絆【終】
あれから数週間後、俺は改めて風見幽香に招待され、向日葵畑を通り、風見幽香に会いに行く。
「よく来たわね、ムラマサ」
「また、お前に人質を取られたらたまったもじゃないからな、風見幽香」
「貴方もしつこいわね。もうそんな事はしないわよ」
風見幽香はそう言うと家の外に設置された白い椅子に座り、白いテーブルに紅茶の入ったカップを置いて、未だに佇む俺を見据えた。
「立ち話もなんだし、貴方も座ったら?」
「・・・そうさせて貰おう」
俺は風見幽香に頷くと机を挟んで相対するように座る。
「貴方も食事をしてみたら?
付喪神である貴方は食事をしなくても生きていけるかも知れないけれども、それだけじゃ、つまらないでしょう?」
「今更、生活を変えるつもりはない。それに食事を摂るって事はその分、隙が出来るからな?」
「そう。本当につまらない男ね」
風見幽香はそう告げるとカップに入った紅茶の香りを楽しんでから、優雅に飲む。
俺にはその行為に意味があるとは思えないのだが、どこかしら気品は感じるな。
「それで、用件はなんだ?また俺に警告か?」
「そう慌てないで。私はただ、今回の一件には感謝しているのだから」
そう告げると風見幽香は何処か優しげな表情でカップを置く。
その視線は俺ではなく、何処か遠くを見るようだった。
「警告して置きながら、私が足元を掬われる事になるとは思ってなかったもの。
それも含め、貴方達ーー幻想郷の守護者には感謝しているのよ」
風見幽香はそう言うと俺に視線を戻す。
「あの子達を守ってくれて、ありがとう、幻想郷の守護者さん」
「気にするな。これも俺の使命だ」
「そう。そういう事にしておくわ」
風見幽香はそれだけ言うと紅茶を入れ直して再び口にする。
俺はそれを見届けてから、席から立ち上がった。
「今、来たばかりじゃない?何か用でもあるの?」
「・・・どうも裏がありそうで警戒しているだけだ」
「失礼ね。先程も言ったようにもう、そういう事はしないわよ。
それとも、貴方の方が何かやましい事があって?」
「ないと言えば、嘘になる」
俺はそう告げると椅子の後ろに立ち、代わりにスキマから出てきた八雲紫が俺の座っていた椅子に座る。
そんな八雲紫を見て、風見幽香も良い顔はしない。
「貴女は呼んでないわよ、紫?」
「まあ、そう言わないで。たまには良いでしょう?」
そう告げると八雲紫はスキマからクッキーとかいう洋菓子の盛られた器を取り出す。
「少し話をしましょうか、幽香?
お互いに得のある話しをね?」
そんな八雲紫に風見幽香は溜め息を吐くと八雲紫ではなく、俺を睨む。
これで貸し借りはチャラになったな。
「それでどんな話しかしら、妖怪の賢者様?」
「大した話しではないわ。貴女にも抑止力になって貰いたいだけよ」
「私に貴女達の仲間になれと?」
「いいえ。貴女は今のままで良いわ。
ただ、たまにで良いから、ムラマサの代わりに人間の里を巡回して欲しいのよ」
「なんで、私がそんな事をーーって、そういう事ね?」
風見幽香は抗議しようとして何かに納得したように再び、俺を見る。
今度は何か新しい玩具でも見つけたような目だ。
まあ、こいつの考えている事は恐らく、半分は当たっているだろうからな。
「貴方も変わったって事ね、ムラマサ?」
「不本意だがな?」
茶化す風見幽香にそう言うと俺は鼻の頭を掻く。
「まあ、思っていたよりも悪い気はしないな。同胞を頼ると云うのも・・・」
「その中には私も入っているのかしら?」
「それは返答次第だが、そうなる事を願っている」
風見幽香はその言葉に微笑むと八雲紫に口を開く。
こうして、俺の負担はまた一つ減った。
そうして、俺は時々、風見幽香に巡回を代わって貰い、様変わりしていく幻想郷を改めて、眺める事となる。
変化しているのは俺だけではない。
幻想郷も常に変化している。
そう思ったら、少し寂しくもあり、嬉しくもある。
俺はそんな幻想郷を眺めながら、静かにあの言葉を呟く。
「古き世を捨て、新しき世界を生きよ」と・・・。
俺も古き世から新しい世界に歩く時が来たのかも知れないな。
そう思いつつ、俺の話しは此処で終わる。
新しい幻想郷で新しい出会いを果たし、新しい物に触れる。古き時代の俺にもそれが必要らしい。
これからを思うと楽しみでもある。
今後、幻想郷がどう変化していくのか、今後も見守らせて貰うとしよう。
【幻想郷の付喪神・完】
ーーかくて、その付喪神と呼ばれる妖怪は再び、歴史の影に消える。
ムラマサの話しは此処で一区切りつけます。
楽しんで頂けていれば、何よりです。
とりあえず、東方の二次創作を書くのはこの作品をもって、しばらく、控えます。
確か、私が今、小説家になろうで連載している東方の二次創作はこれくらいだった筈。
ーーと云う訳でまた気が向いた時にでも書きます。
ではでは、これにてアデュー( ・ω・)ノシ




