2話 PARTY
ーー初日の午後。
ユーゴとリーシャは学院の門前で待ち合わせた。
昼の一件を了承した手前、バラバラに帰る理由も無い。
先にリーシャが待ってくれていたみたいだ。
しかし、どことなく元気が無い様にも見える。
「おい、リーシャ大丈夫か?気分が優れない様なら今日の所は遠慮させてもらうか?」
「あ、ユーゴ…。んーん、大丈夫、ありがとう!」
空元気で心配かけさせまいとしてるのが丸分かりだ。
何故ならリーシャは嘘をつく時、
髪を耳にかける癖があるからだ。
その嘘に気付きながらも、
ユーゴはリーシャの気持ちを汲む事にした。
当然帰りの迎えとしてクロードも門前で待っていた。
「お勤めご苦労様です、ユーゴ様、リーシャ様。真っ直ぐ御自宅で宜しいでしょうか?」
(一度、家に戻ってロウおじさんとクレアおばさんにも一言伝えておいた方が良さそうだな。)
「ええ、お願いします。クロードさん。」
「ユーゴ様、私めに敬称など不要で御座います。」
「そう…だったな。頼むクロード。」
(未だに慣れないが、今後の為にも早い内に慣れないとな…。)
「かしこまりました。」
そう言いクロードは馬車を発進させた。
リーシャは馬車の窓から遠い空を見つめてるようだ。
最早心配しない方が不自然だろう。
「リーシャ。何かあったのか?」
リーシャがその問いに答えるまで少し間があったが、
重たい口を開いた。
「あのね、今日クラスメイトに言われたの。どうしてリーシャさんはユーゴさんを名前で呼んでるの?って…。でも、兄妹を名前で呼ぶ家庭も珍しく無いでしょ?って言ったら一応は納得してくれたんだけど…。」
(それもそうだ。俺がリーシャと血の繋がりが無い事を知ってるのはニルヴァーナ家と学院長だけだからな。学院長は昔からロウおじさんと交流があるから色々と融通を利かせてくれている部分もある様だ。)
「まぁ、実際の所仕方が無い事だ。たかが2年一緒に育っただけで血の繋がりは本当に無いんだから兄とは呼べないだろ?」
「たかが2年って何よ!時間なんて関係無いわ!どれだけ浅くても一緒に家族として育ったんだから私達も立派な家族よ!まぁ、ちょっとだらしない所もあるけど…それでも頼りがいのある兄さん…だと…思ってるわ…。」
リーシャは少し照れ臭そうに顔を伏せた。
「ありがとうリーシャ。ならこれからは兄さんと呼べる様に練習しないとだな?」
ユーゴは意地悪そうにリーシャに答えた。
そして、2人の仲睦まじい会話はその後も続きいつの間にか馬車も家の前に着いていた。
「到着致しました。」
「ありがとうクロード。それと、この後も少しリーシャと一緒に出掛けるんだが頼めるか?」
「勿論で御座います。」
そして家に入るとロウおじさんとクレアおばさんに挨拶をし、各々自室へと向かった。
(ロウおじさんがこの時間に家に居るのは珍しいな…入学初日だからか?)
