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第33話 救いの言葉

 

 テレビには今放送しているドラマのこれまでの総集編が流れている。 今日は櫻が迎えに来ると言っていたから、俺は身支度を整えると櫻が来るまでその番組を眺めていた。


 そのドラマは恋愛物で、めまぐるしい劇的な展開を見せている。 比べると俺達の恋愛なんてありふれた物だと思うが、現実にドラマの様にいかないドラマをしている俺達には、十分劇的なんだよな……。


 そんな事を思いながらテレビを見ているとインターホンが鳴る。 櫻が来たみたいだ。


「おはよう、孝輝」

「おう、おはよう」


 俺達のドラマのヒロインの一人、その女の子が立っている。


「やっぱり、現実は刺激的だな」

「なに言ってるの?」


 櫻は不思議そうに俺をみている。 俺はドアを開けて櫻を見ただけで、気持ちが高揚した感想を零した。


「さて、どうするかな?」


 当てもなく歩きながら俺が言うと、


「言ったでしょ? なんでもいいって、ただ散歩するだけでもいいんだから」


 嬉しそうに微笑む櫻。 そうだったな、別に特別な事をしなくてもいいか。


「一緒にいるだけで特別なんだから」

「………」


 そう言った櫻に心を覗かれた気分になる。 今、俺もそう思っていたから。 劇的な展開は……いらないのかもな。


「そう言えば雄也からは何もないのか?」


 ライバルだからな、やっぱり気にはなる。


「一度電話があったけど……」

「そ、そうか」

「イタズラ電話でした」


「……なんだそれ」


 顔を顰める櫻。 どんな電話だったんだろう……気になる。


「そっちは? 夏目さんから猛アタックされてるんじゃないの?」

「いや、海以来なんの連絡もないな」

「えっ? 意外だね」


 そうなんだよな、凛からは何もない。 と言ってもそんなに海から時間は経ってないが、でも、俺達にはタイムリミットがある。


「なんだか探り合いになっちゃったね」

「そうだな」


 状況的に仕方ないけどな。 それから櫻とファミレスに入って昼食を食べて向かい合っていると、櫻はストローを咥えながら俺を見ている。


「……なんだ?」

「ふふ、優柔不断な孝輝君は今どんな気持ちなのかなって」


 悪戯っぽい笑顔で見てくる櫻。


「大分余裕だな」

「余裕なんてないよ、私だって怖いもん」


 そう言うと櫻は表情を変えて話し出した。


「その日が来るのは、本当に怖いよ。 すごく嬉しい日になるかも知れないし、悲しくて花火が滲んじゃうかも知れない。 二つの涙の準備なんて不器用な私には出来ないから」


「……そうだよな」


 余裕があるなんて、そんな訳ないよな。 バカな事を言ったな、また。


「でも、選ばなくちゃいけない孝輝の立場も考えてみたら、それはそれで……辛いかなって思った」

「櫻……」

「夏目さんだっていい加減な気持ちじゃないし、私達とは違う立場で、孝輝も苦しんでるって……」


 なんだよ……そんな事言うなよ……。


「キャラじゃないんだよ、馬鹿」

「な、なにそれ!? 私だって色々考えるんだから!」


 ムキになって怒る櫻は、やっぱり櫻だったけれど、それがまた安心する。


「冗談だよ、一段と女を上げたな」

「なんか可愛くない褒め方……」


「俺だってどうなるか分からないからな」

「ん? なにが?」

「花火までのひと月で櫻を奪われて、呆れたりんに愛想を尽かされるかも知れない。 そうなったら立ち直れるか……」

「久保君にひと月は短すぎたかもね、自分で言い出したんだけど……」


 どんな電話したんだ雄也は。 しかし、自分で言っておいて笑えないエンディングだな。

 そもそも選ぶなんて偉そうだし、俺は元々櫻も追いかけていたからな、その方が性に合っている気がする。


「とにかくね、さっき言ったけど孝輝の気持ちも分かるし、恨んだりしないからちゃんと自分の気持ちに正直に、好きな方に会いに行ってね。 夏目さんだってそう思ってると思うよ」


「ああ、わかった」


 櫻なりに俺の肩の荷を軽くしてくれようとしているんだな。 その思い遣りは有難く受け取っておこう。


「うん。 今日会えて、話せて良かった」

「俺もだ。 おかげで大分楽になったよ」


 色んな状況で人は成長するんだな、櫻は大分大人になった気がする。 俺も、成長しなくちゃな。


「でも、私だよね?」

「ん? なにがだ?」

「孝輝が選ぶの」

「……お前、全部台無しだ」


 笑いながら「冗談だよ」と言う櫻を、笑えない俺がいた……。


 全く、勘弁してくれよ……。 雄也クラスのブラックジョークだ。





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