奪われた楼観剣【終】
「シクシク……また負けた」
博麗神社に着いた俺は半べそを掻いてボロボロの明羅と呑気に縁側で湯飲みに入った茶を飲む霊夢を目撃する。
明羅は白と赤の和装をした侍姿の女だった。
女だと判別がつくのはボロボロにされた服の下から見えるさらしと胸の膨らみからである。
まあ、そんなの事で確認しなくても、俺は明羅が女だってのは知っていたんだがな。
そんな明羅の足元には楼観剣が転がっている。
予想通り、明羅は霊夢に手も足も出なかったか……。
勝敗については少し考えれば、解る事だ。
靈夢よりも実力のある霊夢が楼観剣を手に入れたとは言え、明羅ごときに負ける訳がない。
それに明羅と妖夢のどちらの太刀筋が良いかと問われれば、俺なら妖夢と答えるだろう。
「久し振りだな、明羅ーーと言っても、俺が解るか?」
「え?誰?ーーって、ムラマサさん!?」
明羅は慌てて立ち上がり、転がっていた楼観剣を手にして俺から距離を取る。
何故、明羅が俺を知っているかって言うと俺も明羅と手合わせした事があるからだ。
ついでに言えば、靈夢に埋められそうになって、そのまま放置されてたのを助けてやった経緯がある。
そんな俺を覚えているって事は平行世界から来たのではなく、時を超えてやって来たのだろうと予測される。
「あら、ムラマサ。その人、知り合いなの?」
「まあ、そんなところだ」
俺は一息吐く霊夢に頷くと明羅が一気に迫りーー
「え~ん!ムラマサさん!助けて下さい!」
ーー泣きついて来た。
「離れろ、明羅」
「そんな事言わないで下さいよ。
私、もう何がなんやら、解らないんですよ。
此処は博麗神社なんでしょうけど、あの巫女よりもおっかない巫女がいるし、誰も私を覚えてないし、本当に怖かったんですから」
「大天狗ーーいや、あいつからはこの世界の事を聞かなかったのか?」
「彼女からは何もーーって、大天狗!?
彼女、偉くなってませんか!?」
「その様子からするにお前はやっぱり、時代を超えて来たんだな?」
俺は困惑する明羅を観察して、そう呟くと霊夢に顔を向ける。
「ーーと言う事だ、霊夢。こいつを元の時代に帰してやってくれ。
どうせ、八雲紫辺りの仕業だろうから、お前でも帰せるだろう?」
「ええ。やれない事もない筈だわ」
「ほ、本当に!?」
「ただし、条件がある」
花が開いた様に笑う明羅に割って入ると妖夢の事を顎で示す。
明羅も俺が顎で示した方角を見て、?マークを浮かべながら妖夢を見る。
「えっと、どちら様でしたっけ?」
「あいつは魂魄妖夢。お前が不意討ちで倒した奴で、その刀ーー楼観剣の持ち主だ」
「あ、そう言われれば、そんな気も……。
確か、博麗の力に対抗出来そうな刀を彼女に聞いた時に手強い妖怪だろうから、不意討ちで奪うのが良いと言われたから、その通りにしたんだっけ?」
「確信犯なのか、無自覚なのか解らんが、お前のやった事は盗人と同じだ」
俺はそう言うと抱き着く明羅を引き剥がし、妖夢の背後に回り込んで、その肩を掴んで押す。
「ーーてな訳で改めて、正々堂々と妖夢と剣で勝負しろ」
「え?え?ムラマサ様?」
「お前が勝ったら、その楼観剣はくれてやる。
負けたら今後、博麗には関わらないと約束しろ」
「ちょっーームラマサ様!?」
俺は困惑する妖夢と明羅の足元に俺の分身体である二本の妖刀を突き刺す。
「腹を決めろ、妖夢。切腹するだけの覚悟があったんだから、負ければ、魂魄家の恥となると思え。
お前も剣士なら武器を奪われると言う事がどれだけの失態か解るだろう?」
俺はそう言うと妖夢から離れ、二人の真ん中へと立つ。
「これより魂魄妖夢と明羅の真剣勝負を行う」
俺の言葉に妖夢は瞼を閉じ、覚悟を決めたかの様に再び目を見開いて刀を抜く。
明羅も遅れて意を決した様子で刀を抜いて構える。
「いざ、尋常に!真剣勝負!はじめ!」
俺の言葉を合図に剣士と侍の戦いが幕を開けた。
その後の結果はどうなったかって?
まあ、あいつの誇りをこれ以上、汚さない為にも俺の想定通りだったと言う事だけ伝えて置く。
こうして、奪われた楼観剣は無事に妖夢の手元に戻り、明羅は元の時代へと帰って行ったのだった。
義理堅い明羅の事だから、約束通りに今後、博麗に関わる事はもうないだろう。
問題は此処からで明羅が辻斬りした妖怪や人間には妖夢の仕業って事に歴史が改変された。
妖夢はしばらく、庭師としての仕事よりも剣士としての決闘を優先させるだろう。
まあ、これも楼観剣を奪われるなんて失態を犯した妖夢の問題だ。
妖夢も真摯に受け止め、また一つ成長するだろう。
師である妖忌の為にも妖夢にはそうなって欲しい。
幽々子は望んではないだろうが、幻想郷の安泰にはいずれ、妖夢の力も必要になる。
恐らく、それを見越した八雲紫の仕業だろう。
その八雲紫からは「黙して語るな」と命を受けたので、これ以上、多くは語るまい。
こうして、また一つ真相が明かされぬ事件が人の知らぬ所で終わるのだった。