奪われた楼観剣【一】
ーーツトムの件からしばらく経って、季節が夏から秋に変わる。
俺は相変わらず、ブラブラと人間の里を歩いて巡回していた。
「兄さん!兄さん!」
そんな俺に手を振って雷鼓がやって来る。
雷鼓はツトムの一件などなかったかの様に振る舞っていた。
まあ、俺達、妖怪ってのは本来、そう言う物だ。
概念にとらわれないのが妖怪の在り方だからな。かく言う俺もそうだ。
少し寂しくも感じるが、俺達はそんな生き方しか出来ない。
「どうしたんですか、兄さん?」
「ん?ああ。少し考え事をな」
俺は此方の様子を伺う雷鼓にそう言うとその手にされた文々。新聞を見る。
文々。新聞は烏天狗の記者である射命丸文が発行する新聞だ。
清く正しいとか謳っているが、実際は天狗の都合の良い様に改変されている。
まあ、全部が全部、虚偽とは言わんがな?
「それでどうした、雷鼓?新聞を持って来たって事は新しい事件か?」
「そうなんですよ、兄さん!新しい事件です!」
そう叫ぶと雷鼓は新聞を広げて、その記事を指差す。
そこには【辻斬り事件!犯人は白玉楼の庭師か!?】と言う見出しがあった。
白玉楼の庭師となると妖夢が疑われている訳か。
妖夢とは俺の剣の師にして戦友の魂魄妖忌の孫である。
妖夢は根が真面目な方だ。
ただ、妖夢は魂魄家の流派故によく勘違いされ易いんだよな。
まあ、魂魄家の流派は斬って解るとか言う物騒なもんだから、勘違いされても仕方がないんだが……。
「妖夢が辻斬りねえ。また何か誤解か何かされたんだろう?」
「兄さんなら、妖夢さんにも勝てるでしょう。さっさと倒しちゃいましょう」
「……お前、人の話聞いていたか?」
俺は呆れながら、そう告げると冥界にある白玉楼へと向かう。
「妖夢が剣で負けた?」
中有の道を通り、冥界にある白玉楼を訪れた俺は白玉楼の主である西行寺幽々子から聞いた言葉に再度問い掛けた。
「ええ。しかも、ただ負けただけじゃなくて楼観剣まで盗られちゃったらしくてね?」
「そりゃあ、ただ事じゃないな」
「そうね。確かにこれは一大事よ」
ーーとか言いつつ、幽々子は楽しげに微笑み、青い着物から扇子を取り出し、パタパタと扇ぐ。
「その妖夢は無事なのか?」
「峰打ちだったらしいから、大丈夫よ。
ただ、楼観剣を奪われて、かなり落ち込んでしまってね?」
「まあ、当然っちゃあ、当然か……」
俺は溜め息を吐くと胡座を掻いて座っていた座布団から立ち上がり、妖夢の様子を見に向かう。
すると妖夢は白い死装束で切腹しようとしていた。
ーー白楼剣で。
「何してんだ、お前?」
「止めないで下さい、ムラマサ様!
楼観剣を奪われるなんて失態を犯した私は死んで償う他ないんです!」
「いや、お前、そもそも、半分死んでいる様なモンだろう?
それに白楼剣は迷いを断つ刀であって身を斬る為の物じゃない筈だが?」
「……いや、本当にいざ、切腹ってなると怖くなっちゃって」
「そらそうだ、阿呆」
俺はそう言うと妖夢に近付き、分身体である刀を手にして振り上げる。
「……あの、何を?」
「何って介錯に決まってんだろ?」
「いやいや!止めて下さいよ!」
妖夢はあわてふためきながら叫び、俺からバッと離れる。
「なんだよ?まだ元気があるじゃねえか?」
俺はそう言ってニヤリと笑うと構えを時、分身体を消す。
「ーーんで、何があった?」
「それがよく解らないんです」
「解らない?」
俺の問いに妖夢はショボくれた顔で頷く。
「いきなり、戦いを求められて、否応なしに襲われた感じです」
「つまり、奇襲を受けたのか?」
「そうなります。私は荷物を抱えていたんで対応が遅れて……それで……」
妖夢はそう言うと悔し涙を浮かべる。
そんな妖夢の頭を俺は撫でた。
「そう言う事なら仕方ねえよ」
「……ひっく……でも、私、大事な楼観剣を……」
「なら、取り返しに行くぞ」
「え?」
涙を拭っていた妖夢は顔を上げ、俺を見る。
俺はそんな妖夢の額にチョップした。
「みょん!?」
「剣で負けた訳じゃねえんだろ?
なら、次は正々堂々、戦えば良いじゃねえか?」
「で、でも、突発過ぎて、どんな人に奪われたか……」
「お前が覚えてなくても、俺達なら解る。
なんてったって、幻想郷の守護者は何処にでもいるからな?」
俺はそう告げると妖夢と共に襲われた場所へと向かった。