番外編 自然の恵み
冷たい風が窓から吹き込んでくる。私は作業をやめて窓の外を見た。空は薄暗い雲で覆われ始めている。
「この空気の感じ、雨が降りそうね。久々の雨、花たちも喜びそう」
笑みを浮かべながら傘を手にとり、花屋の裏口から出て、花壇に向かった。
するとその前には見知った顔の青年が空を見上げていた。彼の顔に雨が当たると、程なくして大粒の雨が彼を叩きつけていく。
慌てて傘を開きながら近寄り、そっと彼の頭の上に傘を差しだした。
「風邪ひくよ」
「悪い、ありがとな」
花壇を眺めると、花や蕾、葉に雨が当たっていく。それらが生き生きとしているように見えた。
彼は口元を緩める。
「……ヒールの力なんて使わなくても、花は育つんだな」
「本来はそういうもの。私はたしかに生長を促す力はあるけど、自然の力にはかなわない」
水、空気、適当な温度などがあれば、植物は育つ。乾いていた地面には恵みの雨だった。
通り雨だったのか、次第に雨足が弱まってきた。虹がかかるといいなと思いながら、花たちの様子を二人で眺めていた。
尼崎文学だらけ テレ旅→ブックス 444書参加作品
第3回 お題『雨』(2021年5月21日~6月3日投稿)
花願いの創造で掌編ですが新たに書き下ろしたため、アップします。