2-2
[──ポッ、
──ポッ、
──ポッ、]
「あ"?」
問い掛けに対して突然(在る筈の無い)天井から鳴ったのは、弱々しくも群れを成した水滴の音。
彼らは髪から額へ、腕から足元へ、拭う間も無くひたひたと溢れ落ちて来た。
暫くの間、ただそれをぼぉーっと眺めて。
切る暇がなくて伸び放題の髪がビショビショになった頃、ようやく釣られるように源泉を見上げた。
するとどうだ、確認した覚えの無い晴天の架空は、全身もれなく灰一色の曇天に覆われていたのだった。
おいおいおい……雨ってオマエ、夢ン中でまで俺は神様にフラれ続けなきゃいけないのか? せめて雨宿りできる場所ぐらい用意しといてくれよ。
「あーどうしようぬれちゃうなー。こんなとき、ボクにもカサがあればなー、ぬれて風邪をひくことも、このクソ長くてウゼェ髪にくるしむ必要も──……
………え"ッ、雨!?」
1 ヶ月前、とうとう傘がブッ壊れてからというもの、雨が降る度に親父の前にて熱演していた三文、いや二文芝居を打ち切りにしたのは、決してキマグレなんかじゃ無い。
自分を殺しそうには今さっきなったばっかりだが、言いたい事はちゃんと言ってるし笑っちゃダメな時でも笑ってる。
じゃあ何故かってそりゃアレだ。ココが俺で俺に雨が降っちまって実は二人ってことは外の俺も嵐で─……どういうことだ?、つまり嵐がヤバくて………
いや待て!、
いい加減落ち着け、
取り敢えず一回整理しよう。
先ず、ココが俺なんじゃ無い。此処は俺の夢の中、それも明晰夢とかいう奴で。俺はその中でハッキリと意志を持って存在している。
次に、特段出る方法も考えつかないままボケーっとしてたらいつの間にか体感で数時間も経っちまったんだ。
そんで、いざ半身を起こそうとしたら突然雨に降られた………夢の中で……雨に。
そう、これだ!この雨がヤバイんだ!!
確か夢の中で雨ってアレの暗示なんだよな?いやアレってのはアレだよ。小さい時は皆するんだけど、いざこの年まで来ちまうとこっ恥ずかしくて死にたくなっちまうアレ的なアレ。
いや、周りに誰も居ないなら別に……まぁ嫌だけどさ? でも直接的なダメージ自体は避けれ──……無ェな。もう数時間経ってるの忘れてたわ。誰かが助けてくれてなきゃ今ごろ余裕で死んでるんだった。
あれ待て。
ということはだぞ俺、今現在進行形でその誰かの目の前で漏r──……
え……
「っふヘッ?……ホヒっ」
想像したくない現実が叩きつけられたその時、思わず口から奇声が飛び出した。額に冷や汗が滲んだ。両眼が泳ぎ疲れて溺れだした。
そこからは早かった。
俺は意味もなく辺りを芋虫のように一周すると、己が人間であることも忘れて取り乱し、眼前の鏡に向かって割る勢いでしがみ付いた。
「オイ起きろ! いつまで寝てやがんだクズ! トリ相手に発情してる場合じゃ無ェんだよ!! 外で台風、いや、最悪 古今未曾有の大津波が起きてる可能性があってな、周りに一人でも居ようもんなら俺たち(社会的に)死んじまう──って、自分が話してる時に目ぇ瞑るんじゃねえよバカ!、ハリ倒されてェのか!!」
……返事が無い、ただの屍のy──
「待て待て待てウソだから!、ごめん冗談! 冗談だから! 冗談ですからぁ!! もうっ、アマナメちゃんったらノリ悪いなぁホントッ……──てオイコラ話 聞け!! 頼むから寝るんじゃねぇ!! いや、崖から落ちたばっかだから苦しいの分かるし眠たいのもスッゲェ分かるけど!! お願いだから起きてくれ!!」
「ホラ、"ちゃん" 付けがキモかったのも謝るから……っていやっ、ちょっ、ホントに寝な……マジで起き、起きて下さ……
「──ア"ァ"ァァ起きろ!起きやがれテメェ!
14 にもなって一丁前にぶりっ子カマしてんじゃねーぞボケが!! マジで◯すぞ!!!」
ドブに二日漬け込んで発酵させたような言葉遣いの罵倒にも、まるで屈する事なく眠り続ける半身。
最早清々しさすらあるその態度を見て俺は、とうとう全身に巻き付いていた痺れと堪忍袋の尾を、チェーンソーで引き千切った。
そして──
「上等だこのクソボケがァア! そんなに眠てェなら御主人様自ら安らかに眠らせてやるよ!! 感謝してくたばりやがれェ!!!」
そう世紀末チックな裏声で叫びながら。
瓜二つな憎たらしい顔面めがけ、思い切り拳を振りかざしたのだった。