刀比べと双六【二】
マサムネと名乗る男と二ツ岩は互いに挨拶すると胡座を掻き、阿求が双六を中央に置く。
「始める前に賭けをしましょう」
「ふむ。賭けかの?」
阿求の提案に二ツ岩が「ふ~む」と唸って考え込む。
「賭ける物にもよるの。物かの?それとも金かの?」
「その方次第ですね。ルールは至って簡単です。
得点を多く稼ぎ、一位になった方が最下位になった方に命令すると言う物です」
「ほほう。それは面白そうだのう」
「ええ。悪くはありませんね?」
阿求の言葉に二ツ岩とマサムネが頷き、俺は溜め息を吐く。
本当に面倒な事になったもんだ。
そんな俺を見て、阿求が微笑む。
「ムラマサ様は自信がないのですか?」
「こう言う博打は初めてでな」
「博打ではなく、遊戯ですよ。
今、流行っているじゃないですか、こんな形の遊戯が」
「ああ。あれか……」
俺は幻想郷で今、流行っているアレを思い出す。
名前やどんな遊戯なのかまでは知らんーーが、阿求が双六を持って来たって事はそれ系なのだろう。
ん?ちょっと待てよ?
「確か、お前も参加してたんじゃなかったか、阿求?」
「ええ。確かに私もクイズの出題役として出ています。
ですが、正直、皆さんがあんなに楽しそうにしているのに混じれないのが悔しくて……それで絶対に参加しそうにない方を集めました」
「ちょっと待て、阿求よ。
それでは儂も頭数に入ってないみたいではないか?」
「だって、マミゾウさんと永遠亭のてゐさんってキャラ的な能力が被ってそうじゃないですか?
イカサマ系と言うか、なんと言うか……」
「お、お主!それはちと、儂を舐めとりゃせんか!」
やれやれ。これは何かしら厄介な事になりそうだ。
「まあ、俺が出ないってのも頷ける。
俺はそんな表舞台に立つキャラじゃないしな」
俺はそう言うと駒の一つを掴む。
ところが何故か、駒は押しても引いてもビクとも動かないと来ている。
「おい、阿求。駒が動かんぞ?」
「仕様ですから」
そんなにやりたかったのか、アレ。
俺は溜め息を吐くと阿求によく似た駒をつつく。
「ひゃん!」
俺がつついた拍子に阿求本人が自身を抱き抱える様に蹲る。
「あー。もしかしてですが、これって」
「はい。河童さん特製の疑似体験型双六です」
マサムネの問いに恥ずかしげに阿求が肯定すると俺は頭を抱えた。
つまり、あれか?
俺はあのゲームを疑似体験しなきゃならないのか?
そんな俺の様子に構わず、阿求が咳払いして仕切り直す。
「前置きはこれ位にして始めましょう。
今回はシンボルを2個獲得してゴールまで運べば、勝ちです」
「シンボル?」
「幻想郷の有名所を模したマスの事です。
此処のマスでポイントを消費してマスを購入すれば、ボーナス時に資金が加算されます。そして、シンボルとして所持する事が可能なのです」
「成る程な」
「まあ、まずはやって見ましょう」
そう言って、阿求はゲームを開始した。
「ーーって、ちょっと待て!
なんで、俺の駒の周りに敵が密集してんだ!」
俺が叫ぶと二ツ岩が愉快げに笑う。
「ふぉっふぉっ。流石は妖刀村正の付喪神よのう。エネミーが面白い様に引き寄せられてるのう」
そう言って、二ツ岩はサイコロを振る。
「ふむ。6か……どれ……」
二ツ岩はひょいひょいと駒を動かしーー
その足元に俺の分身体である刀が刺さる。
「ーーって、うぉっ!危なっ!」
「いきなり、イカサマとは感心しないな、二ツ岩?」
俺はそう告げるとマミゾウの振ったサイコロを睨む。
すると、サイコロがじっとり汗を掻く。
まあ、当然だ。こいつはサイコロに化けた狸なんだからな。
まあ、普通に考えても三の裏側が六なんて訳がない。
「賭博なら指の一、二本は無くなって貰うところだよな?」
「い、いや、これはちょいと間違えただけじゃ!本物はこっちじゃ!」
「それも狸じゃねえか!サイコロから同じ妖気が漏れてんぞ!」
俺がそう叫ぶと二ツ岩は困った様に頭を掻く。
結局、マミゾウには阿求のサイコロが渡され、睨みを効かせる俺の前でコロコロと転がす。
「なんだ?もう少し楽しんではどうかの?」
「あんたがイカサマしなけりゃな?」
俺はそう告げるとサイコロを転がしてマスを移動させる。
「何処へ行っても敵だらけってんなら、全員叩きのめすだけだ」
俺はそう言うとマスに止まって敵を叩きのめす。
戦略については自信があるから敵のマスを叩くのは他愛ない。
「ムラマサ様。そう言うルールではありませんからね?
でも、エネミーを倒すと多額の資金を得るのも事実です。
そう言う戦法もありでしょう」
そう言うと次の番になった阿求もサイコロを転がしてマスを移動させる。
ーーとイベントが発生し、阿求は一回休みとなる。
それでも阿求の奴は楽しそうだ。
「こんなに飛んだり、跳ねたり出来るなんて……疑似体験とは言え、貴重な体験ですね?」
ああ。成る程な。
体力とか人妖どころか、一般人にも劣る阿求には健康な人間の感覚に感動も覚えるだろう。
恐らく、この遊戯を心から楽しめるのは阿求くらいな物だ。
さて、肝心のダークホースはどんなかな?
「うーん。出目が振るいませんね。私は一しか出ませんでしたよ」
ーーとか言いつつ、アイテムのマスに止まっている。
だが、初期設定の所持金で購入したのだから、これでマサムネが総資金で最下位となる。
さて、これからどうなるかだな。