奪われた楼観剣【二】
妖夢が楼観剣を奪われた場所は中有の道に入る少し手前の山道だった。
「此処で合ってるのか?」
「はい。間違いありません」
「そうか」
俺は妖夢に頷くと"そちら"へと振り返る。
「見ているんだろう、椛?」
俺がそう呟いて、しばらくすると白狼天狗の犬走椛が飛んで来て、フワリと白い振り袖と黒い袴の裾をはためかせながら降り立つ。
「申し訳ありません。少々遅くなりました」
「問題ない。それに山の中で起こった事だ。
大天狗も黙っちゃいないだろ?」
俺がそう問うと椛は周囲を見渡してから俺の鼻先まで顔を近付ける。
「その件ですが、事件についての真相は他言無用でお願いします」
「ん?どう言う事だ?」
「それが大天狗様からの命令です。
私も詳しくは聞かされてませんが、大天狗様の命は絶対ですから」
「え?それって、どう言う事ですか?
まさか、天狗が犯人だとか?」
妖夢が困惑しながら問うと椛が獣耳を動かし、手にしていた哨戒天狗の使う剣を妖夢に向けた。
「いくら、貴女でも天狗を愚弄するのなら容赦しませんよ、魂魄妖夢?」
「みょん!?そんなつもりは……」
俺は溜め息を吐くと剣を向ける椛と困惑する妖夢の間に立つ。
「妖夢がすまないな。だが、そう疑うのはもっともだろ、椛?
なにせ、天狗は今回の件を他言無用にしてくれって言うんだからな?」
「……私達をお疑いなら協力は出来ません」
「そうか。なら、他を当たろう」
「ムラマサ様!?」
俺が椛に断言すると妖夢が驚いた表情で此方を見る。
そんな椛はと言うと断られて困った顔をしていた。
「ん?どうした、椛?
俺は信用出来ないから、お前の言う通りに断ったんだが?」
そう言うと椛の獣耳が萎れる。
こう言う時のこいつはどうしたら良いか解らないって時のサインだ。
「……どうしたら、信用して頂けますか?」
「そちらの情報次第だ」
「それは、出来ません。それでムラマサ様が約束を反故されたとなったら、私は大天狗様の命令に背いた事になりますので」
「なら、お前の持ち得る情報だけでも教えろ。それ位は出来るだろう。
それも出来ないなら、本当に他を当たる。
化け狸ならば、協力してくれそうだからな」
「ちょっと!ムラマサ様!
あんまり、椛さんを困らせてはーー」
「妖夢は黙ってろ。そもそも、文の書いた文々。新聞じゃあ、既にお前が犯人扱いなんだ」
「え?そうなんですか?」
「ああ。だから、もしも犯人がお前以外であったとしたら天狗の評判は下がるだろうな。そうだろ、椛?」
俺がニヤリと笑いながら椛を見ると椛は尻尾まで垂れ下がり、半泣き状態である。
まあ、本当に天狗の協力を断っても良いんだがな。
文の新聞通りなら犯人は既に何人かを襲っている訳だし、目撃者の一人や二人いてもおかしくない。
だから、天狗の協力無しに動く事も不可能って訳じゃないのだが、椛ーーいや、大天狗からして見れば、それは困るのだ。
ーーとは言え、大天狗が黙っていると言うのと楼観剣を盗んだとなると大体、俺の中では推測が出来ている。
予想通りなら十中八九、あいつだろう。
「おい、椛」
「……はい」
「犯人は明羅だな?」
「……そう、です」
やっぱりな。
明羅ーーかつて、博麗の力を得ようとした女侍だ。
美男子と間違われる程の美貌の持ち主で霊夢の祖先に当たる靈夢が惚れた位だ。
まあ、あいつも人間だ。本来なら靈夢同様、既に引退している筈だろう。
だが、この幻想郷には忘れ去られた存在がまた戻って来る事もある。
例えば、平行世界からやって来るとかな。
そして、平行世界か、それとも引退している筈の明羅本人であるかは解らないが、恐らく、楼観剣を手に入れて天狗になっているならば、最後に訪れるのは博麗神社だろう。
「……あの、ムラマサ様。後生ですから」
「ん?ああ。解っている。この事は他言無用だろ?」
「はい。お願いします」
椛は深々と頭を下げると俺達に背を向けて飛んで行く。
大天狗が他言無用にしたがる訳だ。
なんせ、自分も明羅に惚れていたんだからな。
大方、かつて惚れた明羅が現れて、二つ返事で楼観剣について教えたんだろ。
恐らく、博麗の力に対抗する為にはどうしたら良いかと問われたんだろうな。
その光景が目に浮かぶ。
ーーで、今頃になって自分がやらかした事に気付いたんだろう。
本当に罪作りな男ーーではなく、女だ。明羅って奴は。
「妖夢。行くぞ」
「え?行くって、何処へ?」
「明羅の最終目的は博麗の力を得る事だからな。なら、博麗神社で待ってれば良い」
「成る程」
妖夢は納得した様に俺の言葉に頷くと博麗神社へと歩き出す俺の後について来る。
まあ、俺の予想が当たっているのなら、今頃ーー