3話 繋がれた枷
暗闇から少しずつ姿を現したのは、
何とバルバロッサ家の主だった。
ユーゴは顔色一つ変えなかったが、
リーシャは戸惑いを隠せず吐露した。
「これは、どおゆう事ですか?!他の人達は?!
…何故私達に鎖を?!」
「良い事を教えよう。バルバロッサ家では
昔から代々、ー他者の血をすすり己が血肉とせん、
さすれば更なる力を手にするであろうー
と言う言い伝えがあってな、まぁ要するにそこらに
散らばってる肉片は言葉通り我が一族、吸血鬼の
血肉となり更なる力となる為の生贄になってもらっ
たのだよ!」
ドルモアはそう笑いながら言い放った。
「何て酷い事を…。」
リーシャの顔は青ざめていた。
「成る程…その為に多くの人を集め、
パーティーと称し、血の生贄にしたのか…。
そして、この繋がれた鎖…さしずめ、
俺達をこの出来事の首謀者に仕立て上げる気か。」
「流石…本年度首席入学者。ご名答。名家の生まれ
にして能力共に申し分無い貴様等にはうってつけの
役割だろう。」
「…そんなに事が上手く運ぶと思っているのか?」
するとドルモアは2人に近付きユーゴとリーシャの鎖
を掴み笑みを浮かべた。
「何の為に貴様等2人を鎖で繋いでいると思ってい
る?今宵はパーティーだ。
そしてパーティーには余興が付き物であろう?
貴様等のどちらかを見逃してやる。
だが、もう片方には更なる贄となり今回の件
の首謀者になってもらおうじゃないか!」
「誰がそんな余興に付き合うものか。
こんな鎖如き自力で引きちぎって…。」
(あれ?何だ…力が入らない…これは…)
「ユーゴ…この鎖、何だか変よ!」
「ようやく気付いたのか?その鎖は私の魔力で練り
上げた魔法の鎖、それに繋がれた物は魔力を奪われ
続ける代物だ。自力で抜け出そうなど考えぬ事だ。
さぁ、どれ。余興を始めるとしよう。」
その後、2人はドルモアにいいようにされ続けた。
ーー。
既にユーゴとリーシャは痛め付けられた体と奪われ
続けた魔力の所為で満身創痍である。
「ふむ、そろそろ余興も終いにしようか。
貴様等に決めさせてやろう…どちらが贄となるか
を。」
「…お、俺がなる。だから…リーシャだけは見逃し
てくれ…。」
「ユーゴ?何言ってるの…?私が残る…わ。」
「はっはっは。美しい兄妹愛だな!
自らの命よりも他者を優先するとは…
良いだろう。その兄を想う気持ち、汲んでやろう」
ドルモアは一振りの剣を何も無い空間から取り出し
リーシャの首に突き付けた。
「辞め…ろ!リーシャからその剣を離…せ!」
ドルモアはそんなユーゴの気持ちを踏み潰すかの様
にニヤリと笑い、剣を振りかぶった。
「くっ…辞めろ!辞めろおおおお!」
「ごめんね、ユーゴ。実は私……」
そしてドルモアの剣がリーシャに触れる直前。
その空間に光が放ち始め…
「な、何だ?!この光は…貴様…ユーゴ・ニルヴァーナ!何を…!」
ユーゴの体からは光が放たれそして、
ユーゴに纏わりついていた鎖が弾け飛ぶ。
「ドルモア・バルバロッサ…お前はもう駄目だ。情状酌量の余地も無い。」
「はっ…ほざけよって。吸血鬼の力を舐めるなああああ!
