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最終回:MOONSTER

挿絵(By みてみん)

終わりの始まり。MOONSTER開演。


 ここは砂漠の惑星だ。

 オアシスを包み込むようにして街ができている。砂嵐が吹きすさぶ。天候は酷く荒れている。


 こんな辺境の惑星にいるのは、原住民、星流しにされた罪人、怪しいカンパニー、そしてマフィアだ。


 まともなやつは誰一人としていない。


 そしてカジノのVIP席。危険な雰囲気を放つ男達がいる。総じてごつい銃器を携帯している。指は引き金に乗っている。厳重警備体制だ。


 それもそのはず現在進行形で麻薬の取引が行われているのだ。


「100キロのプフィンだ」

「おお……」


 売り手マフィアがアタッシュケース一杯に差し出したのはプフィンと呼ばれる麻薬だ。


 この麻薬は違法薬物の中でも特に危険なドラッグに分類される。


 一度使えば確実に依存症になる強力な中毒性。そして強い幻覚作用、その際に得られる絶頂を繰り返すような高揚感。


 だがその反動で切れた際の反動は凄まじく、一度服用してしまうと常用必須となる。治療は極めて困難だ。


 つまり一度使わせてしまえば死ぬまで金を搾り取れるのだ。


「これでどうだ」


 買い手マフィアの出したアタッシュケースには十分な額の金品が入っている。


 ウルトラレアメタル。ロストテクノロジーの詰まったフロッピーディスク。太古のオーパーツ。最恐竜の化石。


 抜かりなく売り手マフィアは確認する。全てが本物であると分かると男達はニヤリと笑みを浮かべる。


 取引成立だ。荒事もなく、スマートなビジネスが終わろうとしている。そのとき。


「おうおうおうおう! にーちゃんたち!」


 VIPルームに入ってきたのは一人の少女だ。華奢な体で風をきって歩いている。似つかわしくない歩き方だ。


 可愛らしい顔が笑みで歪んでいる。まるでいくつもの修羅場をくぐり抜けた歴戦の戦士のような立ち振る舞いだ。


「なんだガキ、トイレは向こうだぞ」

「あー確かにくせぇな。下痢ピー以下のバットスメル。これはクズの臭いだぁ」

「命知らず(デアデビル)が……てめぇら、こいつを追い出せ」

「へい!」


 男達が少女へ腕を伸ばす。


「よっと」


 少女は軽業師も舌を巻く身のこなしでかわす。そして跳躍。トレードの机にドンと降り立つ。


「なにもんだてめぇ」

「いやなに、味見してやるってんだよ」

「は?」


 少女はプフィンの袋を一つ取ると、雑に開いて口に流し込んだ。明らかに致死量だ。


 マフィアたちは少女を止めなかった。その行動に興味があるのだ。買い手マフィアとしては確かにブツが偽物かどうかは気になるところなのだ。


「バカが、狂ってやがる。一度にそれだけの量を飲んだら間違いなく死ぬぞ」


 売り手マフィアが気持ち悪いものを見る目をしている。即効性があるためすぐに症状が出始めるだろうと、これから始まる少女の乱痴気騒ぎを想像してのことだ。


「んー? なともないねぇ」

「なに!?」


 少女はケロリとしている。それどころか2つ3つと袋を開いて口に収めていく。それでも少女はあっけらかんとしている。


 買い手マフィアの怒りの矛先は売り手マフィアに向けられる。


「偽物を掴ませやがったな!」

「そんな馬鹿な! これは本物だ!」

「嘘をつくな! 野郎どもブッ殺せ!」


 こうして殺し合いは始まった。

 その様子を少女はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて観察する。


「喧嘩だ! 喧嘩だ!! そうこねぇとな! すまし顔はつまらねぇからよう!!」








 一般人も巻き込んだ殺し合いは共倒れで幕を閉じた。


 大通りを粉と血だらけ(返り血)の少女が歩いている。


「ぺっぺ! ちぇ、名前がプリンに似てたからてっきり甘いものかと思ったのに」

「スター、また悪いことしてますね」


 突如背後から現れた少女が呆れたように言った。


「お、ムーンか、いつからいたんだ?」

「最初からいましたよ」

「また姿を消して着いてきてたのか」

「あの麻薬本物ですよね」

「あ、わかった? 期待してたんだけどな、やっぱり俺には効かなかったよ」

「狂ってるものは狂えない、です」

