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第三章:やり直したい

4月は桜の季節だなどとほざくのは、本州の人間だけだ。

桜といえばゴールデンウィーク頃に咲くのが常識であり、少し山あいに行けば路肩に雪が残っているのが4月である。


ここは皇国最北に位置する蝦夷島。

世界で21番目に大きな、自然豊かだがそこらの小国を上回る経済規模を誇る島。

夏は湿度の低い、からりとした暑さが続くため比較的過ごしやすいが、冬場は毎日気温が氷点下。地吹雪・水道凍結・ブラックアイスバーンが毎年島民を襲い、屋根の雪下ろしをする老若男女が転落死する。「試されし大地」のキャッチフレーズは、蝦夷島民なら誰しもが頷くぴったりの表現だ。


その蝦夷島西側のイシカリ平野に、195万人超の人口を擁する大都市・サッポロがあり、サッポロ市内の治安維持を担うのがサッポロ市警察本部。その中でも魔法犯罪に特化し、凶悪事件に対応する部署が魔装警備部であり、


「魔装警備部はここじゃないです」

「えっ嘘死にたい」


本日付で魔装警備部の特殊部隊、即応魔装機動隊(Q - M A P)に配属となったハヤブサは、その新たな職場に辿り着けずにいた。


「ここは市警本部じゃ…」

「みなさんよく間違われるんですが、魔装警備部は市警本部庁舎には入ってないんです。魔装警備部は、ここまっすぐ行って道路を渡ったところにある、5階建ての黒っぽいビルです。見たらわかると思いますが、一緒に行きましょうか?」

「死にた…いや、ありがとうございます。ひとりで行きます」


ぺこりと頭を下げ、ハヤブサは段ボールを抱えなおしてくるりと踵を返した。

サッポロ駅から歩いて数分のところにあるサッポロ市警本部庁舎。

ハヤブサはすっかりそこが職場かと思い、朝ちゃんと6時に起きてシャワー浴びて歯磨きしてきっちりスーツ着て警察の制服の入った段ボールを抱えて通勤ラッシュの皇国電鉄に揺られて来たのだが、どうやら市警本部と魔装警備部の建物は違うらしい。

市警本部の前で、89式5.56mm小銃を片手に立っていた立哨の警察官に優しく道案内をしてもらい、ハヤブサは改めて歩き出した。


えっ、ていうか何で市警本部と魔装警備部は違う場所にあんの?ひとつにした方が効率よくない?同じ警察でしょ?恥かいたわ…すっげー恥かいたわ!しかも俺今日から警察官よ?警察官が自分の職場の場所わかんなくなって警察官に道案内してもらうとかどういうギャグ?はいもう朝から死にたいでーす!いえーい今までありがとうエブリバディー!


脳内で呪詛の言葉。死にたみ突き抜けて全ての出会いに感謝。今朝シャワーからお湯をかぶった後、洗面台の冷水で引き締めた顔は、既に精気を失っていた。

立哨に教えてもらった通り道を歩き、信号をひとつ渡れば、立哨が言っていた5階建ての黒っぽいビルが建っていた。

エントランス上には、「サッポロ市警察本部魔装警備部」の文字。間違いない。


「ここか…」


朝っぱらから一波乱あり、既にライフはゼロに近い。

ここまで来てやはり引き返そうかなどと一瞬考えたが、出勤初日にバックレるのは社会人としてよろしくない。

再度気合を入れ直し、冷たい空気を大きく吸い込んで、ハヤブサは一歩を踏み出した。


刹那、大きなクラクション。

轟音ともいえるエンジン音が響き、トラックが駆け抜けた時と同じような風圧がハヤブサを襲う。周りのビルが赤色回転灯の灯りで染まった。


「てめぇーが新人のフドウ・M・ハヤブサ三等巡査かァ!」


大声で叫ばれ、ハヤブサは驚いて段ボールを落とした。

振り向けば、車体を鮮やかな青色に塗装し、白地でPOLICEの文字が抜かれた装甲車が ー よく見れば皇国軍の装輪歩兵戦闘車(I F V)がベースだ ー エンジンをふかしながら停まっていた。

その装甲銃塔(キューポラ)から、一人の男が頭を出していた。金髪をツンツンに逆立て、黒いサングラスを掛けたチンピラのような風貌。街中で声を掛けられたくないタイプの人間ナンバーワンである。


