【冬の特別企画】交じり合う物語【五】
俺は星熊の攻撃を回避しながら刀を振り下ろす。
星熊はそれを片腕で防ぐと蹴りを見舞おうとして来る。
俺は更に反転しながら送り足で避けると星熊の背中を斬る。
だが、全てかすり傷程度の物だ。
それでも、鬼の四天王を相手にするには善戦している様なものだ。
「私に手傷を負わせるなんて、やるじゃないか!
だが、本気で来ないと死ぬよ、ムラマサ!」
「だから、人の話を聞けって言ってるだろうが……」
俺は間合いを取りながら、星熊と向かい合う。
ーーやはり、鬼の首を取るには俺も全力を出さねば、ならないか?
そう考えていると此方を間近で見ている視線に気付く。
横に視線をずらすと古明地こいしの顔が間近にあった。
無意識を司る能力故に相変わらず、神出鬼没だな。
「……何の用だ、古明地こいし」
「なんで、ムラマサと勇儀姉さんが戦っているのかと思って。
ムラマサは風魔を送り返す為に追い掛けているんでしょう?」
「見てたのか、お前?」
そう問いながら俺が溜め息を吐くと星熊も拳を下ろし、額に手を当てる。
「あーっと、ちょっと待てよ?
ムラマサは風魔の為に追い掛けているんだろ?
なら、なんで、風魔はそれを知らないんだい?」
「まあ、ちょっとした情報の行き違いでな?」
「そうかい。疑って悪かったね?」
「いや、俺も疑われる様な真似をしたからな」
俺はそう言うと分身体である刀を消し、星熊を見据える。
「それじゃあ、俺は風魔を追わせて貰うぞ」
そう言って俺が星熊の横を過ぎようとすると星熊が俺の肩を掴む。
「あんた一人が行ったって、また誤解されるだけだろ?……私もついて行くよ」
「……確かにそうだな。それじゃあ、頼む。お前もそれでーー」
そこまで言い掛けて、振り返ると古明地こいしの姿は既になかった。
本当に相変わらず、無意識故に自由な奴だ。
俺はもう一度、溜め息を吐くと旧地獄街道の奥を目指す。
ーーー
ーー
ー
風魔は疲弊した足取りで奥へ奥へと進む。
すると白いマントに黒い翼、胸に赤い宝玉の様な目を持つ黒いロングヘアーの少女と出会う。
「うにゅ?お兄さん、どうしたの?」
「……今日は色々と女の子に遭遇する日だな。厄日か役得か?」
風魔は溜め息を吐くと脇腹を押さえて膝をつく。
「お兄さん、怪我してるじゃない!
地霊殿で手当てして上げるから掴まって!」
「ははっ。この幻想郷は地底が一番懐が広いな」
風魔は苦笑しながら黒髪の少女に肩を貸して貰い、地底で一番大きな建物の中へと入る。
「さとり様!急患です!さとり様!」
「あら、お空。どうしたの?」
「あ、お燐!」
お空と呼ばれた黒髪の少女はお燐と呼ばれた猫耳と尖った耳のある赤毛の少女を見る。
「怪我人だよ!早く手当てしなきゃ、死んじゃう!」
「いや、死ぬ程では……」
「うにゅ?そうなの?」
「まあ、打撲だし」
「なんだ。打撲か……」
風魔が笑って答えるとお空もにぱっと笑う。
そんなお空にお燐は溜め息を吐くと彼女に問う。
「ーーで、お空。その人はなんなの?」
「え?えっと……なんだっけ?」
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。
俺は風魔。しがないトレジャーハンターさ」
「おおっ!なんか、格好良い!」
「騒々しいですね。どうしたのですか?」
お空が風魔の言葉に興奮していると桃色のショートヘアーの少女が階段から降りて来る。
その胸には丸い目が存在し、そこから触手の様な物が体を巡っている。
「貴方は……風魔さんですか。
私は古明地さとり。
この地霊殿の主です。
ああ。いえ、この子達の声が聞こえたからではなく、私はこのサードアイで心を見る事が出来るのです」
一気にまくし立てられ、風魔は若干困惑しながら、さとりを見る。
そんな風魔の心を見透かす様にさとりは続けた。
「まあ、混乱するのも無理はないでしょう。
しかし、成る程。ムラマサさんに文さん、常闇の妖怪に襲われて、此処へ逃げて来たんですね?
ですが、此処は貴方が思っている程、優しい所ではないですよ?
あ、いえ、私達は危害を加える訳ではありませんので御安心を。
まあ、温泉にでも浸かって疲れを癒して下さい」
さとりは風魔に一言も喋らせずにそう言うとお空を見る。
「お空。風魔さんを温泉まで、お連れして上げて」
「解りました、さとり様!」
さとりの言葉にお空は元気良く頷くと風魔を連れて、旧地獄街道の温泉へと向かう。
そんな風魔が去るのを見送ってから、さとりは一人、考え込む。
「文さんや常闇の妖怪は良いとして、ムラマサさんのはどうやら、誤解がある様ですね。
それにしても、神統暦ですか……面白い世界から来た方ですね?」
そんな事を呟いていると扉がノックされる。
「噂をすれば、なんとやらですね?」
さとりは一人、静かに笑うと来客を迎え入れた。




