付喪神の在り方【終】
「ムラマサさん」
今日も今日とて巡回していると弁々に遭遇する。
「あっと、確か、弁々だったな?」
「はい!覚えててくれたんですね!」
「ん?まあな?」
俺は弁々に頷くと前回と違う弁々の様子を観察する。
何か良い事でもあったのか、嬉しそうに笑っている。
……ん?このパターンは雷鼓の時にもあった様な気がするな?
「あ、あの!」
「なんだ?また相談事か?」
「ム、ムラマサさんと雷鼓姉さんはお付き合いされてるんですか?」
「はあ?」
また何とも妙な事を問われるな。
なに考えてんのか、全く読めない。
「確かに雷鼓とは長年の付き合いだが、それがどうした?」
「そ、そうじゃなくて、その男女の関係として……」
「それは付喪神には無用な感情だ」
「そ、そんな事ありません!」
俺が否定すると弁々が叫ぶ。
「付喪神にだって心はあります!
なら、恋したって良いじゃないですか!」
言われて見れば、そうかも知れないな。
そんな事は考えた事もなかった。
ああ。そう言う事か。
「お前、恋してるのか?」
「あ、いえ、その……」
俺の言葉に弁々は顔を真っ赤にして手を弄ぶ。
そうか。付喪神にも、こう言う奴がいるのか。なかなか興味深いな。
だが、この話は俺には解決出来そうもない。
「悪いが、そう言う話なら雷鼓にするんだな。
恋愛の解らん俺には解決出来そうにない」
「そ、そんな事ありません!
ムラマサさんにも解決出来ます!」
「そう言う感情はないと言った筈だ」
「なら、試しても良いですか?」
そう言うと弁々が頬に口づけして来る。
その瞬間、弁々が口を抑えて顔を更に真っ赤にする。
「?」
その行為に理解出来ず、首を捻ると弁々が先程とは打って変わって泣きそうな顔をした。
「おい」
「やっぱり、私じゃ駄目なんですね?」
「さっきからなんなんだ?」
「ご、ごめんなさい!」
弁々は涙をこぼしながら去って行き、一部始終を見ていた雷鼓が呆れ顔で入れ違いにやって来る。
「兄さん」
「よお、雷鼓。弁々の奴はどうしたんだ?」
俺の言葉に答えず、雷鼓は俺の頬をひっぱたく。
俺は更に首を捻ると雷鼓の怒りに火が点いたらしい。
「この鈍感!」
「なんなんだ、一体?」
「だ・か・ら!あの娘はムラマサの兄さんが好きになってたんですよ!」
「ああ。そう言う事か」
雷鼓の言葉に俺が納得すると雷鼓が脱力した様に肩を落とす。
「……本当にムラマサの兄さんは鈍感なんだから」
「弁々にも言ったが、無用な感情だ」
「なら、私がムラマサの兄さんを好きだって言っても同じですか?」
「多分な。愛ってのは強味にもなるが、弱味にもなるのも見てきたからな。
戦闘の道具である俺ともなれば、尚更だ」
そう言うと雷鼓が呆れ顔で俺を見る。
その瞳はどこか悲しげである。
「兄さん。それでも、私はーー」
そこまで言い掛けて雷鼓は言葉を紡ぐ事はなかった。
「どうした?私がなんだ?」
そう言って雷鼓を観察していると雷鼓の顔が近付き、俺の口に口を重ねる。
一瞬、何をされたのか解らなかったが、成る程な。
俺の口から口を放すと雷鼓は真っ赤になって下を向く。
「お前もだったのか……」
「だから、鈍感だって言ったじゃないですか」
「すまんな」
俺は頭を掻くと深い溜め息を吐く。
そんな俺を見て、雷鼓が一瞬、傷付いた顔をする。
「……やっぱり、迷惑ですか?」
「そう言う感情は俺にはないと言ったろ?」
俺はそう言うと"笑って"答えた。
そんな俺の顔を見て、雷鼓がどんな表情をしたかは想像に任せる。
なに?ヒント?
そうだな。泣いてはなかったぞ?