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付喪神の在り方【二】

「ムラマサの兄さん」


 一週間後、いつもの様に人間の里を巡回していた俺は雷鼓に呼び止められる。

 雷鼓の顔には一週間前の様な余裕はなく、何処か不安そうな表情をしていた。

「雷鼓か。どうした?」

「あ、いえ、九十九姉妹が何処へ行ったかを知りませんか?」

「いや、知らないが?」

「そう、ですか……どうしよう……」

「何かあったのか?」

「それが解らないから探してるんですよ!」

 雷鼓が癇癪を起こすのは珍しい。

 そんなに九十九姉妹が心配なのか……。


「落ち着け、雷鼓。慌てたって見付かるもんも見付からねえだろ?」

「……そうですね。すみません」

 雷鼓はそう言うと深呼吸して心を落ち着けつつも不安げに胸元に手を当てながら俺に訳を話す。

「今回の秋の演奏会は九十九姉妹を呼ぼうと思ってたんです」

「なに?」

 その言葉に俺は眉を潜める。

 そんな俺を見て、雷鼓が何かを察する。

「兄さん。私に何か隠してませんか?」

「……いや、何も……って、訳でもないか」

 俺は溜め息を吐くと雷鼓に一週間前の弁々とのやり取りを話す。

 無論、弁々が演奏会を邪魔しようって計画については話さなかったが、弁々が自分を嫌悪し、多々の演奏で活躍する雷鼓に嫉妬している事を伝えると雷鼓は当然ながらショックを受けた。

「あの子がそんな事を?」

「ああ。だが、雷鼓の責任じゃない。

 付喪神として弁々が弱かっただけだ」

 俺がそう告げると雷鼓が俺の頬を叩く。

「いくら、ムラマサの兄さんでも、あの子達の悪口は言わないで下さい」

「そう捉えたんなら、すまないな。

 だが、自分に自信のない付喪神は弱い。

 最悪、消滅するかも知れないってのは、お前も解っているだろ?」

 俺が諭す様にそう告げると雷鼓が目を伏せる。

 雷鼓も付喪神である以上、その理は解っている。

 だから、何も言い返せないのだ。

 俺は俯く雷鼓を見て、もう一度、溜め息を吐く。

「まあ、俺にも責任がある。

 九十九姉妹を探すのを協力してやる」

「本当ですか!?」

「ああ。だが、俺には九十九姉妹の事を詳しくは知らんからな。その辺りはお前が頼りだぞ?」

 俺は喜ぶ雷鼓にそう言うと雷鼓は腕を組んで真剣な表情で考え込む。

 俺はそんな雷鼓に尋ねた。

「何かないのか?

 普段、練習している場所とか思い出の場所とか?」

「そんな事言われなくても、思い当たるところは全部探しましたよ。ただーー」

「ただ?」

「まだ一ヶ所だけ、探してない場所があります。でも、自分からそこへ行くとはーー」

「何でも良いだろ?その場所ってのは何処だ?」

「輝針城です」

 輝針城か。成る程な。

 輝針城ってのは付喪神や草の根妖怪が少名針妙丸すくな しんみょうまると言う小人の持つ打ち出の小槌で暴走して起こった輝針城異変と呼ばれる異変の中心地だ。

 その針妙丸が持つ打ち出の小槌で産まれた付喪神は多い。

 長い年月の間に道具から妖怪になった多々良小傘たたら こがさや俺とは違い、小槌で産まれた付喪神は小槌の力が失われれば、元の道具へと戻る。

 雷鼓達はそんな風に元に戻る事に抗った付喪神である。

 そんな輝針城へと今更、戻る理由はないだろう。本来ならな。

「行ってみるか、雷鼓?」

「はい。どうせ、他に行くアテもありませんし、行きましょう、兄さん」

 俺と雷鼓は互いに頷くと宙を舞い、輝針城のある方角へと飛ぶ。

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