【クリスマス企画】サンタクロースの幻想入り
俺がいつもの様に深夜の里を巡回しているとシャンシャンシャンと幻想郷でも珍しい鈴の音が聞こえた。
音の出どころを探しに里を駆け回るが、一向に見付かる気配がない。
普段なら気配などで察知出来るのだが、相手は巧妙に俺にすら悟られぬ様に行動しているらしい。
ーーと頭上を見ると見慣れぬ乗り物を鹿らしき動物を引かせ、大量の荷物の入った白い袋を背負う赤と白を強調した髭面の老人が飛んで行くのが見えた。
新手の人妖か、それとも泥棒か?
そんな事を考えているとレティ・ホワイトロックと遭遇する。
「あら、ムラマサさん♪メリークリスマス♪」
「クリスマス?」
レティが聞き慣れぬ言葉で挨拶して来たので俺が首を捻るとレティは笑う。
「まあ、幻想郷じゃ、聞き慣れないわよね。
クリスマスはとある聖人の誕生祝いの事よ。
そして、その日にだけ、さっきのおじいさんーーサンタクロースがやって来て、貧しい子供や清い心の子供にプレゼントを配るの」
「随分と気前の良い奴だな?
そんな奴が何故、幻想郷に?」
「風習が忘れ去られているからよ。
サンタクロースのいるクリスマスを知る人が少なくなったからかしらね?」
俺はそんなレティの言葉を聞き、ある程度、納得する。
しかし、解らん事もある。
「何故、お前がサンタクロースとやらについて詳しいんだ?
何処かで聞いたのか、その前兆でもあったのか?」
「ふふっ。乙女は秘密が多いのよ?
まあ、人妖に無害な方ですから大丈夫でしょう」
レティはそう言うとフワリと宙へと舞い上がる。
「それじゃあね、ムラマサさん。
良い聖夜を過ごしてね?」
レティはそう告げるとサンタクロースと共に山の向こうへと消える。
俺はそれを見送ってから、再び人間の里の巡回に戻る。
次の日、人間の里ではちょっとした騒ぎになった。
まあ、当然と言えば、当然だ。
だが、それ以上に子供達がおおはしゃぎしている。
そんな里の人間達に守矢神社の巫女である東風谷早苗がサンタクロースについて語っていた。
因みに幻想郷に来た守矢神社の奴等は俺達、幻想郷の守護者の事を知らない。
当然、俺の事も詳しく知ってる筈もない。
「よう。守矢の巫女」
「あ、いつも、里を歩き回っている浮浪者さん。
何度も言いますが、私は風祝と言う神職です」
「似たようなもんだろ?
それよりもサンタクロースについて語っていたな?」
俺がそう問うと東風谷早苗は嬉しそうに頷く。
「そうなんですよ!あのサンタさんですよ!サンタさん!」
「はしゃいでいるが、大丈夫なのか?
又聞きだが、サンタクロースってのは聖人の誕生祝いに現れるんだろ?」
「えっ!?そうなんですか!?」
いや、何故、肝心の部分を知らないんだよ?
「あれ?ムラマサさんじゃん?」
そんな事を思っていると後ろから菫子に話し掛けられた。
「ああ。菫子か。お前もサンタクロースってのについて知ってるか?」
「サンタコスってのは知ってますが、サンタクロースについてはあんまり」
どうやら、現代になればなる程、サンタクロースについて知る者は少ないらしい。
これはあんまり、情報の収集は期待出来そうにないな。
再度、思案していると誰かを探している雷鼓と目が合う。
「ムラマサの兄さん!」
「どうした、雷鼓?何か用か?」
俺が駆け寄って来た雷鼓に尋ねると雷鼓は恥ずかしそうに黒いマフラーを差し出す。
「なんだ?これは?」
「わ、私からのクリスマスプレゼントです!どうか、受け取って下さい!」
「ん?ああ」
俺がマフラーを受け取ると菫子がジト目で此方を見て「リア充爆発しろ」と呟く。
まあ、よくは解らんが、クリスマスってのはプレゼント関連の行事らしい。
これ以上の収穫はなさそうだし、この件は早々に打ち切られる。
それ以降、師走のこの日の深夜にはサンタクロースがやって来る様になった。
まあ、特に問題を起こす訳でもないし、良しとするか……。




