異世界から帰ってきた後の僕の物語
お久しぶりです。
2本目の短編小説です。
タイトルの通り、異世界から帰ってきた主人公ヒロの、その後を描いた物語です。
「お久しぶりですね、勇者……いえ、裏切り者ヒロ!」
突如目の前に現れた悪趣味な黒いドレスを着た金髪碧眼の少女に対して僕は、
「……とりあえず、一緒にお昼ご飯でもどうですか?」
食事に誘う事にした。
どうも皆さん、お久しぶりです。僕の名前はヒロ。日本に住むごく普通の高校生……だったのですが、今は普通とは言えない状態なのであります。
信じられないと思いますが、実は僕、世界を救う「勇者」として異世界に召喚されたのです。と言っても、その世界での問題は無事に解決して、こうして故郷である日本に帰還する事が出来ました。
それから数週間が過ぎた現在、日本のとある喫茶店。
目の前で美味しそうにサンドイッチを頬張る悪趣味な黒いドレスを着た少女ですが、何を隠そう彼女こそ、異世界に住む「元」王国のお姫様にして、僕を勇者としてその異世界に召喚した張本人なのである。
何故「元」がついているのかって? 実はこの元お姫様、かつて世界征服を企んでいて、そのために自分のご両親である国王様と王妃様を亡き者にし、自分の企みのための駒として僕を召喚したのだ。
しかし、その企みを知った僕は、生きていたご両親と魔人族の国の魔王と共にそれを阻止した。その後、元お姫様は罰としてご両親によって国外に追放された……筈だった。
「……で、何であなたがここにいるのですか?」
僕は、食後のコーヒーを飲みながらそう訊ねると、元お姫様は遠い目をして、
「いろいろあったのですよ」
と、ため息を吐きながらこたえた。
国を追放された元お姫様は、行く先々で散々な目に遭ったそうだ。
ある所では石を投げられ、ある所では大量の矢を放たれ、またある所ではそれ以上の魔法攻撃をくらい、酷い時にはタチの悪い呪いまで受けたという。いったいどれだけの人達から恨みを買ったんだこの人。まあ同情はしないけど。
そんなある日、偶然迷い込んだ古代遺跡のような所で、元お姫様はとある存在の封印を解いたそうだ。それは、その世界に遥か昔から存在する「邪神」で、世界を我が物にしようとして他の神々とその加護を受けた当時の勇者によって遺跡の奥に封印されていたのだが、元お姫様によって解放されたのだという。
しかし、長い間封印されていたため、その強さは封印前より弱くなっている上に出てきた時にもかなりの力を消費したため、存在自体がもはや風前の灯火のように危うくなっていたのだ。
その時、元お姫様の頭の中で恐ろしいアイディアが浮かんだ。
(弱っているとはいえこいつは邪神、まだかなりの力を持っている。ならこいつの力で私を酷い目にあわせた連中に復讐できるかもしれない!)
そう考えた元お姫様は邪神に対してこう提案した。
「邪神よ、世界を手に入れるという貴方の野望は私が叶えます。その代わり、貴方の持つ残り全ての力を私にください」
今にも消えてしまいそうな状態の邪神は、元お姫様の提案を快く受け入れた。そして残っている力を全て元お姫様に渡すと、霧のように消えた。
「あぁ、感じる。力が漲ってくるのがわかる。これで奴等に復讐が出来る!」
それから数日後、力を使いこなす修行を終えた元お姫様は、その力で自分の故郷を含めた各国を滅ぼした。そして次の復讐のターゲットと僕に定めると、勇者召喚を応用した次元転移魔法を使って僕の世界にやって来たのだった。
事情を聴いた僕は食事の会計を済ませると、元お姫様と一緒に人気の無い場所に移動した。
元お姫様は僕に向かって、
「さあ、裏切り者ヒロ! この私の復讐を受けるといいわ!」
と、戦闘態勢に入った。
それと同時に僕も戦闘態勢に入った。
事情は理解したとはいえ、正直に言うとすごく面倒くさいと思っている。逆恨みもいい所だとも思っている。
しかし、向こう世界には短い間だが世話になった人達がいて、気の合う友達もいて……幸せになってほしい人もいる。
だから、そんな大切な人達を傷つけたこの女を、僕は絶対に許さない!
そして、元勇者の僕と、元お姫様との戦いが始まった。
数分後、戦いは……僕の勝利に終わった。
「そ、そんな……どうして」
目の前で無様に倒れ伏している元お姫様が、苦しそうに僕を見上げてそう訊ねる。
僕はそんな元お姫様を見下ろしながら、淡々と説明した。
元お姫様の最大の誤算。それは、僕が邪神への「対抗策」を知っていた事だった。
実は邪神の存在については勇者の訓練の時に知っていた僕は、もしかしたら魔王の背後で糸を引いているのではと思い、王国に伝わる古い文献を読み漁って当時の勇者が行った邪神の封印の方法を探した。そしてその方法が書かれた本を見つけた僕は、苦労の末に邪神封印の秘術を身につけたのだ。
しかし、邪神が関係無い事が分かってからは使われる事は無く、日本に戻ってからもずっと僕が持っていたんだけど、まさかこんな形で使う事になるとは思わなかったというわけである。
そして今、邪神の力は元お姫様ではなく、僕の手に持っている小さな瓶の中に封印されているのだ。
と、そんな風に説明し終わったその時だった。
突然、元お姫様の体がボロボロと崩れ始めたのだ。
それが邪神の力を失ったせいであるというのがなんとなくわかった。
崩れていく自分の体を見て、元お姫様は涙を流しながら絶望の表情を浮かべた。
その後、悲しみや恨みなどが込められた悲鳴をあげると、真っ白な砂となって消えた。
「……終わった」
そう言って、僕は元お姫様だったその砂を集めるだけ集めると、持っている袋の中に全て入れた。なんとなくこのままにしておけないと思ったからだ。
袋に入れた後、僕はスッと立ち上がって空を見上げた。
「向こうは今、どうなっているかな」
そんな事を考えていると、頬に熱い何かが流れた。
手で拭き取ると、それは涙だった。
僕は腕でゴシゴシと涙を拭い、左右の頬をパンパンと叩くと、
「よし、帰るか」
と言って、家に向かって歩き出そうとした……が、次の瞬間、僕の真下に光り輝く魔法陣が描かれた。
「オイ嘘だろ!?」
そして僕は、その魔法陣の中に落ちるように吸い込まれた。
一難去ってまた一難。
どうやらヒロ君の物語はまだまだ続く……という話でした。
その辺の話も、ストーリーが出来次第、また短編として書きたいと思っています。