「あ? んだよ、最もそうな戯言いいやがって、そうだアキバ行こうぜ」

「思考の切り替えがおかしいですよ」

「ダメか?」

「もちろんいいですよ。でもいきなりどうして?またイタズラするんですか?」

「俺を悪いやつみたいに言うなよ。テレビ見てて面白いの見たからさ。宇宙船盗ってくるわ」







 2時間後。


 宇宙空間を宇宙船が飛行している。


「いやあ、大変でしたね」

「まさか盗んだ宇宙船にエイリアンがいたとはな」

「よく考えたら死体とか転がってたのもおかしかったですよね」

「盗む手間が省けたぜーって、バカだよな」

「昼寝してたからって寄生されるのに気づかないなんてビックリですよ」

「めっちゃ油断してた」

「でもスターの体内に残留してた麻薬に侵されてエイリアンがラリって死んだのは面白かったですよね」

「笑い事じゃねぇっつうの。めっちゃ痛かったんだからな」

「頑張って手術してあげたんですからね、感謝してください」

「麻酔くらいしろつーの」

「麻酔効かないじゃないですか」


 スターは腹をさすった。


「子供産むのってこんな感じなのかな」

「絶対違います」

「産んだことないんだから絶対とか言うなよ」

「赤ちゃんは腹破ろうとしないです」

「難しい話しやがって、ほらワープすんぞ。ぐいー」

「え、あ、ちょ! きゃあ!」

「しっかり俺に捕まってろよ」













小一時間経過。


 ここはアキバにある広い会場。


『全方位に喧嘩を売るのはこの2人ー! お笑い異世界譚! ムーンスター!』


 MCの叫び声が響く。軽快な音楽が鳴る。


「さ、行くぞ」

「はーい」


 舞台袖から出てきたのは2人の少女。

 そそくさと舞台中心に移動する。


「「はいどうもー」」

「ムーンです!」

「スターです!」

「「二人合わせてムーンスターです! よろしくお願いします!」」


「いやー! アキバ楽しかったですね!」

「ここに来る前にアキバに行っててな。って待て、その話はいいだろ」

「お客さんがオタクな人たちっぽかったんでつい」

「クソ失礼だな」

「早速なんですが私、異世界転生したいんですよ」

「異世界転生ってあのラノベの流行りジャンルの?」

「はい、あの死んで別の世界に転生するジャンル。あれの主人公になりたいんです!だから異世界転生の練習に付き合ってください」

「いいよ、暇だし」

「漫才中なんですけど、じゃあ転生するところから始めますね」

「どんとこい」

「まずはトラックに轢かれます」

「異世界転生ものと言えばそれだな」

「轢いてください」

「俺が!?」

「通り魔がいいですか?」

「どっちもやだよ!」

「どっちかって言うと?」

「トラックだよ」

「お願いします」


「ガラガラ」

「いや、どこ入った」

「お店ですよ」

「異世界転生だよな」

「そうですよ」

「なんでお店」

「前フリです、マスター役をお願いします」

「わかったよ」

「適当に相槌を打って、タイミングを見計らって轢いてください、死にますから」

「はいよ」


「ガラガラ」

「いらっしゃい」

「マスターいつもの」

「はいよ」

「この街に来て長いなあ」

「そうですね」

「上京した頃、右も左も分からない私に、マスターは優しく世話焼いてくれましたね」

「そうですね」

「あれから10年。あと少しで集大成とも言えるプロジェクトが完成します」

「そうですね」

「本当に長かった。マスター。いつもありがとうございます。これからもよろしくおね」

「轢きにくいわ!」

「え!」

「話が重い! 早く店から出ろよ!」

「ブレーキとアクセル間違えた老人よろしく突っ込んでくればよかったのに」

「タイムリーだな!」

「時期ネタは必須でしょう?」

「こき下ろしてけ」

「わかりました、マスターつけで、ガラガラ!」

「トラックどーん!」

「うわー! バタリ!」

「だ、大丈夫ですか?!」

「あなたこそ大丈夫ですか? 結婚されてますよね? 奥さんになんて言うんですか? お子さんは? 私を轢き殺しちゃったら仕事も無くなって一家路頭に迷っちゃうんじゃ」

「轢かれてるのに元気だな!」

「異世界転生するたび現代に不幸な人が生まれている現状にアンチテーゼを」

「死ね!」

「ひどい!」


「死にました、神様のところに行きます」

