【冬の特別企画】交じり合う物語【四】
風魔は地底の旧地獄街道へと逃げ込み、一息吐く。
「……もう追って来ないよな?」
風魔は疲れ切った声でボソリと呟く。
強化魔法が使えると言っても風魔は本来、魔法使いではない。
故に連続で瞬撃の型を使えば、魔力の回復にインターバルも起こり、疲労も蓄積される。
「ああ。マジで疲れる。そもそも、なんなんだ、この幻想郷ってのは?」
風魔は独り呟くと周囲を見る。
音速を超える逃げ足で此処まで来たが、此処も何やら人ならざる者の気配を風魔はヒシヒシと感じていた。
ーーと、前から誰かがやって来る。
その姿は額に星のマークを生やし、体操着にロングスカートの女性であった。
「おや、珍しいね?
人間がやって来るなんてのはいつ以来だろうね?」
「……此処へ来て、前から話掛けられたのは貴女が初めてだ」
「鬼は正直だからね」
「ジャパニーズオーガって奴か……」
「うん?あんた、外来人かい?」
その言葉に風魔はうんざりした表情をサングラス越しにする。
そんな風魔に鬼は笑う。
「その表情からするにろくな目に合ってないんだね?
此処は旧地獄街道。まあ、地底の楽園で嫌われ者の溜まり場って所さ」
そう告げると鬼は持っていた杯を差し出す。
「私は星熊勇儀。
まあ、宜しくな。幻想郷の新しい嫌われ者さんよ」
「風魔です。後、薬の関係上、酒は呑めないんで」
「私の酒が呑めないって言うのかい?」
「申し訳ないですが」
風魔が酒の誘いを断ると勇儀は愉快げに笑う。
「私の酒を拒んだ奴は数える程しかいないよ!
あんた、なかなか肝が座っているね!」
そう言うと勇儀を足を踏み鳴らし、周囲の建物を倒壊させる。
その気配の圧迫感に風魔は溜め息を吐く。
「ただ、私の誘いを断るなんてのは得策じゃないね?
鬼は正直者だが、喧嘩は大好きでね?」
「結局、こうなるのか……」
風魔は深呼吸して笑っている膝をパンと叩く。
「やる気になってくれた様で何よりだ。
それじゃあ、早速……ん?」
そこまで言い掛けて、勇儀は風魔の脇腹の怪我に気付く。
「あんた、怪我してんのかい?」
「ん?ああ。文って天狗から逃げる時にちょっと……」
「ほう。訳ありみたいだが、天狗に足で勝ったのかい?そりゃあ、凄いね?」
そう告げると勇儀は風魔に背を向ける。
「やめた。怪我人を相手するなんて面白くないし、山の四天王の名が廃る。
ましてや、天狗を上回る速さを持つ貴重な人間だ。私も興味があるしね?」
「そうですか。助かります」
風魔は安堵の息を吐くと腰を下ろす。
そんな風魔に勇儀は笑いながら振り返った。
「そんな所で休んでたら余計、狙われるよ?」
「いや、流石に走りっぱなしで疲れちゃいましてね?」
「仕方ないね?」
勇儀はしゃがみ込む風魔に肩を貸すと地霊殿を目指して歩く。
ーーと、二人は背後に落下した人妖に振り返る。
「やっと見つけたぞ、風魔」
「げっ!?まだ追って来るのか、あんた!?」
「それが俺の役目だからな」
「なんだ。追っ手って天狗だけじゃなくて、あんたもなのかい、ムラマサ?」
二人のやり取りに勇儀はそう問うと風魔が頷く。
「ええ。何故か目の敵にされてましてね?」
「待て。あれには誤解があってーー」
「言い訳とは見苦しいね、ムラマサ?」
次の瞬間、勇儀が踏み込んでムラマサに襲い掛かり、ムラマサが後方に跳ぶ。
先程までムラマサのいた場所の岩盤が砕け、勇儀がゆっくりとムラマサを睨む。
「風魔って言ったね?……此処は私に任せて行きな」
「……良いんですか?」
「ああ。せめて、私くらいはあんたの味方をしてやるさ」
「ーーっ!恩に切ります!」
風魔はそう言うとサムズアップする勇儀に礼を言って、奥へと逃げて行く。
「待て!話をーー」
「見苦しいつってんだろ、ムラマサ!
そんなに追いたきゃ、私を倒して行きな!」
「くっ!……流石に星熊相手には分が悪いな」
「あんたの大好きな仕合だ!
存分に楽しもうじゃないか!」
ーーこうして、勇儀は真相を知る事もなく、何故、追われているかも解らぬ風魔の為に戦うのだった。




