4話 魔眼持ち
──ニルヴァーナ家。
「…ん…朝か…。何だか体が怠いな。」
ユーゴは体に異変を感じながらも支度を始めた。
──居間。
ユーゴは居間へ降りると、そこにはおじさんしか居
なかった。
「おはようございます。おじさん。おばさんとリーシ
ャは?」
「クレアは今朝は居ないんだ。リーシャはまだ部屋
で支度でもしてるんじゃないかな?」
少し間を置きロウは続けた。
「ユーゴよ。お前に言わなければいけない事があ
る。実は───────」
─────ガルバイン国立学院。
「兄さん、今日ちょっと元気無いよね?今朝父さん
と2人で話してたみたいだけど、その話の所為?」
「いや…何でもない。」
リーシャは恐らくユーゴに何かがあった事を察して
いる様だ。
学院に着くや否や、ユーゴ達の元へ学院教師数名が
駆け寄り
「ユーゴ・ニルヴァーナ。学院長がお呼びだ。つい
て来てもらおう。」
周りの生徒やリーシャは事態を把握出来ないまま、
教師達に連れて行かれるユーゴの背中を見送る事し
か出来なかった。
──────学院長室。
「失礼します!ユーゴ・ニルヴァーナをお連れしま
した、学院長。」
そこは本に囲まれた部屋…と言うより本の空間と言
う方が正しいかもしれない。
無造作に積まれた本、宙を浮かぶ本。
───────大図書空間。
その奥には大きな机があり机に背を向け座
っていた姿がゆっくりとこちらを向く。
その姿は学院長と呼ぶにはあまりに若く
そして、あまりに綺麗な女性だった。
「うむ、ご苦労諸君。下がりたまえ。」
「はっ!」
教師達は部屋を後にした。
「貴様がロウの息子のユーゴ・ニルヴァーナか…
私がこのガルバイン国立学院を預かる
ミゼラ・ニュー・ファーリアだ。」
「初めまして、ミゼラ学院長。」
「ふむ、両親のどちらにも似ておらんな。
しかし不思議な魔力を感じるな小僧。
…成る程、私に聞きたい事がある様だが先に
貴様に伝えなければならん事が幾つかある。」
「何でしょう?」
「先ずは貴様はこれから最下級クラスのDクラスの
降級だ。」
「な?!」
「理由は…まぁ例のバルバロッサの一件で各所から
批判や疑念を抱く声が上がった事で、王国の政治を
取り仕切る老人共が小うるさくてな。
私の権限では降級を条件に学院に貴様を在籍させる
のが精一杯だったのだよ。」
「しかし、あの件は…」
「最後まで聞け小僧。事情は皆分かってるが建前と
言う物も必要なのだよ。それと、貴様には王から直
名で監視が付くことになっている。更に貴様には封
印の魔法がかけられている。」
「…封…印…?一体何故……」
(そうか、今朝から体が怠いのは魔力が封印されて
いるからか…。)
「それは違うぞ小僧。正確には魔力ではなく、魔法
に関する知識だ。知識無くして魔法の構築は不可
能。よってDクラスから基礎を学び直せという事に
なる。」
「?!…俺の思考を…?」
「うむ、私には人の思考や記憶、知識などと言った
目に見えぬ物を魔眼によって“視る”事が
出来るのだが貴様は不思議な男だ。
貴様の記憶を“視”よう
とするとモヤがかかってしまう…」
(これも王国の封印魔法の所為だと言うのか?しか
し記憶まで封印してしまう魔法など…私は知らん
ぞ…。)
「学院長?」
「いや、すまん。つまりは学院には居れるが最下級
クラスから再スタートと言う訳だが異論は?」
「いえ、それで構いません。」
「宜しい。では伝えるべきは告げた。早速今日から
新たなクラスで頑張ってくれたまえ。せいぜい問題
は起こさん様にな。小僧。」
「はい。それでは失礼します。」
─────Dクラス。
Dクラス教室の前に立ち止まり扉を開ける。
───────ガラガラッ。
教室には既に生徒が席に座り、教師も教壇に立って
いた。
生徒達はユーゴを見て騒めき始めた。
「静かにしないか!さぁ、こちらへ来て先ずは自己
紹介を。」
「はい…ユーゴ・ニルヴァーナだ。色々と噂を聞い
てるとは思うが、これからは宜しく頼む。」
「ん。じゃあユーゴ君の席はー、1番後ろの
空いてる席だ。」
ユーゴは言われた通りの席につく。
隣には机に顔を伏せている男子が居た。