奴を喰らえ…眷属召喚!」
地面から複数の狼が現れ一斉にユーゴに襲いかかる
が、ユーゴは眉一つ動かさずに片手一振りでドルモ
アの召喚した眷属達を一掃した。
そしてユーゴはそのままリーシャに近付き、
リーシャに繋がれた鎖を消しとばした。
「…ありがとう…。後はお願いね?兄…さん。」
「あぁ、任せろ。リーシャ。」
笑みを浮かべながらリーシャは気を失った。
そしてリーシャを少し離れた場所に移し
ドルモアを睨み付ける。
「な、何だその力は!たかが人族如きがその魔力…
あり得ん…貴様、何者だ?!」
「俺が何者か何て事はどうでもいい。ただお前は何
も分からないままこの世から消え失せろ。」
─────聖なる十字架!─────
その瞬間、光が十字を切る様に走り、辺りを光の十
字が降り注いだ。
もう目の前にはドルモアの姿は無い。
跡形も無く消し去られたのだ。
そして、ユーゴも気を失った…。
――そして半年後――
ーーガルバイン王国地下牢最深部。
地下に鳴り響く足音。
その足音は最深部の地下牢に囚われた
ある囚人の元へと向かっていた。
コツン、コツン、コツン…。
チャリン。ガチャッ。
最深部の地下牢の扉が開かれ、繋がれた囚人に
問いかける。
「どうやら君は、この地下牢が気に入った様だね?だが残念だ。君はまた外の世界へ解き放たれる。
そして、指にはめられた十の枷を以前の様に不可視化の魔法で消す事はしない。
今回のバルバロッサ家の事は災難だったが、
形上、必要な措置だったのだ、許せ。
さあ、出たまえ。外で仲間達が待っているぞ」
半年ぶりの外の景色と空気…。
そして…。
「久しぶり!兄さん!…それと、ごめんね?」
「リーシャ…何故謝る?」
「だって、兄さんが囚人として囚われたのは私の所為でもある訳だし……。」
「何だそんな事か…。気にするな。妹を助け、守るのが兄の勤めだからな」
バツの悪い顔をして俯き加減のリーシャに笑顔で答えた。
呼び方が名前から、ー兄さんーに変わったのも
色々リーシャなりに考えて導き出した答えの一つなのだろう。
リーシャもそんなユーゴに対して笑顔を返した。
「それでね?ちょっと紹介…と言うか会って欲しい人が居るんだけど…」
「誰だ?」
物陰から姿を見せたのは、少し雰囲気が変わったが
バーゲンだった。
「お前は…。」
「兄さん、バーゲン・バルバロッサよ?覚えてるで
しょ?あの後色々あってね…詳しくは道中話すわ。
クロードが待ってるの!」
そこにはいつもの馬車とクロードが待っていた。
「ユーゴ様、お久しゅう御座います。お疲れでしょう、さぁどうぞ馬車へ。」
言われるがまま、ユーゴ達は馬車へと乗り込んだ。
そして道中、3人で話し合った。
話を聞くとこうだーー。
あの後気を失った俺は、騒音で駆けつけた衛兵によ
り保護されたものの、唯一の生き残りとして重要参
考人として地下牢へ閉じ込められる事になったそう
で、そのまま約半年もの間眠り続けていたらしい。
何故半年も眠り続けていたかと言う疑問は残るが。
そしてバーゲンはユーゴ等と同様に眠らされていた
が、ユーゴ達より早く目覚めたものの父の起こした
出来事を見てしまったお陰で怖くて動く事も
出来ず、ユーゴが気を失ってからようやく体が動く
様になり離れた所で倒れているリーシャに気付き、
急いでニルヴァーナ家へと連れて行ったのだと言う。
「お前はバルバロッサ家の行ってきた事を知っていたのか?」
「いや…知らされていなかったよ…。
私の一族が吸血鬼である事も、
あのパーティーが何の為のパーティーだったのか
も、私自身、何者であるかすら分からない始末
だよ…。勿論、君達を危ない目に合わせ大変な
迷惑をかけてしまった事は本当に申し訳ないと
思っている!そして、謝って許される事では
無い事も、重々承知している。だが
私には謝る事以外思い付かなくて…本当にすまな
い。一族を代表して謝罪させて頂く。」
それ以上、何かを問い詰める事は出来なかった。
名門貴族の長男が貴族のプライドを捨て
人にここまで頭を下げ謝罪をしているのだ。
「分かった。これ以上、何も言うまい。リーシャ
も、これで良いか?」
「兄さんがそれで良いなら!」
その後バーゲンは涙を流しユーゴ達にお礼を
言って、馬車を降りて行った。
――ニルヴァーナ家。
「どう、兄さん?久しぶりな感じでしょ?」
「いや、数日前まで眠っていた所為か久しぶりって程でも無いかな。」
「そっか、そうだよね!でも…何で半年も目が覚めなかったんだろう…」
「…うん…そうだな…」
居間にはロウおじさんとクレアおばさんが居た。
「おー!お帰りユーゴ!また少し髪が伸びたな?背
も伸びたか?」
「まーた男前になって帰ってきたわね!直ぐご飯に
するわね!」
いつも通りでホッとしたユーゴは挨拶を交わして席
についた。
そして唐突に切り出す。
「ロウおじさん、この指枷をご存知でしたか?」
「…!…うむ、すまない…私にも知らされてはいな
いんだ…。」
「そうですか、突然すいません。」
(ロウおじさんなら何か知ってるとは思ったが…
何かの封印を施した様な紋様が入ってる事からして
普通の枷では無いことは明らかだが…)
「おじさん、おばさん。すいません、
今日はもう疲れたので休みます。」
ユーゴは席を立ち部屋へと戻って行っ
た。
「兄さん?」
(明日からまた学院か…まぁ今の所は無事に学院生
活を送れる事に満足しておこう。)
「先に寝るよリーシャ。おやすみ。」
バルバロッサ家のいざこざが終わり
また学院生活が始まる。
ーー。
第3話も最後まで読んで頂いてありがとうございました!
次話も是非!
次回、学院編4話 魔眼持ち