「お、そこで転生するんだな。じゃあ俺が神様役だ」

「ここは……」

「ここは天界じゃ、そしてワシは神じゃ」

「失礼ですがどの宗教の神で」

「どこでもいいだろ」

「大事なことですよ、へんな虫に転生させられたら嫌ですもん」

「どんだけ業を背負ってんだよ」

「チョロい神でお願いします」

「たく……お主はトラックに轢かれて死んだ。しかし特別にまた人として転生させてやろう。あとチートもやろう」

「わーい!ありがとうございます!」

「転生ビーム、ビビビビビ」

「ちよっと待ってください」

「なんだよ」

「なんですか今のビーム」

「え、いや、え、そこそんなに大事?」

「大事ですよ! これから転生するんですから。気持ちを込めてやってください」

「どうやって」

「さっき行ったメイド喫茶の」

「やだよ」

「はいせーの!」

「……心を込めてー、ラブドッキュンー」


「転生しました」

「流すな。返せ俺のラブドッキュン」

「録音してますし」

「録音すな」


「異世界転生と言えばチート能力ですよね」

「ああ、チート能力を使ってスカッとするのが醍醐味だもんな。それでどんなチート能力がいいんだ?」

「高速の料金が掛からない!」

「ほしいけど、ここ異世界!」

「居酒屋のお通しのオンオフ機能!」

「だからここ異世界!」

「コンビニ立ち読みの厳罰化!」

「せめて読んだあと買え!バキだけ読むな!そしてここ異世界!!」


「はぁはぁ……」

「ツッコミの体力の無限化……」

「アクションリプレイか!」

「レベル9999とかでいいんですよ」

「適当すぎるだろ」

「それが民衆にはウケるんです。バカでも読めるようにしないと」

「やめろ、また焼き討ちにあうぞ」


「まあいいや、それでこれからどうすんだ?」

「え、これで終わりですよ?」

「はあ?」

「みんなこのくらいで更新途絶えてるんで、私たちもこれで終わりです」

「エタるのまで真似すんな。もういいよ」

「「ありがとうございました!」」






 楽屋。


「で、なんで俺たち漫才ごっこなんてしてんだ?」

「言い出したのおねえちゃんですよ。アキバの会場で漫才したいって、言ったの覚えてないんですか?」

「そうだっけ? 俺何考えてんだ?」

「こっちが聞きたいんですけど」

「ん、なんか外が騒がしいな」

「またはぐらかして」

「違うってマジマジ」


 窓から顔を出す。


「俺の宇宙船からエイリアンが!」

「まだ隠れてたのがいたんですね。あ、空を見てください」

「あれはマフィアの母艦! 俺たちを追って来やがったんだ!」

「無差別にビームを乱射しています。どうしますおねえちゃん」

「決まってんだろ!」








「トンズラだ!!」

「わーい!!」



 後日、マフィアとエイリアンの血で血を洗う戦いは宇宙平和機関による惑星破壊光線トゥルーエンドキャンセラーにて幕を閉じた。


登場人物やら。


スター:最高に狂ってる予測不能少女。普通な時もある。髪の色ブロンド。能力『コメディーファクター』


ムーン:サイコパスな冷徹少女。髪の色パープル能力『シリアスコード』



売り手マフィア:辺境の惑星ドライアラランドを仕切るマフィアの一つ。この星でしか採れない強力な麻薬プフィンを売り捌いている。


買い手マフィア:数々の惑星に拠点を置く。巨大なマフィア連合ギャラシアン。プフィンを手に入れ、更なる飛躍のための軍資金を稼ごうとしている。


盗まれた宇宙船:宇宙旅客機だったが旅行先でエイリアンに襲われた。乗客はドライアラランドに着いたところで全滅した。


エイリアン(バルドワーム):他種族に卵を産み付け食わせる典型的な宇宙寄生虫エイリアン。スターの体内に残留していた麻薬を吸収、過剰摂取でそのまま死んだ。5つ子だった。


異世界アキバ:時空の狭間にある知る人ぞ知る魅惑の惑星。全宇宙中にサブカルチャー電波を流しており、映像媒体があれば視聴することが出来る。熱狂的なファンが多い。


異世界劇場:ムーンスターが奪った台本はその日デビューするはずだった新米コンビのネタだった。面白さは未知数。


宇宙平和機構:平和厨が集った集団。


惑星破壊光線トュルーエンドキャンセラー:爆発オチ担当の宇宙秩序絶対保つマン。

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