「今日から君の隣の席になったユーゴだ。宜しく頼
む。」
「……………。」
「おい?」
「…ん、んー……あ?誰っすか?」
「寝惚けているのか?今日からDクラスで君と授業
を受ける事になったユーゴ・ニルヴァーナだ。」
「あー!あの、血の生贄祭の!」
「血の生贄祭?」
「はいっす。あの日のバルバロッサ家の事を皆は
血の生贄祭って呼んでるっ
す!でも何でウチのクラスなんすか?」
「そうだったのか。まぁ理由色々は色々だ。」
「ふぅん?そっすか。何にせよ、これから一緒のク
ラスって訳っすね!あ、オイラの名前はディオン・
マクシミリアって言うっす!ディオンって呼んでほ
しいっす!」
「なら、俺の事もユーゴと呼んでくれ。」
「了解っす!」
「ん“っうん“っ!」
教師の咳払いによって会話は中断された。
「よし、静かになった所でユーゴ君も新たにクラス
の一員になった事だ。改めて自己紹介をしよう。
このDクラスの担任のオウルだ。担当科目は
魔法構築だ。」
(魔法構築か…丁度良い。まさか一から魔術を学ぶ
事になろうとは思わなかったが…。)
「では、早速授業を始める─────。」
それからオウル先生の授業は始まったが、
ユーゴにはほぼ理解は出来なかった。
それでも一語一句を聞き流す事なく記憶し
筆を取りノートに記した。
そして、あっという間に授業は終わり
休憩時間となった。
ユーゴは休憩時間も勉強に利用しようとしたが
複数の生徒がユーゴを囲んでいた。
「お前がクラス落ちして来たユーゴ・ニルヴァーナ
か。」
「何で首席のアンタがDクラスなのよ!」
「…嫌味のつもりか?」
最早クラス中からユーゴに向かって批判と罵声を浴
びせる声しか無かった。
ユーゴは仕方が無いと思った。
入学して登校初日から自分の手を血に染めたのだか
ら。
しかし、そんな中───。
「寄ってたかって何すか!今日から同じクラスメイ
トじゃないっすか!仲良くしましょーよ!」
「…ディオン。」
「てめぇ、ディオン。そんな人殺しを庇うのか?」
「オイラも、話は色々聞いてるっす。でも終わった
話じゃないっすか!」
今やディオンとクラスの連中の言い合いとなってい
たがその時───。
──ガラッ!──
扉が開くと同時に…
「兄さん!」
「リーシャ…。」
「アンタ達、何の騒ぎ?!兄さんに何か文句がある
のなら……私が聞くわ!」
リーシャの周りを魔力が渦巻いていく──。
騒がしかったクラスの生徒達も一気に静まり返り
悪態を吐きながらも散り散りになった。
リーシャは放った魔力を引っ込めユーゴの元へと
駆け寄る。
「兄さん!何で言われたまま黙ってるのよ!」
「それより、リーシャ、何故Dクラスに?」
「私のクラスの担任から兄さんの事聞いて…」
「ユーゴ、この美人さんは誰っすか?」
「あー、ディオン。さっきは庇ってくれてありがと
う。それと…妹のリーシャだ。」
「兄さん…この人はクラスメイト?」
「成る程っす!初めまして、オイラ、ディオン・
マクシミリアって言うっす!ディオンって
呼んで下さいっす!」
「あ、初めまして!リーシャ・ニルヴァーナで
す。兄共々宜しくお願いします。」
その3人の輪に割って入るかの様に1人の女子生徒が
現れた。
「随分と我がもの顔で他クラスに居座ってらっしゃ
るのね?それもニルヴァーナ家の教えなのかし
ら?」
「何ですって!」
睨み合うリーシャと女子生徒。
「知ってますわよ、貴女リーシャ・ニル
ヴァーナ…学院次席入学のおてんば娘!」
「誰がおてんば娘ですって!ってか、そお言う貴女
は誰なのかしら?!」
「無知な貴女に教えて差し上げますわ。
私の名前は───────。」
第4話も最後まで読んで頂きありがとうございました!
まだまだ続きますので、宜しくお願い致します!
もし楽しんでもらえたなら評価やブクマしてもらえるととても嬉しいです!
評価は下の方にボタンがあるのでポチッとお願い致します。
※設定やタイトル、サブタイトル、その他細かな部分などちょこちょこ変えたりしますがご了承下さい。
次回、学院編5話 体術。
それでは次回もお楽しみに!