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桜木町ハードバンパイア

文章下手くそですが、なりとぞご容赦を……(T-T)

序章 出会いと血の味はビター


 不意打ちを喰らうというのは、人生でよほどのことがない限り起こることはない。


 放課後の野球部のボールが脳天に当たることや、下駄箱に小綺麗な封筒が入っていることも。その年のおみくじで大吉を引いたときか、占いが当たる時くらいしかないはず。それか僕のいるこの世界がライトノベルの物語の中だったりとか。

 この世界がライトノベルだったらどれ程いいのだろう、多分この年頃の男子高校生――俗にいうヲタクと呼ばれる区分に当たる人々なら、一度くらいは想像したことがあるはずだ。いや、ライトノベルじゃなくても、少なくとも児童書のファンタジー小説や、SF小説好きなら誰もが一度は思ったはず。ああ、映画やアニメ好きでもいいか……これ以上はきりがないから止めておく。

 強いヒーローに憧れたり、美少女に囲まれて生活する環境に憧れたり。そんな環境、現実には絶対あり得ないはずなのに。でもどうしてか、ちょっとの暇があればそんな考えに耽ってしまう。そうした人間が、後々クリエイティブな職業に憧れたりして、世に色々なものを送り出したり、あるいは志半ばで諦めて、安定した生活を目指したり。

 ここまで語っておいて、僕が前者だと思ったらきっと笑われるだろう。安心してくれ、勿論後者だ。興味がないわけではないが、そんな進路を目指して人生を不意にしたくはないからである。大学に進学して、そこそこの企業に就職して。安定した一生を送っていく。自分が今考えている進路と同じ道を進む者なら、同じ考えを持っているに違いない。

 勘違いしないでほしいが、僕は前者の人も、後者の人も蔑むつもりはない。夢があることはいいことだし、安定した職について家族を支えるという道も大事だと僕は考える。人生は一度きりなのだから。

 時計が夕方の三時を回ったところ、僕は机の上に置かれた進路希望調査の紙に視線を落とした。

 ボールペンで自分の名前、「佐冬優太」という名前を書いたところで、僕の作業は一時停止をしている。

「ん~……」

 頬杖をつきながら、ボールペンをぐるぐるとての上で回しながら考える。

 さて、話を戻そう。

 先ほどまで考えが決まっているのなら、早々に大学進学を決めてしまえばいい。普通の人ならばそう考える。なのに何故だろうか、僕の筆はいっこうに動こうとしない。なぜだろうか、まだ悩みがあるとでもいうのだろうか。別にこれといった悩みがないわけでもないのに。原因があるとするならば、それはきっと、進路希望の先生から言われた一言が切欠なのかもしれない。


『お前にはなにもやりたいことがないのか』


 この問いはきっと、先生なりの気遣いなのかもしれないと思った。

 先生なりに、『人生たるは~』というのを教えてくれているのだ。気遣いに関しては嬉しく思うし、先生のことは嫌いではない。でも結果としてその言葉が、僕がいま放課後の教室で、進路希望の紙を相手に一時間以上も苦戦している理由となっているわけで。

 わかる人にはわかる悩みであり、きっとどこかで必ず経験しているはずだ。みんな高校は通ってきているのだから。僕にあの言葉を言った進路指導の先生も。

 

 少々座りすぎた。これ以上座っていると尻にもうひとつ穴が空いてしまいそうだ。


 自分の席から立ち上がり、誰もいない教室をぐるぐると歩き回ってみた。少々リフレッシュの名目もかねて、簡単なストレッチもしてみた。グラウンドが望める窓を開けて、外の空気も吸ってみた。だが、こんなことで考えが変わるわけでもなく。

 やめだ、やめ。……いつまでたってもでない結論に、僕は素直に降参することにした。進路希望の紙を四つ折りにして、ブレザーの内ポケットにそれをしまった。


 窓の外では部活動中の生徒たちの掛け声が聞こえてくる。甲子園で惜しくも破れた野球部は雪辱を張らすべく次の練習へ。サッカー部は大会が迫っているため練習試合。吹奏楽部の音も少し聞こえてきた……こんな時間までご苦労なことだ。

 そういえば、この高校に入学して二年目となるわけなのだが、部活動は一切していないことを思い出した。なにか部活にでも入っていればこうして悩むことなどなかったのだろうか……まあ、勉強は人並みには頑張ってきたし。

 荷物をまとめ、僕は教室をあとにした。


 誰もいない学校の廊下を一人、僕は歩いていく。

 窓は夕日が差し込み、ほんの少しだけ寂しい気分にさせる。普段はきらいなはずの学校がこうもいとおしくなるのはきっとこのせいだ。だから近所のコンビニで買い食いや、少年誌を立ち読みしたくなるのだろう。後の祭り、みたいな。ほんの少しでもいいから余韻に浸っていたい、みたいな。

 少し寄り道をしたくなった。普段は下がっていく階段を、僕は上がってみた。

 

 僕の教室がある三階から上がり、文化部が集中する四階へと昇る。

 廊下の奥から吹奏楽部の演奏が響いてくる。卒業を控えた三年生を除いた一年と二年が懸命に練習を続けているのだろう。あと一月もすれば三年生として新学期が始まる。先輩になる彼らはきっと大変だ。

 それとくらべると僕は……と考えると、なんだかため息がこぼれた。

 

日も暮れて辺りが暗くなった頃、四階の突き当たりを通りがかったとき、ひとつだけ電気が点っている教室を見つけた。

スマートフォンを見ると、時刻は六時を回ったところ。部活動が許されているのは六時半まで。この時間まで練習をしているのは、珍しい部活もあるものだと思った。ほんの少し興味を引かれ、僕はその美術室へと脚を運んでみた。

 部活動の邪魔をしない程度に、教室の覗き見をしてみたくなった。表現しがたい背徳感に苛まれたが、好奇心がそれを勝った。この時間まで美術に取り組むというのは、よほどの芸術家志望なのだろうか。

 覗き見がバレた口実を考えることなく、僕は教室の扉のガラス窓から覗きこんだ。


 教室の小窓から見えたのは、美しい黒髪を下げた一人の女子高生だった。


 遠くから見てもわかるほどの髪のツヤは、蛍光灯に照らされてとても美しかった。夜になろうとする時間だというのに、その空間だけは煌々と輝きを放っていた。覗き見はよくない、だが良心よりずっと見ていたいという欲が勝ってしまった。

 僕が生きてきた人生で初めて、〝不意打ち〟というのを経験した瞬間である。

 じっと眺めていると、僕の視線に気がついたのか、その子はゆっくりと振り向く素振りを見せた。それを見て、僕は急いでその場から逃げ出した。

 そういえば、教室の窓を閉め忘れていたっけ。


 こうして僕は、下校中下駄箱に小綺麗な手紙と、野球部から脳天直撃のプレゼントを受け取ったのである。

 ちなみに手紙はラブレターではない、図書委員の本返却の催促状だった。借りていた本――タイトルがどうも思い出せない。


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