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付喪神の在り方【一】

「だぁれだ?」

 秋だと言うのに冬みたく冷たい日、俺はいつもの様に里を巡回中、唐突に目を塞がれ、溜め息を吐く。

「雷鼓だろ?」

「あったりぃー!」

 俺を覆う手をどけると雷鼓が嬉しそうに俺の前に来る。

 なんだ?妙に上機嫌だな?

「何か良い事でもあったか、雷鼓?」

「あ、流石はムラマサの兄さん。解っちゃいますー?」

 雷鼓は嬉しそうにステップを踏みながらクルンと一回転すると俺にビラを差し出す。

「秋姉妹と共演して紅葉こうようで色ずく山に合わせて演奏するんです」

「ああ。そう言えば、まだ山々が秋の色に染まってないな」

「今回はそんなスペシャルな秋を彩った演出をしますんで楽しみにして下さいね!」

 雷鼓はそう言って笑うとルンルン気分で去って行く。

 因みに雷鼓の言う秋姉妹ってのは紅葉の神である秋静葉あき しずはとその妹で豊穣の神でもある秋穣子あき みのりこの事だ。

 俺はそのビラを懐にしまうと再び歩き出そうとする。

「あ、あの……」


 ーーと、そんな俺に声を掛ける者がいた。


 振り返ると葉付きの白い花の髪飾りを着けた薄紫の髪の少女が佇んでいた。

 その左腕には鎖で繋がれた琵琶がある。

「あっと……確か、九十九つくも姉妹の……」

「はい。九十九姉妹の姉でべんべん々と申します」

「だったか?九十九姉妹としか覚えてなくて、すまんな?」

「仕方ありません。私達の知名度は低いですから」

 そんな事を言いつつも少し残念そうな顔をする弁々を見て、俺はバツが悪そうに頭を掻く。

「それで俺に何か用か?」

「あ、はい。雷鼓姉さんから聞いています。

 なんでも困った時に頼りになる付喪神の大先輩だとか」

 雷鼓の奴、そんな事を言ってんのか?

 幾らなんでも盛り過ぎだろう?

「ん?何か困り事か?」

「はい。雷鼓姉さんには言い難い事でなんですが、今年は台風と言う妖怪がやって来るとかで演奏会を中止に出来ないかと」

「演奏会を中止に?何故だ?」

「それはーー」

 そこまで言い掛けると弁々は何故か口を閉ざして黄色いワンピースの裾を掴む。

 そして、ポロポロと涙をこぼして泣き出す。

「おい」

「……グスッ……すみません……でも、雷鼓姉さんが……」

 弁々が泣き出すと里を歩いていた人間達も何事かと俺達を見る。

 このままにすると良からぬ噂が立ちそうだな。

 俺はもう一度溜め息を吐くと弁々の手を引いて、その場から離れた。



「はあ?雷鼓に呼んで貰えなかったから中止にしなる様に手伝ってくれだ?」

 呆れる俺に弁々は泣きながら頷く。

 まあ、確かに付喪神にとっちゃあ、使われないで放置されるのは酷な事だ。

 だが、だからと言って他の奴の演奏を邪魔しようってのは違うだろう?

 俺はかつての同胞の子孫の茶菓子屋で腰掛けながら何度目かの溜め息を吐く。

「きっと、もう私達の事なんていらないんです。雷鼓姉さんにはプリズムリバーとか鳥獣伎楽とかいますし」

「だから、妬ましくて邪魔をしようってか?」

「だって……だって……グスッ」

「ーーったく。なら、こうしよう。

 俺から雷鼓に演奏会に出してやれるか聞いてやる」

「……ヒック……本当ですか?」

「その代わりに馬鹿な真似はするなよ?」

 弁々は俺の言葉に頷くと涙を拭く。

「それにしても、あの気の効く筈の雷鼓がねえ」

 俺はしばし、考え込むと俯いている弁々に口を開く。

「ちょっと試しに此処で一曲演奏してくれ」

「え?」

「お前も楽器の付喪神なんだろ?なら、問題ないだろが?」

「は、はい。分かりました」

 弁々は琵琶を取るとその場で演奏する。

 だが、なんだろうな?

 雷鼓の演奏を聴いた事があるが、あの時と違い、心に響かない。

 それに琵琶で演奏するのが嫌なんだろうなと言う思いを秘めている気がする。

 はっきり言って、かなり初歩的な問題だ。

「……お前、琵琶がーー自分が嫌いなのか?」

 一通り演奏を聴いた俺は弁々にそう尋ねると弁々はまた泣き出す。

 今度はなんだ?

「おい。泣き止め」

「すみません。でも、ギターとかがメジャーの今の幻想郷で私の琵琶なんて……」

 俺は肩を竦めると団子を持って現れた亭主ーー同胞の子孫に尋ねる。

「亭主はどう思う?」

「う~ん。私もそんなに音楽とか聴きませんが、お嬢ちゃんが琵琶が嫌いなのかなって思いましたね?

 まずは初歩的な事じゃないですか?」

「やはり、そう思うか。俺もそうなんじゃないかと思った」

 俺は亭主の発言に頷くと涙をこぼして泣く弁々の頬を叩く。

 弁々もまさか、叩かれると思ってなかったのか、涙目で俺を見る。

「ちょっーームラマサさん。幾らなんでも」

「こいつは同じ付喪神の問題だ。悪いが、お前は黙っててくれ」

 俺はオロオロする亭主にそう言うと弁々を睨む。

「甘ったれた考えは捨てろ。そして、自分を思い出せ。

 お前達は偶発的に産まれた付喪神だから、本来の籠められた思いが薄いのかも知れん。

 だがな。使われてた記憶ってのがあるだろう?」

「使われてた記憶、ですか?」

「俺も雷鼓も使われてた記憶を持って、その念で成長した。それを元に雷鼓の様に抗ったり、俺の様に流れに身を任せたりするきっかけになった」

 俺は弁々にそう告げると胸ぐらを掴む。

「雷鼓がお前達ーー九十九姉妹を何故、付喪神としての存在し続けさせてやる事を願ったか、その思いを考えろ。

 それが出来なきゃ、また一緒に演奏しようだなんて土台無理な話しだ」

 俺はそう言うと弁々を突き放し、背を向けて立ち上がる。

「邪魔しようって思う前に自分を極めて見せろ。

 俺から言えるのはそれだけだ。

 後、さっきの邪魔をしてくれって話しは聞かなかった事にしてやる」

 それだけ言うと俺は弁々をそのままにその場を後にした。


 付喪神は幻想郷で唯一、成長出来る妖怪だと思っている。

 此処で歩みを止めるか、それとも先へ進むかは己次第だろう。

 願わくば、雷鼓の思いが届いて欲しい物だ。

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