絆【ニ】
数刻後。俺は風見幽香の元を訪れた。
「来たわね、ムラマサ」
風見幽香はそう呟くと太い草の根で拘束した雷鼓に視線を移す。
そう。今回の件は風見幽香が主犯なのだ。
「・・・雷鼓は無事なのか?」
「ええ。勿論、見ての通りよ」
「狙いはなんだ?」
俺がそう問うと風見幽香はうっすらと笑いながら、気を失っている雷鼓の頬を撫でる。
「前に言ったでしょう?彼女は貴方の弱点だと・・・それの確認と云ったところかしら?」
風見幽香はそう呟くと改めて俺に視線を戻す。
そして、マジマジと俺を観察した。
「来たって事は貴方は多くの者と同じ道を歩む事を決めたようね?」
「そうなるな」
「つまり、貴方は使命より大切なモノを取った」
そう告げると風見幽香は雷鼓を植物の拘束から解放し、ぐったりとする雷鼓をその腕で支える。
「それでいいわ。それが彼女と貴方の為の選択よ」
そう告げた瞬間、俺と幽香の周囲に妖怪達が集まる。
風見幽香はそいつらを冷ややかに見据えると静かに尋ねた。
「貴方達。なんの真似かしら?」
「大した事はありませんよ、幽香様ーーいや、風見幽香」
周囲の妖怪を代表して一匹の妖怪がそう告げると風見幽香は目を細め、傘をそいつに向けた。
「おっと、俺を攻撃するって事はあんたの大切なモノを失うって事だぜ?」
「私の花を荒らすと言うのなら、消し炭も残さないわよ?」
「勘違いしないでくれよ?
俺の言っているのはそれよりももっと、大切なモノさ?」
その言葉に風見幽香は動きを止める。
その瞳には静かな怒りが籠められていた。
「貴方達、まさか・・・」
「花の大妖怪も随分と優しくなったもんだぜ。
まさか、寺子屋の子供や妖精共に感情を向けるようになるなんてな?」
雑魚妖怪の代表はそう呟くと下衆な笑みを浮かべる。
「解ったら、その物騒な傘を下ろして、その女を此方に渡してくれないか?
そうすれば、あんたには何もしないさ。今はだけどな?」
「雑魚がいい気になってーー」
「俺達、雑魚妖怪もただで消えたくはねえんだよ。
大妖怪を倒したとあれば、俺達も実体化したままでいられるし、より畏怖を糧に出来る。まあ、悪く思わないでくれ」
風見幽香は怒りを抑えながら、ゆっくりと傘を下ろすとゆっくりとその妖怪に歩いていく。
その瞬間、動いたのは俺である。
俺は分身体である自身の刀を型どった妖気を射出するとその妖怪を針鼠にして貫く。
「例え、世の人が科学に盲信しようとに忘れるな。心せよ。そこに真実はない」
俺のその言葉を合図に周囲に闇が広がる。
異変に気付いた雑魚妖怪達が風見幽香の手から離れた雷鼓に襲いかかろうとする。
そんな妖怪達が一人、また一人と消えていく。
「例え、世の人が常識や道徳に縛られようとも忘れるな。心せよ。赦されぬ事はない」
俺がそう告げると闇の中からその闇に溶けるように漆黒の外套を纏い、ゆっくりと同胞達が現れる。
「・・・貴方、辞めたんじゃないの?」
「誰も辞めたとは言ってないぞ、風見幽香」
俺は風見幽香にそう言って返すと風見幽香も笑う。
「・・・そう。それが貴方のーーいえ、貴方達の導き出した答えなのね?」
「ああ。八雲紫が改めて、俺に教えてくれた。
俺達、幻想郷の守護者は一人ではないとな?」
俺は風見幽香にそう答えながら雷鼓に近付き、その身体を抱き抱える。
「使命も果たす。大切なモノも守る。足りないモノは仲間が補う。
それが俺の導き出した答えだ、風見幽香」
「・・・それが貴方の答えであり、絆なのね?」
「そういう事だ。だが、それに対して物思いに耽るのはまだ早いぞ、風見幽香。
次はお前の大切なモノを守りに行くんだからな?」
俺がそう言うと風見幽香は微笑んだまま、俺達と共にスキマへと入る。
かくして、妖怪の暗躍は誰に知られる事なく、終わりを迎えるのだった。




