刀比べと双六【終】
それから数周して、このゲームを楽しんでいた阿求がシンボルとやらを2つ集め、ゴールへと向かうまでに至り、イカサマを封じられたマミゾウと俺がシンボルを一つずつ入手、最下位は相変わらず、マサムネの奴だ。
マサムネは着実に金を溜めてるが、いざ戦闘になると出目が振るわない。
まあ、あくまでもマサムネってのは観賞用の名刀であって、無骨だが実用的な俺とは異なるのもあるだろう。
加えて、このゲームのバトル要素は三属性によるパワーバランスで成り立っている。
それを把握する事の出来なかったマサムネが対抗する方法としては同じマスに止まった時に起こる出目勝負で勝つ他ない。
因みに俺は既に今の周回でシンボル込みで五千以上のポイントを稼いだ。
ーーとは言え、エネミーとやらのエンカウントばかりしていたから、体力がそろそろ危ういがな。
そんな俺の番な訳だが、此処で少し流れが変わる。
「ん?この出目だと阿求と同じマスに止まる事も出来るのか?」
それを聞いて、二ツ岩が何かを思い付いた様に笑う。
「ムラマサよ。阿求との出目に勝てば、阿求の持つシンボルを奪う事が出来るぞい」
「ほう。それは良い事を聞いたな」
「ちょ、ちょっと待って下さい!
共闘とかは無しですよ!」
阿求が慌てふためく中、俺は駒を進め、阿求との出目勝負へと持ち込む。
阿求の振れるサイコロは4つ、俺は6つ。先手は阿求からで出た目は合計15。
つまり、16以上出せば、俺の勝ちだ。
「ムラマサ様」
「なんだ、阿求?」
「その、優しくして下さい」
「そいつはサイコロの神にでも言うんだな?」
俺は恥ずかしがりながら媚びる阿求にそう言うとサイコロを振る。
出た目は18か……少々危うかったな。
「あーっ!」
負けた阿求は声を上げると大の字に寝そべる。
「裾が見える。はしたないぞ、阿求」
「ブー!ムラマサ様のケチー!」
遊戯にはしゃぎ過ぎているのか、普段の阿求らしからぬ子供っぽさだ。
まあ、記憶や転生などはしてても肉体的には子供な訳だし、これも阿求の一面なのだろう。
「ふぉっふぉっ!貰ったぞい!」
そんな事をしている間に蚊帳の外となった二ツ岩もシンボルを得て、リーチとなる。
そして、マサムネはと言うと俺と阿求がいるマスへと駒を進めた。
俺と対決するのかと思っていたが、マサムネは俺ではなく、阿求へと出目勝負を挑む。
阿求との出目勝負を見る限り、マサムネもサイコロは六つ使っていた。
「何故、俺に勝負を挑まない?」
俺が問うとマサムネは笑う。
「敵に抜く事をさせずに不用な争いは避ける。名刀と呼ばれた正宗とはそう言う物です」
俺はその言葉に納得しつつも半ば残念な気持ちになっていた。
付喪神とは言え、村正と正宗の刀勝負だぞ?
どんな形であれ、再現したいと思うのが筋の筈だ。
ところがこのマサムネーーいや、正宗と言う刀その物の存在かも知れないが、その勝負に乗らなかったのだ。
妖刀村正伝説の念の籠められた俺としてはその伝説の一端が再現出来ないのは残念である。
そのまま、俺はゴールして上がり、最下位は2つのシンボルを失った阿求となった。
「悔しい~!次は負けませんよ!」
「次があればな。まあ、双六遊びもたまには悪くはなかったぞ」
俺はそう告げると当初の目的を口にしようとして二ツ岩とマサムネを見る。
ーーと、マサムネは一振りの刀に戻っていた。
そこからはもう何の気配も感じない。
「ふむ。どうやら、思いを遂げて満足してしまったらしいのう」
「……どう言う事だ、二ツ岩?」
「簡単な事じゃ。妖刀村正と名刀正宗の伝説が再現されたからなんじゃからな?」
「何を言っている?俺はあいつとは勝負をーー」
そこまで言い掛けて、俺はマサムネの発言を思い出す。
"敵に抜く事をさせずに不用な争いを避ける"と言う言葉を。
「成る程な。つまり、俺は遊戯では勝ったが、勝負に負けた訳か……」
俺はそれを理解すると口元を緩め、最早、ただの美しい飾りとなった正宗を見る。
再現は当にされていたのだ。
こうして、妖刀村正伝説と名刀正宗の伝説が世に知れぬ事なく、また一つ新たなページを加える。
ーー数日後、俺は阿求の計簿を元に鬼切り丸の行方を追い、刀の破片を手に入れる事となる。
それが茨木華扇と博麗霊夢の二人を中心とした運命を左右する事になるのだが、それは俺の口から語る事ではない。
この事は茨木華扇と博麗霊夢、比那名居天子だけの秘密って所だろう。
俺は刀の破片の出どころを華扇が言わない以上、俺の出る幕はない。