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ムラマサの子供【一】

 その日、俺は雷鼓に誘われ、妖怪の山を歩いていた。

「お前が俺を演奏以外で誘うなんて珍しいな」

「たまにはムラマサの兄さんとゆっくりと話しがしたくなりまして」

 そう言って雷鼓と共に辿り着いたのは焚き火を囲い、やんややんやと騒ぐ生まれたての付喪神達の宴会場であった。

「いらっしゃい」

 その一角で簡素な作りの屋台があり、中へ入るとワイシャツを着て、長い髪をポニーテールにした二ツ岩とカクテルをシェイクする小傘がいた。

「なにやってんだ、二ツ岩?」

「いや、大した事ではない。付喪神も大分、増えたからの。

 憩いの場を提供してやっているだけじゃ」

 二ツ岩はそう言うと小傘がリズミカルにカクテルを作り、俺の前にそっと置く。

「私特製の打ち粉だよ。ムラマサ君、遠慮せずに使ってね?」

「酒を作ってたんじゃねえのかよ!?」

「何を言っておる。この場に酒や呑める奴などおらんだろ?……何を今更」

 思わずツッコミを入れたが、今回は二ツ岩が正しい。

 俺は頭を掻くと簡素な椅子に座り、分身体である刀の刀身を打ち粉で軽く叩く。

 刀ってのもデリケートな代物だからな。

 刀剣油を定期的に塗らなきゃ切れ味が落ちる。

 だから、たまにはケアも必要って事だ。

「それで何を相談しに来たんじゃ?」

「ん?ああ。雷鼓に連れられてな?」

「たまには二人っきりでゆっくりしたくて。

 ほら、いつも兄さんって里を巡回しているじゃないですか?」

「それが仕事だからな」

「そんな仕事熱心な兄さんとの子供が欲しくて、此処へやって来たって訳です」

「ーーぶっ!?」

 俺は雷鼓の言葉が解らず、思わず、吹き出して雷鼓を二度見してしまう。

 そんな俺を見て、雷鼓は笑う。

「いやですね。冗談に決まっているじゃないですか?」

「……お前な」

 俺は呆れ顔でクスクスと笑う雷鼓を見詰め返して溜め息を吐く。

「そう言う冗談はやめろ。そもそも、俺にその気はないからな?」

「解ってますよー。そもそも、付喪神が子供なんて作れる訳ないじゃないですかー」

「ん?いや、可能ではあるぞ?」

「は?」

「え?」

 そんな俺達に二ツ岩がそう言い、俺と雷鼓は目が点になる。

「いやいや、冗談はよせ、二ツ岩」

「儂は真剣じゃて。実際に楽器を武器にしたとあるヒーローが外の世界におる」

「いるんですか!?」

 真剣な表情の二ツ岩に思わず、身を乗り出す雷鼓。

 俺はそんな雷鼓に再度、溜め息を吐くと刀を和紙で軽く拭う。


 こりゃあ、面倒な事になりそうだ。


 俺は小傘に「邪魔したな」とだけ伝えると、そそくさとその場を後にしようとする。

「成る程。つまり、私と兄さんの妖気を融合させれば、新しい付喪神が作れるとーーって、あれ?兄さん、どこですか?」

「ムラマサ君なら彼処だよ」

 小傘め。余計な事を言いやがって。

「え?あ、兄さん!待って下さいよ!」

「悪いな。まだ子供とかは考えてない」

「そんな事言わずに!ちょっと妖気を融合させて新しい付喪神を産むだけじゃないですか!面倒なら私が見ますから!」

 俺はそんな風に叫ぶ雷鼓を無視して、その場から跳ぶ。

 仮にもし、俺と雷鼓の妖気を融合させて子が産まれたとしたら、相当なひねくれ者の付喪神になっているだろう。


 ーーー


 ーー


 ー


「ふぉっふぉっふぉっ。フラれてしまったの、堀川雷鼓よ」

「まあ、兄さんらしいと言えば、らしいですけどね?」

 雷鼓はそう告げると酒を飲む。

 ドラムの奏者にも取り憑いた雷鼓だからこそ、酒が呑めると言う特権があるのである。

「でも、ムラマサ君にはこの話しは良くなかったかな?」

「まあ、色恋沙汰が苦手そうだからの、ムラマサは」

「そう、ですね」

 雷鼓は少し寂しそうにそう呟くと、ふと、ある事を思い出す。

「そう言えば、楽器が武器って、どんなのですか?」

「そうだのう。例えば、笛と剣が融合した物があるぞ」

「ぷっ!ーーあはは!なんですか、それ!」

 それを聞いて、雷鼓は笑った。

 だが、マミゾウは至って真面目である。

「まあ、信じるも信じないも自由じゃからな。だが、面白い話であろう?」

「そうですね。もし、そんな付喪神がいたら面白いでしょうね」

「じゃから、持って来た」

「……へ?」

 そう言われて雷鼓は一瞬、何を言われたのか解らないと言う顔をし、マミゾウが取り出した大柄のナイフを見る。

 柄は確かに縦笛の様な仕組みになっていた。

「付喪神の産み出し方は様々ある。

 百鬼夜行絵巻、打出の小槌、長い年月を掛けて妖怪化などの」

 雷鼓はそれを耳にしながらその笛剣にマジマジと見詰めた。

 そんな雷鼓にマミゾウは誘惑する様に囁く。

「お前さん、さっき、ムラマサとの子が欲しいと言っておったろう。この機会を逃すまいて」

「でも、ムラマサの兄さんはーー」

「おやおや?儂の勘違いかの?

 お前さん、あのムラマサとやらと交わったじゃろ?」

「ーーなっ!?そんな事する訳ないですよー!」

「はて?何を想像したのかの?

 儂はお前さんから微かじゃが、ムラマサの妖気を感じると言っているのじゃが?」

「誘導尋問ですかー?

 残念でしたー。ムラマサの兄さんとは一度、キスしただけですー」

「ほう。接吻したのかの?」

「あ」

 そこまで言って雷鼓は顔を真っ赤にし、マミゾウがニヤニヤと笑う。

「まあ、妖気が混ざった理由が解ったわい」

「ーーっ!」

「なら、尚更、あのムラマサとの子が欲しいじゃろう?んー?」

 そう言うとマミゾウは雷鼓の腕を優しく掴み、笛剣の上に雷鼓の手を添える。

「まあ、どうするかはお前さん次第じゃな。

 だが、その妖気の混ざり具合からするに数日で収まるじゃろう。

 次にムラマサとキスなりなんなりするのはいつになるかのう?」

 その囁きと触れている笛剣の存在を直にして雷鼓は悪魔の様な化け狸の誘惑についに屈服してしまう。

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