「シカトこいてんじゃねえ!ハヤブサ三等巡査!仕事だ!早く乗れッ!!」


チンピラが怒鳴る。

装甲車の後部にある油圧式ハッチがゆっくり開き、中から同じく黒いサングラスを掛けたオオスミが顔を出した。ハヤブサに手招き。


「乗れ、ハヤブサ。早速だが仕事の時間だ」

「え」

「お前なんでスーツなんだ。中で着替えろ」

「あの」

「オオスミ隊長が乗れって言ってんだろうが!とっとと乗れボンクラ!顔面焼いて胴体ごとフッ飛ばすぞ!!」


金髪ヤクザが喚く。


「…初日から恐喝…怒声…脅迫…パワハラ…死のう…」

「死ぬなァーーー!!!」


反社会勢力野郎が吠える。

ハヤブサは怯えながらも段ボールを拾い上げ、よろよろと装甲車へ近付き、油圧式ハッチから車内へと乗り込んだ。


車内は思ったより狭かった。

シートは向かい合わせになっており、車内の両サイドにベンチのように伸びている。平均身長のハヤブサでも、若干腰を曲げないと奥へは進めない高さだ。

そのベンチシートに、3人の隊員が座っていた。


一人はQ-MAP隊長のオオスミ。

その隣に、採用試験で最初に手合わせをしたQ-MAP副隊長、ヒムロ・C・サクラ。

サクラの正面に、初めて見る女性隊員。

そして、


「全員乗車しました!オオスミ隊長!」


社会不適合恫喝金髪男が、キューポラから戻ってきた。


「これがサッポロ市警Q-MAPのメンバーだ。機関員、出してくれ」


オオスミが言うと、装甲車はゆっくりと油圧式ハッチを閉め、ブオォンとエンジンを唸らせて走り出した。運転手は別にいるらしい。

車体の揺れに耐えきれず、ハヤブサは女性隊員の隣に倒れるように座り込む。


「ハヤブサ、時間がないからざっくり説明する。今から向かうのは中央区南6条にあるアパート。そこで凶悪犯罪の被疑者である風系魔法能力者一名を確保し、刑事部魔法犯係の捜査員に引き渡す。お前は盾役だ。俺は隊長のオオスミ、隣にいるのが副隊長のサクラ、こっちがアカリで、金髪がタイヨウだ。詳しいことはアカリに聞け。以上、作戦に備えろ」


そう言って、オオスミは煙草に火を付けた。これ以上は喋らないというアピールだろうか。

密閉された空間に、ゆらりと煙草の煙が充満する。


「車内で吸うなっつうの」

オオスミの隣に座るサクラが諌める。

「うるせえ吸わせろ」

「ぶんなぐんぞ」

「はいはい…」

朝から謎の夫婦漫才じみたものを見せられ、ハヤブサはどういう顔をすればいいのかわからなかったので、取り敢えず死のうと思った。


まず第一に、朝一番で庁舎を間違えた。

第二に、通勤ラッシュのサッポロ都心で半グレに怒鳴られた。

第三に、雑な説明しかされず現場にドナドナされている。

第四?もうね、死にたいよね。なにこれ。


「ここの連中みんな口が悪くて嫌になっちゃいますよね」


脳内でGO TO HELLしていたところ、隣に座っていた黒髪の女性隊員が話し掛けてきた。

車内は薄暗いが、よく見れば長めの髪を後ろで束ねてポニーテールにしており、毛先を鮮やかな赤色に染めていた。

整った顔立ち。ともすれば、モデルかアイドルでもやっていそうな、綺麗かつ可愛らしい顔をした女の子である。


「私はトウジ・A・アカリ。上級治癒魔法能力者で、四等警部。よろしくね、ハヤブサ三等巡査!」


突然の天使級スマイルに、ハヤブサの視界がくらりと歪む。

つい先程までHELLってたメンタルが一気にHEAVENだ。どの道死んでる。

長いまつ毛に薄い唇、細い首筋。オオスミ側から漂う煙草の匂いに混じって、アカリからだろうか、微かに甘い香りがする。


「あ、の、ハヤブサです。フドウ・M・ハヤブサ」

「知ってますよ!」


ふふふ、と微笑むアカリ。

その笑みを見て、ハヤブサは一撃でメンタル急降下。

よろしくね、ハヤブサ三等巡査!と言われて、ハヤブサですと応える馬鹿がどこにいる?ここにいる!へい!あたしゃ馬鹿です!完全に人間とのコミュニケーションを忘れた動物のような返答をしてしまった。幼稚園児だってもっとマシに喋れる。自分と比べられた幼稚園児のほうが可哀想だ。死んで生まれ変わってもう一度この会話やり直したい…


「早速ですが、作戦概要を説明しますね。まず、オオスミ隊長とタイヨウくんが玄関から突入。少し間を置いて、狙撃班がベランダ側の窓から狙撃するので、ハヤブサくんはサクラ副隊長と一緒にベランダから突入してください。被疑者を挟み撃ちで制圧してある程度痛めつけたら、私が玄関から入って被疑者を治癒して、魔法犯係に引き渡して終了です!」


アカリの説明を元に、脳内シュミレート。

できない。間取りがわからない。


「着いたぞ」

「早い!!!」


ハヤブサのツッコミに呼応するように装甲車はガクンと停まり、間髪入れずに油圧式ハッチが開いていく。

オオスミやアカリの説明に気を取られていたが、この装甲車、街中の魔装警備部庁舎を出発してから一度も停車していない。

全ての赤信号をパスして、まっすぐ一直線に現場まで来たのだ。


「行くぞお前ら、気ィ抜くんじゃねえぞ!」

「「「応ッ!!」」」


「ぉ、おう…」


かくして、ファーストフードを注文してから出来上がるくらいの時間で、ハヤブサは捜査現場の最前線に送り込まれたのだった。


思ったより長くなってしまったよ。

ようやく次からバトルアクション(笑)がはじまるよ。

キャラの名前もゆっくり覚えてあげてね。

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