、聞こえる? いま話して平気?」


その日の夜、ようやくひとりになった自室で、都はヒソヒソ声でバングルに話しかけた。


「オッケー、どうぞー。」

「ようやく落ち着いて話せるよ。聞きたいこととかいっぱいあるんだけど。」

「りょーかい。着いたぞ。」

「……??

着いたって、どこに?」

「窓の外。」


まさかと思いながらベランダ側のカーテンを開けると、東途が柵の上にしゃがみこんで手をヒラヒラと振っていた。

シャルトルーズは隣で浮いている。

なお、都の部屋はマンションの八階である。


「ちょっ……!!」




そして今。

都の部屋には三人の人物がいた。


フローリングの床に置かれた大きなビーズクッションに、「おおー」などと言いながら楽し気に何度も座り直している東途。

いちおうもう1つ小さめのクッションを勧めたのだが、笑顔で宙に浮いているシャルトルーズ。

そしてベッドに腰掛けている都だ。


(思わず部屋に入れちゃったけど……。

どうしてこうなった……。


マンガでよくお隣同士の幼なじみが窓からお互いの部屋を行き来する話があるけど、なんとなく「いいなー楽しそうで」とか思ってたけど、現実だとやっぱりあんまり良くないね、いろいろと。

だってもう、私ってばパジャマに着替えちゃってるし! 気まずい!)


都の予想通り、警察でも家でも母親に大騒ぎされたあげく、「今日は早く寝なさい!」といつもより早めに風呂に追い立てられた。

トリートメントした髪をゆるく束ねて、もう完全に「後は寝るだけ」モードだったのだ。

女子として異性の前でこの格好はどうなんだという件については、上からカーディガンを羽織ったからギリギリセーフだと都は自分に向けて言い張った。


「えーっと、言いたいことはたくさんあるんだけど、とりあえずシャルトルーズさん、外で宙に浮かんでいるのはやめたほうがいいと思うんだよね。大騒ぎになっちゃうよ?」

「あ、それはへーき。」


部屋に入ってからはフードを下ろし、少しクセのある柔らかそうな砂色の髪をフワフワさせている東途はニカッと笑った。


「普通の人にはシャルトルーズは見えないから。

昼間のファミリアもホントは見えないはずなんだ。今日、大きい捕獲タイプのヤツが見えてたのは、どこかにぶつかったときに故障したんだと思う。それで普通の人にも見えるようになって騒ぎになった。」

「……。」

「ただ、魔力が高い人間なら最初から見える。都やオレみたいな。」

「つまり……、」


(いきなり本題に入ってしまった。)


都は一番気になっていた疑問を口にした。


「私には魔力があるの? 東途くんは魔導士だから他人の魔力が分かるの?」

「そういうのはオレよりシャルトルーズが得意。魔力の強さは、都はオレより上らしいぞ?」


東途が「な?」とプカプカ浮かぶシャルトルーズのほうを見ると、彼はニッコリとうなずいた。


「本当に?! じゃあ私も魔導士になれる? 魔導機構の試験受けたら受かるかなあ?」

「都は魔導士になりたいのか?」

「実は、三年生になったらダメもとで魔導学院の高等部を受験してみようと思ってた。」


国際魔導機構が運営する、国内唯一の魔導士養成を目的とした高校。それが魔導学院高等部である。


「へー、魔導士になるための学校があるのか。」

「そうだよ。

……っていうか、本気で知らないんだね……。」


うーん、と少し考えてから、都は勉強机の上からノートPCを持ってきて動画サイトを検察し、1つの動画を再生して二人に見せた。



     *****



『お送りしております三校対抗戦、魔導学院BチームとNY校Aチームの対戦、学院が一人ダウンを奪って3ポイント獲得しております。』


実況音声が流れる中、緑の木々の間に近未来的な建物が並ぶ、まるで異世界を舞台にしたCG映画のような景色が映し出されている。

画面中央で対峙しているのは、背番号の入ったローブを着た少年少女たち。


『NY校エース、デービス選手、仕掛ける!

強烈な一撃を、学院の一年生エース、ラニ選手が受け止めた!

