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裏・神隠し【二】

 俺は階段を登り、霊夢のいる博麗神社へと足を踏み入れる。

 境内に入ると大きな赤いリボンを頭に着けて箒で落ち葉を集める霊夢の姿があった。

「よう」

「あら……えっと……」

 俺が手を上げて軽く挨拶すると霊夢は眉間に指を当てて唸る。

「ムラマサだ。いい加減、人の名前位は覚えろよ」

「その前にあんた、人間じゃないでしょう?

 妖怪である以上、私にはあんたを覚えてやる義理はないわ。ノーカンよ」

「そう言うな。俺はお前の母親にあたる先代の博麗の巫女と共に戦った仲なんだ。

 もう少し配慮して貰ってもバチは当たらんだろ?」

「嫌よ。面倒臭い」

 バッサリ言いやがったな、こいつ。

 まあ、良いか。そんな事より今は雷鼓とツトムだ。

 俺はそう判断すると霊夢に尋ねた。

「外来人と付喪神が消えた。これをどう思う?」

 俺の問いに霊夢の表情が真剣なものへと変わる。

「詳しく話しなさい」

「俺もまだ解らんのだが、その外来人は人間の里で血塗れになって死んでいたーーが、生きている」

「はあ?どう言う事よ?

 妖怪が化けてるとかではなくて?」

「それを確認したいから、此処まで来たんだ。どうせ、暇だろう?」

 俺がそう尋ねると霊夢が不機嫌そうな顔をする。


 いかんな。今のは失言だったか?


「生憎、私は忙しいの。華仙かせんの奴とか萃香すいかとか魔理沙まりさとかの相手でね?」

「そうか。なら、他を当たろう」

「ちょっーーちょっと待ちなさいよ!なんで、そうなるの!?」

「ん?お前の事だから、今回の件は断るかと思ったんだが?」

「確かに思ったけど、誰もやらないとは言ってないわ!仮にも私は博麗の巫女よ!」

 霊夢はそう叫ぶと俺に箒を押し付ける。

「ーーと言う訳で掃除の続きをお願いね?」


 ーーああ。成る程な。


 恐らく、霊夢は華仙にこれも修行と言われて嫌々、掃除してたんだろう。そこに俺が事件を持って来たんだ。

 掃除をサボる大義名分が出来たって訳か……。


 俺は溜め息を吐いて霊夢から箒を受け取ろうとする。

「その必要はありませんよー」

 その言葉に振り返ると消えた筈の雷鼓がいた。

「……雷鼓か?」

「はい。正真正銘の堀川雷鼓ですよ、ムラマサの兄さん」

「ちょっと消えたのって、こいつ?」

「ん?ああ」

「何よ。あんたの見間違えだったんじゃないの」

 霊夢はそう言うと此方に背を向けて、愚痴をこぼしながら掃除を再開する。

 俺はもう一度、溜め息を吐くと雷鼓に尋ねた。

「ーーで、何があった?」

「私にも何がなんだか。ただ言える事は私、外にいたみたいで」

「外?まさか、外の世界か?」

 俺の問いに雷鼓は頷き、潤んだ瞳で俺に抱き着いて来る。

「それよりも、あの子を助けて上げて下さい、兄さん!」

「待て待て。落ち着け、雷鼓。話が見えん」

「お願いします!このままだと、あの子、また殺されちゃいます!」

「? どう言う意味だ?ーーと言うか、またってのは?」

 俺は首を捻り、霊夢も異様な事態だと言う事を悟って再度、真剣な表情をする。

「どう言う事か話なさい」

「話せと言われても、なんと説明したら良いか……兎も角、人里へ行きましょう!」

 俺と霊夢は互いに顔を見合せると神社を後にした。


 人間の里へ来ると雷鼓は誰かを探す。

 恐らく、ツトムの奴だろう。

 そう言えば、ツトムそっくりの遺体もそのままにしてしまったな。

 こう言うデリカシーの欠如が俺の短所だろう。

 まあ、長年、人妖問わず、人の死を見てきたからな。今更と言えば、今更か。

「ツトム君!いたら、返事をして!」

 雷鼓はやや焦り気味に周囲に叫ぶ。

「ああっと、霊夢。そのツトムってのが、例の外来人だーーと、言っても、まだ子供でな。

 とりあえず、そいつのそっくりさんの遺体を見に行くか?」

「駄目ですよー!早く、あの子を探さないと!」

「ああ!もう!二人同時に話さないでよ!

 私は豊聡耳とよさとみみじゃないのよ!」

 霊夢はそう叫ぶと頭を掻く俺と心此処に在らずな雷鼓を交互に見る。

「とりあえず、そのツトムって子のそっくりさんの死体を見ましょう。それから、あんたの言う通りにするから」

 そう言うと霊夢は雷鼓を宥めて俺の案内の元、ツトム似の遺体がある場所へと向かう。

 するとそこには野次馬がいた。

 まあ、そりゃあ、遺体を放置したら騒ぎにもなるわな?

「はいはい。ちょっと通るわよ」

 俺達は野次馬をスイスイ避けながら、現場へと近付く。

 現場近くまで来るとおかっぱ頭に上質な着物を羽織る稗田阿求ひえだのあきゅうの姿があったーーが、肝心のツトムそっくりの遺体がない。

 血の付着や死体があった痕跡はあるから、そこにあったのは間違いないだろうが、もう対処でもしたんだろうか?

「あら、阿求じゃない?何しているの?ーーってのは野暮な台詞かしらね?」

「あ、霊夢さん。実は私にも依頼が来まして」

 そう言うと阿求はしゃがみ込み、血の付着した草木に触れる。

「血痕はあるのに遺体がないーーいえ、忽然と消えたそうです」

「消えた?それって、どう言うーー」

「ああっと、話の途中でなんだが、俺も良いか?」

 俺は頭を悩ませる霊夢と考え込む阿求にそう言うと阿求と同じ様に草木に付着した血に触れた。

「……何もないな」

「はあっ!?あんた、何を言ってんのよ!?

 ちゃんと此処に証拠がーー」

「阿呆。俺の能力を忘れたか?」

「あ、血を浴びれば、浴びる程、強くなる程度の能力でしたね?」

 喚き散らす霊夢とは対象的に阿求が思い出したかの様に俺の能力を口にする。

 俺は訳あって阿求とも顔馴染みだ。

 まあ、人間の里を警備してる段階で、お互いに顔を覚えているんだが、阿求は俺の能力を知る数少ない人間の一人だ。


 ーー話を戻そう。


 阿求の言う様に俺の能力は血に関する物だ。

 だから、血に触れれば、何らかの変化がある。

 だが、今回、それがなかった。

 つまり、これは血の様に見えて、血ではない紛い物だと言う事になる。

「ああっと、ちょっと待ちなさい。今、整理するから」

「いつも直感頼みだから、いざって時に頭が追い付かないんだ。

 もう少し考える習慣を付けた方が良いぞ、霊夢?」

 腕を組んで唸る霊夢にそう告げると俺はそわそわと挙動不審な雷鼓に視線を移す。

「雷鼓。本当にどうした?」

 俺がそう尋ねると雷鼓と視線が合う。

「……お前、何を知っている?向こうで何を見た?」

 俺の問いに雷鼓はだんまりを決め込んでいたが、何かを決意した様に俺を真っ直ぐ見詰めて口を開く。


「あの子、生きているけど、生きてないんです」

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