忘年会に守護者ひとり
幻想郷ってのは祭り事が好きな連中が多い。
それは人間でも妖怪でもーー更には神でさえも変わらないらしい。
ーーてな訳で俺は博麗神社へと来ていた。
飲食出来ない俺が来るのは場違いな気がするが、まあ、俺は単なる馬鹿騒ぎし過ぎた奴を止める役だ。
特にこれと言って問題ない。
忘年会が開催されると皆、ここぞとばかりに熱燗やら鍋をつついて楽しげにしている。
異変が終わる度に参加する奴等が増えていく気がするな。
まあ、別に俺には関係ないが……。
ーーそんな事を考えていると神社の宴会の片隅で逢い引きしている奴等に気付く。
正確には二人共、女だから女色か……。
「君のその欲はまさにそのドラムの様に激しくも心に響く情熱的なものだ。
良かったら、意中の相手を仕留める秘術を教えようじゃないか?」
「え?あ、いや、遠慮します」
「まあ、そう言わずにちょっと話だけでもーー」
「おい」
俺はその二人に声を掛けると一人は雷鼓だった。
雷鼓は俺に気付くとそそくさと俺の後ろに隠れる。
「助けて下さい、兄さん。新手の軟派らしくて」
「その様だな?」
俺は雷鼓に頷くとその人物を見る。
その人物は獣耳と間違う髪をして本来ある耳にヘッドフォンをしていた。
「おや?なんだい、君は?」
「お前みたいな輩が厄介な事をしない様にする用心棒みたいなもんだよ」
「ふむ。君からは平穏を望む欲が聴こえるね?
そして、彼女の意中の人か……成る程」
そいつは一人で納得すると紫のマントを翻す。
「私の名は豊聡耳神子。しがない尸解仙さ」
「豊聡耳……聞いた事があるな。
確か、幻想郷でハーレム作ろうとしている奴の名前がそんな名前だったか……」
「どうして、そんな内容になっているのか知らないけど、間違いだからね、それ?
私は美しい者を愛でてるだけだから」
「つまり、両刀使いか、成る程」
「違うって言っているでしょ?
ねえ、人の話を聞いて?」
警戒する俺達に豊聡耳神子と名乗る奴はショックだったのか、獣耳をした髪が萎れる。
……萎れるのか、あの髪?
「まーた軟派ですか、太子様?
程々にして下さいよ?」
「屠自古よ。太子様がその様な事をする筈なかろう。
きっと、何かお考えがあるに違いない」
そんな事をしていると緑の袖つきのワンピースを着た女の霊と白い和装にミニスカートの女がやって来る。
どうやら、豊聡耳の仲間らしい。
「あーっと、あんた等が誰か知らないけど、うちの太子が邪魔したな?」
「……お前は?」
「私は蘇我屠自古。
ついでにこっちが物部布都だ」
「ん?我、ついでなの?
ねえ、屠自古。我、ついでなの?」
なんだ、こいつら?
新手の幻想入りした奴等なのか?
……ん?ちょっと待てよ?
こいつらとは前に何処かで会わなかったか?
いや、まあ、良いか。
それよりもこの茶番を終わらせるのが先か……。
俺は頭を左右に振って邪念を払うと豊聡耳達と距離を取る。
そんな俺を見て、屠自古と名乗る女が溜め息を吐く。
「あー。そんな警戒すんな。
此処で何か悪さしよって訳じゃないからな」
そう言うと屠自古は豊聡耳のマントの襟首を掴んで引っ張る。
「行きますよ、太子様」
「ちょっーー屠自古さん。決まってます。
マントが首に食い込んで決まってますから」
「あー。そうですか」
「あれ?ちょっと?屠自古さん?
もしかして、怒ってらっしゃる?」
そんな事を言いながら豊聡耳達が去って行くと俺は雷鼓に振り返り、その頭を撫でる。
「気を付けろよ、雷鼓?
幻想郷には色んな奴がいるからな?」
「……解ってますよ。ただ、ちょっと今回は相手が悪かっただけです」
「そうか」
俺は雷鼓にそれだけ言って頷くと雷鼓から離れる。
俺との子供の一件以来、雷鼓とは少しギクシャクしてたと思っていたが、俺の思い過ごしだったのか?
そんな事を考えていると俺達の前に鳥獣伎楽の二人がやって来る。
「雷鼓さん、探しましたよ?」
「今日もいっぱい歌いますよー♪」
「はいはい。今から行きますよー」
雷鼓はそう言って二人に微笑むと俺に背中を向けて去って行く。
俺はそれを見送ってから、踵を返して役目を果たす為に周囲を警戒する。
「相変わらず、やっているね?」
その言葉に振り返ると奴がいた。
「お蔭さんでな?
まあ、色々とあるが、それなりに楽しんでいるぞ?」
「それはムラマサーー君の事かい?」
「まあ、俺も含めてだ。さっさと行って、紅魔館の門番を喜ばせてやれ」
俺はそう言うと奴は頷いて自身の女の元へと向かう。
俺はそれを見送ってから独り、月を眺めた。
本当に今年も色々あったもんだ。
来年はどんな年になるだろうな?