ファイターの(ソード)による攻撃を、ラニ選手キャスターの長杖(スタッフ)で受け止めて互角に押し合っています。』


えんじ色のローブの男子選手と青いローブの女子選手が、空中で互いの武器でジリジリと攻防を続ける。

男子選手の剣は陽炎のような炎をまとっている。

背番号は両者とも一番だ。


『おおっと、この隙をついて学院のファイター二人が速攻、決めた! NY校のファイターがまた一人ダウン。学院これで6点になりました。

また学院の小泉選手にもダメージが入ってNY校1ポイント獲得です。現在のところ6対1で魔導学院がリード。』


えんじのローブ姿の選手がレーザーのような剣で切られ、まるでそこだけ合成映像だったかのように姿が乱れながら消えていった。

青ローブの選手の一人も、切られた腹部がかすかに発光している。


『エースが囮となって相手のエースを引き付けておいて、残りの二人で一人に同時攻撃。

大胆ですが効果的な攻め方ですね。』


解説者が感心したように述べる。


『メリッサ・ラニ選手、キャスターでありながら、相手のエースファイターと近接戦で互角に戦っています。』

『魔力が高いだけでなく、本人の運動神経も非常に優れているということですね。

魔力で身体能力を向上させても、その身体を扱う本人のセンスがなければ持て余してしまいます。』

『なるほど。

さて、両者にらみ合いが続いています。ひとりになってしまったデービス選手としては、なんとしても相手にスキを作りたいところ。


なお、この試合が行われているバーチャル空間も、選手たちがそれぞれ着ているユニフォームも、両校のエンジニア職志望の生徒たちが作った作品です。この試合のフィールドはNY校の制作です。


おおっ、学院側が動いた、また二人同時だ!

デービス選手はシールドで攻撃を受け止める!』


男子選手が左腕に半透明の盾を出現させて剣の攻撃を防ぎつつ、右手の剣を振るう。


『小泉選手、相手の反撃を読んでいたか、こちらもシールドで防御。』


阻まれた剣がブワッと炎をまき散らした。


『双方決定打が出せません。しかしもちろん、この間に……』


カメラに、長杖を構えるラニ選手が映しだされる。

杖の先端の球体部分がどんどん強く光り出す。


『ラニ選手が呪文を完成させている!』


黒髪をなびかせながら少女が杖をまっすぐ前に向けると同時に、味方の二人は息の合ったタイミングで左右に飛ぶ。


杖の先端から相手選手の身体まで、まばゆい光の線が一瞬つながり、バリバリッと轟音が響いた。

シールドを構えた姿勢のまま、相手選手の姿がゆらいでプツンと消える。


『ラニ選手の雷撃がクリティカルヒット!

これで9対1になりました!

あ、ここでNY校からギブアップが出ました。学院Bチームの勝利です!

いやあ、圧倒的な勝利でした。』

『雷攻撃の一番の特長はその攻撃スピードです。

雷系のスキルを持つ上に本人の運動能力が高くて素早く動ける。ラニ選手の強さのポイントですね。

また前衛のファイター二人のコンビネーションが経験不足の一年生エースを上手く補って……』



     *****



「こんな風に、魔導学院ではバーチャル空間で魔法の練習をするの。

三校対抗戦はネット中継されてて人気なんだよね。このラニ選手は今年デビューなのにもうファンがいっぱいいるみたい。かわいくって強いんだもん、すごいよね。


魔法の才能ある人はすごく少ないって聞いてたし、たぶん私には無理だろうなあって思ってたんだけど。さっきの東途くんの話だと、もしかしてちょっと期待していいのかな、なーんて。」

「へーえ……。

でも、都はなんで魔導士になりたいんだ? 人気者になりたいから?」


自分も魔導士だと名乗ったにも関わらず、東途が心底不思議そうに尋ねた。


「え、まさか。ネット中継されるのなんて高校だけだよ。魔導機構に就職したら、あとは普通に毎日お仕事だと思う。」

「危険もある仕事だろ?

日本は平和で豊かな国なんだろ? 魔導士になって戦わなくったって、もっと安全な仕事がたくさんあるんじゃないのか?」

「ああ、うん。あんまり女の子に人気の仕事ではないかも。

でも私、別に女の子っぽいものに興味ないんだよね……。」


都は自分の部屋を振り返った。

白い机に白いベッド、作り付けのクローゼットの扉も白。

そこまでは女の子の部屋らしいが、ローテーブルの上の今まで見ていたノートPCは、七色は光りはしないものの高性能ゲーミングノートだ。

小型テレビにはゲーム機が接続されている。

本棚には本だけでなく、マンガやゲームソフトも多数並んでいる。魔法やファンタジー物の海外小説、ファンタジーRPGなどだ。


「私はとにかく早く家を出て自立してひとり暮らしがしたくって。

親は絶対に大学に行けってうるさいけど、魔導学院出て魔導機構に受かれば、文句は言われないと思うんだよね。有名で安定した就職先だもん。」

「ふーん、そっか。」


東途は立ち上がった。


「ありがと。いろいろ分かった。

じゃっ、もう帰る。えーと、夜分遅くにお邪魔しました、かな?」


ベランダのある窓へとスタスタ歩く東途の後ろをシャルトルーズがフワフワとついて行く。


「えっ、ちょっ、まだ疑問が全然解決してないのに!?」

「また今度な。何かあったらすぐ通信機で連絡して。」

「……マイペースだなあ。」


まだ起きているであろう家族に見つからないよう、静かに手を振って二人を見送り、都はそっと窓を閉めた。


挿絵(By みてみん)

挿絵は一部AI、一部手描きで作成しております。


誤字脱字のご指摘、ご感想などいただけましたら嬉しいです


changelog

8/31 挿絵追加

9/7 誤字修正


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