ムラマサの抱負
幻想郷は一部を除けば、縦社会と言うものがない。
だが、酒の席となるとまた話が別になって来る。
つまり、何が起こるかって言うとーー
「……ずびまぜん……もう飲めません……うぷっ」
「だらしないねえ。天狗の意地ってのはそんなもんかい?」
「なあ、勇儀よ。口から飲めないなら、別の穴から入れたらどうだ?」
「ひぐっ!?それだけはご勘弁を!?」
「なら、死ぬ気で付き合いな」
ーーと、まあ、強者によるアルコールハラスメントが勃発していた。
外の世界じゃあ、禁止されているらしいが、幻想郷にそんな常識は通用しない。
まあ、妖怪の山で普段、ふんぞり返っている天狗ーー射命丸文には気の毒だが、幻想郷は全てを受け入れる場所だ。
泣きながら酒を飲んでいるが、日頃の行いが悪かったって事にして置こう。
こう言う時に限って華扇がいないが、あいつはあいつなりの理由があるからな。
まあ、仕方がない。
ーーとは言え、大晦日から元旦まで飲み明かすこいつらを何とかせにゃな?
だが、しかし、今年の霊夢は昨日のやけ酒で既に撃沈している。
残りは鬼と吸血鬼、魔理沙などのメンバーくらいだ。
やれやれ、今年も慌ただしい一年になりそうだ。
俺はそう思いつつ、頭を押さえる霊夢に近付く。
「おい、大丈夫か、霊夢?」
「見て解るでしょ?……悪酔いして気分が悪いの」
「まあ、それでも参拝客に礼を忘れぬ辺り、流石だが、そろそろお開きにしたら、どうだ?」
「そうね。こう言う時にあの仕切り屋がいると安心なんだけどね?」
「まあ、華扇の事情は知ってるだろ?
あんまり、あいつにばかり頼るなよ?」
「解っているわよ」
霊夢はそう言うと昨日から宴会をして馬鹿騒ぎする奴らに歩いて行き、手をパンパンと叩く。
因みにこの宴会の様子は里の人間も見ているが、まあ、今更の事じゃないからな?
俺は溜め息を吐くと宴会の終了と同時に後片付けを手伝う。
その後、鬼の帰ったのを確認して華扇が博麗神社へとやって来る。
まあ、世は常に事もなしって所だ。
ーー問題はその後だ。
俺は黒い外套に身を包み、フードを目深く被って再び再思の道を通り、無縁塚へと来る。
やる事は幻想郷の守護者ーー髙麗野あうんの紹介と掟の復唱などである。
この時ばかりは無縁塚も静かにとは言え、賑わう。
静かなる宴が終わり、俺は髙麗野あうんと共に来た道を戻る。
「ムラマサ様。幻想郷の守護者と言う方達も優しい方達が多くて良かったです」
「ん。そうか」
「私も幻想郷の守護者として早く一人前になります!」
「そいつは頼もしいな。期待しないで待っててやる」
「もう!ムラマサ様の意地悪!」
俺とあうんはそんな話をしながら、再思の道を歩く。
そんなあうんに俺は問う。
「お前、守護者となった自覚はあるんだろうな?」
「勿論です!」
「なら、守護者の決まり事について復唱して見ろ」
「えっと……幻想郷の守護者には三つの掟があります。
一つは人と妖怪の調和を重んじる事。
一つは同胞を危険な目に合わせない事。
一つは博麗の巫女に手を出さない事」
なんだ。思ったよりも解っているじゃないか……少し安心した。
俺はあうんに頷く。
「正解だ。見習いとしては、まあまあだな」
「ありがとうございます!
いつか、一人前の幻想郷の守護者になって見せます!」
「なら、もう少し表に出るのを控えろーーと言っても、もう遅いがな?
お前は名が売れ過ぎだ。一人前の幻想郷の守護者になるのなら廃れてから身を潜め、息を殺し、影から見守れる様になってからだな?」
「気が遠くなりそうですが、頑張ります」
本当に頼もしいな。
その内、俺の後でも継いで貰うか……。
まあ、その時は幻想郷の情勢も変わっているだろうから、どうなるかは解らんがな。
そんな事を考えながら博麗神社へと戻ると俺達は元の生活に戻る。
俺は人間の里を巡回すると雷鼓と会う。
「今年も宜しくお願いしますね、ムラマサの兄さん!」
「ん?ああ。良い年をな、雷鼓?」
俺は雷鼓にそう告げると雷鼓はふと、ある事に気付く。
「私のマフラー、使ってくれてるんですね?……嬉しいです」
「ああ。無いよりはマシかと思ってな?」
俺がそう告げると雷鼓は嬉しそうに俺の前に来ると此方の顔を覗き込む。
「その内、私でいっぱいにして上げますよ。
今のお仕事が嫌になるくらい」
「面白い事を言うな。まあ、期待せず、待っててやる」
俺はあうんに言った台詞と同じ言葉を紡ぐと再び巡回を開始した。
今年も慌ただしかった正月だったが、良い年となるだろうか?
しかし、今年の俺の抱負は「期待せずに待つ」になりそうだ。
今年も良い一年になるように……。