私服に着替え終え、リーシャの部屋に向かった。
「リーシャ、準備は出来た…か……」
この時、何故ノックをしてからドアを開けなかったのか後悔はしたが時は既に遅く、
案の定リーシャは着替え真っ最中であった。
「…親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってるかしら?に・い・さ・ん?」
「すまない、下で待ってる。」
そう言いその場から去り下へ降りた。
(怒った時のリーシャはクレアおばさんにそっくりだな…以後気をつけよう。)
下へ降りるとクレアおばさんとロウおじさんにバルバロッサ家へ招待された事、
2人でこれから向かおうとしてる事を伝えた。
「うぅむ、あの名門バルバロッサ家か。家柄は確かなんだが…」
ロウおじさんは続けて何か言いたげそうだったがそれ以上は何も言わなかった。
「アタシはバルバロッサ家は正直胡散臭いし苦手だわぁ。」
こおゆう時、クレアおばさんはズバっとしている。
確かに2人の懸念も分からなくもない。
バルバロッサ家は昔から何かと問題の多い貴族だと知らされていて、中には人身売買なんかもしていると聞いた事がある。
(まさかだとは思うが、用心するに越した事は無いか。)
そしてリーシャも部屋から降りてきてユーゴと顔を合わせるなり睨めつけた。
「一瞬リーシャとクレアがダブって見えたぞ…」
ロウおじさんが完全に虎の尾を踏んでしまった瞬間である。
リーシャとクレアに散々ドヤされたロウおじさんはしょんぼりしていた。
そして思い出したと言わんばかりに
「そう言えば学院初日はどうだった?」
「まぁバルバロッサ家に招待された事以外は特に何も無かったですよ。」
「ならば良いんだが、何かあれば学院長を頼りなさい。きっと力になってくれる筈だ!」
軽く頷き、リーシャと共に挨拶をし家を出た。
クロードは馬車の馬に水をやっていた。
「クロード、もう出れるか?」
「ええ勿論ですとも。」
クロードに行き先を伝え2人は馬車に乗り込んだ。
バルバロッサ家は丁度家から学院の中間辺りにある一際目立つ屋敷で門の前には常に門番が立っている。
広さはニルヴァーナ家より一回り大きいので誰が見ても一目で分かるインパクトがある。
ーーバルバロッサ邸前。
馬車が止まりクロードが扉を開けてくれる。
「到着致しました、ユーゴ様、リーシャ様。私はこちらで待たせて頂きますので行ってらっしゃいませ。」
「いつもありがとうクロ爺!お願いね!」
クロ爺とはクロードのリーシャが付けたあだ名だ。
クロードはお辞儀して2人を見送った。
すると屋敷の中から、高価な物なのだろうがとても趣味が良いとは言えないスーツを着た男性がこちらに向かって歩いてきた。
バーゲンだった。
「ぅん〜良く来てくれたね!早速案内させてもらうよ!」
そう言い屋敷の中へと勧められる。
屋敷の中は何処を見てもキラキラしていてとても眩しく目が眩みそうな程で、
リーシャは手で目を覆っていた。
「どうだウィ?僕の家わ!とてもウィ〜センスだとは思わないかね?ん〜?」
適当に相槌を打った。
「それでは今宵のパーティールるるぅームへ!」
「一体どんなパーティーなのかしら?ねえユーゴ。」
ーーパーティールーム。
そこには数十人程、集まっており
既に酒を手に取ってる者も居る。
その中央には一際目立つ風貌の2人組が居た。
恐らくこのパーティーの主催者にしてバルバロッサ家の主だろう。
バーゲンもその中心にユーゴ達を誘導している。
「お父様!彼等がニルヴァーナ家の長男、ユーゴ・ニルヴァーナと長女のリーシャ・ニルヴァーナです!」
すると、バーゲンとは似つかない静かながらも凄みのある声で
「良くぞ来てくれたニルヴァーナ家の者達よ。
私はバーゲンの父、ドルモア・バルバロッサだ。
今宵は君達を息子の学友として歓迎させて頂く。
存分に楽しんでくれたまえ。」
ニルヴァーナ兄妹はドルモアにお辞儀してパーティーを楽しむ事にした。
するとバーゲンがシャンパングラスを両手に持ち近づいて来た。
「ウェルカムドリンクだよ!今日はウィ〜パーティーにしよう!食事も自由にしてもらって構わなウィよ!」
2人は色とりどりに盛り付けられた皿を取り食事を楽しみながら談笑していた。
(今の所何も起きそうな気配は無い…か。)
と、思ったのも束の間、急に手足に力が入らなくなり目の前が暗くなった。
「な、んだ…これ…は。」
ーー。
ようやく手足に力が戻り、目を開けるとそこには…
ついさっきまで笑い、飲んだり、食べたりしていた他のパーティー参加者達が皆血塗れになって倒れていた。
(何て酷い…一体何が起こったと言うんだ?)
辺りを見渡し生存者が居ないか確認するがどうやら生存者は居ない様だ。
すると、、、
「…さん。…兄さん!」
「リーシャ…か?」
「うん、そうだよ!これ…どおゆう事?何で皆こんな事に…何で私達鎖に繋がれてるの?」
そう、2人は鎖に繋がれていた。
(恐らくパーティーの中に仕組んだ奴が居る。
そして、そいつは間違いなく近くに居る)
「どうやらそれを答えてくれる奴が出てきたみたいだ。」
そして、暗闇の中から姿を現したのはーー。
楽しいパーティーが一気に酷い状況に…。
そして次回、その主犯者が明らかに。
次回、学院編3話 繋がれた枷
ーー。
第2話も最後まで読んで頂きありがとうございます!
また次話もお楽しみにして頂ければと思います。
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