【冬の特別企画】交じり合う物語【三】
「此処まで来れば、大丈夫か?」
風魔は再度荒くなった呼吸を整えると周囲を見渡す。
「妙な気分だな。何処からか視線を感じる」
「そうでしょうとも。貴方は既に見張られているんですから」
独り言として呟いた声に背後から反応があり、風魔は溜め息を吐いて振り返る。
するとそこにはレトロなカメラを手にする黒い翼を生やした黒髪の少女がいた。
「……これで三回目だ。幻想郷ってのは背後から声を掛けるのが習慣なのか?」
「さあ、どうでしょうねえ、風魔さん?」
その言葉に風魔はサングラスの下で眉を潜め、その少女を見据える。
「何故、俺の名を?あのムラマサって奴から聞いたにしては早過ぎるな?」
「ええ。私は貴方を知ってますとも。
何せ、私は貴方と一度、お会いしてますから」
「……記憶にないな」
「貴方はなくとも、この射命丸文!
天狗の誇りに掛けて、貴方を倒します!」
文が叫んだ瞬間、突風が風魔を襲う。
風魔は右腕で顔を庇いながら、嫌な予感を感じて左に避ける。
その瞬間、文の蹴りが通過する。
「なかなか、勘が良いですね?
あれは使わないんですか?」
あれとは何の事か考え、風魔は瞬撃の型の事かと察する。
そんな風魔に文はニヤリと笑った。
「よく解りませんが、どうやら、使えないみたいですね?
なら、天狗に泥を塗った事を嫌と言う程、後悔させて上げましょう!」
そう言われて、風魔は懐から一対のガンブレードを手にする。
「女性に手を出すのは不本意なんだがな?」
「人をポイ捨てして、どの口が言いますか?」
「さっきから君は何の事を言っているんだ?」
「本当に覚えがないですか……どうやら、別世界のお方の様ですね?」
文はそう言うと更に笑みを強め、煙の様に消える。
次の瞬間、風魔は身体を反らして、文の一撃を避けた。
文は土煙を上げながら急ブレーキを掛けると再び消えるーー否、消えたかの様に縦横無尽に風魔の周囲を飛び交う。
「また外しましたか?
ですが、いつまで避けられますかね?」
「……普通はこう言う場合、見逃してくれるんじゃないのか?」
「そんな訳ないでしょう?
天狗が速さで人間に負けたんですから?」
「天狗の誇りってのも厄介なもんだね?」
風魔は文の攻撃を避けながら、再び溜め息を吐く。
文は文で速さに固執するあまり、肉弾戦で風魔に勝とうとしている。
「全然当たりませんね?
まさか、見えているんですか?」
「さて、ね?」
風魔は文の攻撃を最小限の動きで避けながら、後方に徐々に後退り、最終的に生い茂った木の一本に背中を預ける。
その好機を文は見逃す訳がない。
「貰いましたよ!」
そう言ってジグザグに木を避けながら風魔に迫る文。
そんな文を目で追いながら、風魔は背中を預ける木にガンブレードを向ける。
「バーストバレット」
次の瞬間、ガンブレードから発射された弾丸が木に着弾して爆発した。
当然、風魔も無事では済まず、上空へと吹き飛ばされた。
その風魔の取った行動に当然、文も混乱して動きを止める。
それこそが風魔の狙いだった。
風魔は空中で器用に身を翻すと文の肩を蹴って、その後方に降り立つ。
「わ、私を踏み台にした!」
「悪いが、時間切れだ」
そう言うと風魔は文を一瞥して不敵に笑う。
「我は魔を払う風なり」
そう呟くと風魔は再び瞬撃の型を使って、その場を離れようとする。
「ま、待ちなさい!逃げるなんて卑怯ですよ!」
そう言って、文は風魔の後を追う。
ーーー
ーー
ー
十分後、その二人が去った後にムラマサが到着する。
ムラマサは炸裂した木や交戦した後を観察すると自身を見ているであろう犬走椛の方を向く。
椛もそれが解っているのか、すぐにムラマサの前に降り立って彼に一礼する。
「椛よ。俺の言いたい事は解っているな?」
「はい。此処で風魔と言う方らしき人と文さんが戦ってました」
「……なんで、風魔の事を知っているんだ?」
「なんでも、一度、そう名乗る傀儡に煮え湯を飲まされたんだとかで伺ってます。
確か、紅魔館がどうとか言ってた筈ですね」
「そうか。それで風魔と文はどっちへ行ったんだ?」
その言葉に椛は二人の駆け出して行った方を指差した。
「文さんは途中で風魔さんを見失った様ですが、私の千里眼で見た所、風魔さんは旧地獄街道へ逃げた様ですね」
「よりにもよって、地底か……つくづく、世話の焼ける奴だ」
ムラマサは溜め息を吐くと椛に礼を告げて、風魔を追う為にそちらへと駆け出す。
文が風魔に固執する理由は陰猫(改)、紅魔館へ短期バイトをしますを参照して下さい
( *・ω・)ノ




