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付喪神の在り方【三】

 輝針城は逆さにひっくり返って空中に浮いていた。

 この城の主である針妙丸は現在は保護と言う名目で博麗神社に居座っている。

 よって、此処には今、誰も住んでない筈だ。

 俺達は入り口から中へと入ると周囲を見渡す。

 因みに俺は此処に来るのは初めてだ。

「此処に弁々達が本当にいるのか?」

「解りません。でも、可能性はあると思います」

 雷鼓はそう言うと一つ一つ襖を開けて中を確認する。

 俺はそんな事はせず、意識を集中して城の階層内の気配を探る。

 弁々の気配らしき物はーーない。

「行くぞ、雷鼓。この階には誰もいない」

「待って下さい。もう少しだけ」

「好きにしろ。俺は次の階に行ってるぞ」

 俺はそう言って次の階を調べに行く。


 ーーが、やはり、気配はしない。


 俺は更に天守閣を目指して進む。

 此処まで来るまで、弁々達の気配らしい気配はない。

 此処はハズレだったのだろうか?


 俺は雷鼓が来るまで待つ。

 雷鼓が来たのは二時間程してからだった。

「いたか?」

 俺の言葉に雷鼓は返事をせず、ただ項垂れる。

「此処じゃなかったのかもな?」

「でも、此処以外に行きそうな場所なんて……」

「灯台もと暗しかもな。案外近くにいるかも知れん。だから、そんな顔をするな」

 俺は今にも泣き出しそうな雷鼓にそう言うと俺達は輝針城を後にすると博麗神社へと向かった。

「俺の仲間に聞いてみよう。何か知っている奴がいるかも知れん」

 俺はそう言うと博麗神社の境内から出ようとして霊夢のいる家の方で琵琶を奏でる音を聴き、足を止める。

 雷鼓もそれが聞こえたのか、音のした方へと駆け出す。

 俺もその後を追って歩き、霊夢の家へ向かうと霊夢や魔理沙まりさ、あとは最近、外の世界から夢を通してやって来た宇佐見菫子うさみ すみれこの前で曲を奏でている九十九姉妹を発見する。

「弁々!八橋やつはし!」

「雷鼓姉さん?」

 雷鼓は驚く二人を抱き締めると涙をこぼす。

「……良かった……本当に良かった」

「ちょっーー雷鼓姉さん!?何があったの!?」

「雷鼓はお前達を探してたんだ。

 今度の演奏会に呼ぶ為にな?」

「「え?」」

 俺の言葉に弁々と八橋が驚き、瞳を潤ませる。

「雷鼓姉さん」

「雷鼓姉」

 弁々達は堪えきれず、泣き出す。

 俺はそんな雷鼓達の邪魔をせぬ様に霊夢達の方へと歩いて行く。

「ーーで?なんで、弁々達が此処にいるんだ?」

「それについては私が教えて上げましょうーーてか、貴方は誰?幻想郷のホームレス?」

「通りすがりのおせっかい焼きだ。気にするな、宇佐見菫子」

「え?なに?なんで、私の名前知ってんの?」

「こいつはムラマサ。幻想郷の守護者ってのの一人よ」

 困惑する宇佐見菫子に霊夢がしれっとネタバレする。

 おいおい。こいつに教えて平気なのかよ?

「幻想郷の守護者!?なにそれ!?そんなのあるの!?」

 案の定、宇佐見菫子が目を輝かせて物珍しげに俺を見る。

「へえ。幻想郷の男で特殊なのは香霖堂の霖之助さんくらいだとばかり思ってた!」

「まあ、一応、俺も特殊ではあるな。

 まあ、宜しくな、宇佐見菫子よ」

「宇佐見で良いですよ。えっとーー」

「ムラマサだ」

 俺はそう名乗ると溜め息を吐いて菫子に尋ねる。

「ーーで?宇佐見と九十九姉妹がどう関係あるんだ?」

「それはこれを見て貰えば解ると思います」

 そう告げると宇佐見は俺に河童なんかが使う携帯電話を見せ、今まで聞いた事のない琵琶や琴の演奏の映像を映す。

 成る程な。どう言う経緯かは知らんが、九十九姉妹は宇佐見と会って感化された訳か……。


 だが、これは良い事だ。

 弁々も未だに外の世界で需要があると気付いただろうしな。


「こうしちゃ、いられない。早速、演奏の練習をしよう」

「え?でもーー」

「ムラマサの兄さんから聞いてるよ。

 自分に自信がなくて嫌悪してるって。

 だから、そんな事も忘れて演奏するんだよ。要は楽しまなくちゃ」

 雷鼓はそう言うとドラムの準備を始め、九十九姉妹と演奏を行う。

 雷鼓はドラムでリードし過ぎない様に抑え、九十九姉妹達の演奏を前面に押し出す。

 こう言う所の気配りは雷鼓ならではだ。


 曲も悪くはないし、弁々の気持ちも軽くなって、楽しく奏でているのが解る。


 曲が終わると弁々が嬉し泣きする。


 そんな雷鼓達の絆を確認した後、俺は博麗神社を後にした。

 あとは演奏会の楽しみにでも取って置くかな。


 こうして、また付喪神として成長した奴が幻想郷を楽しい物にする。

 後日、秋に彩る演奏会は大成功で終わり、九十九姉妹も九十九姉妹なりにそれなりに有名になった。

 まあ、全ては良い方向へ向かった。

 その努力に見合う対価として。

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